短編 | ナノ


 薄暗い部屋の中。蝋燭の光に照らされ揺らめく煙草の白煙は幻想的な雰囲気を醸し出す。
 ふかふかのソファーに深く座った私はクッションを抱き込みながら隣のジャーファルさんを横目で見た。常日頃頭に被せているクーフィーヤを取り、煙管を咥える彼は何だか別人みたいだった。

『ねえ、煙草ってどんな味?』
「そうですね…とても苦いと思います。少なくとも美味しいものではありませんよ」
『じゃあどうして吸うの?』
「それはあなたがもう少し大人になれば分かります」
『またそういうこと言う』

 彼のそういうところは少し嫌い。もう結婚だってできる年なのにジャーファルさんにとって私はまだまだ子供に見えるらしい。頬を膨らませ恨めしく視線を投げやると、彼は困ったように眉尻を下げて笑う。

「そんなに怒らないでください。…本当は疲労から逃れたいばかりに、これに頼っているだけなんです。やめようやめようと思っているのに中々やめられない。呆れてしまうでしょう?」
『…呆れたりしないよ。私、煙草吸ってるジャーファルさんも好きだもん』

 勿論最初は驚いた。喫煙している姿なんて普段の彼からは全く想像できない。でも、だからこそそんなギャップを併せ持つ彼にどんどん惹かれてしまうのだ。

『(それにしてもほんと大人だなぁ…)』

 童顔な顔立ちであるにも関わらずジャーファルさんに纏わりつくこの大人な雰囲気は煙草によるものなのか。ならば私も同じように煙管を咥えでもすれば大人に近付ける…?
 いつしか煙草が自分を大人にしてくれる魔法道具のようなものに思えてならなかった。その魅惑に取り憑かれたかのように、ジャーファルさんの口に咥えられた煙管を奪い取る。そのまま、ぎこちない手つきで自分の口へと運んだ。

 だけど、あともう少しというところで手首を掴まれる。

「あなたが吸うものじゃありません。それを返しなさい」
『何で?』
「これは毒なんです。お酒と違って一利もないんですよ」
『でも、ジャーファルさんだって…』
「ナマエ」

 声色に刃のような鋭さが加わる。そんな声で諭されたら反抗なんてできるわけがない。結局言われた通りに煙管を返す他なかった。

『大人ってズルい…』

 大人って肩書きだけで様々な事が許されてしまうのだから。私だって、もう少し早く生まれていれば…。

「……そんなに知りたいですか?」
『…え、』

 首の後方に感じたのは長く綺麗なジャーファルさんの指。ひんやりとしたその感覚に堪らず体を竦めて視線を上げる。

『…っ!』

 煙草の香りが鼻を掠めたのと、唇に暖かく柔らかいものが触れたのと、さてどちらが先だったろうか。突如真っ暗になった視界。何が起こったのかはすぐ理解できた。キス、された。
 すぐさま彼の舌が唇を割って口内に侵入してくる。角度を変えて徐々に深みを増していく、そのキスはあっという間に私から思考力を奪い取っていった。

『……ん…』

 暫くして官能的な水音とともに唇が離れた。生理的に浮かんだ涙が零れ落ちれば、ぼやけた視界も明確になる。

「ね?煙草って、とても苦いでしょう?」
『…っ』
「やはり君にはまだ少し早いよ」

 濡れた唇を親指で拭いながら薄い笑みを浮かべる。その妖艶さに眩暈がした。
 頬を真っ赤にさせた私に追い打ちを掛けるように彼は再び唇を重ねてくる。啄むようにキスを繰り返されれば、その度伝わる煙草の香り。その甘美な毒の味が暫く忘れられそうにない。


甘い毒に侵されて


―――

煙草を吸うジャーファルさん妄想したら止まらなくなりました←
とにかくジャーファルさんの色っぽさは異常…!

2013.05.08 蓮
title by 瑠璃


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