短編 | ナノ


※「真夜中哀歌」のその後。
少し大人向けな表現があるかも。





 トントン。扉をノックするその音が聞こえてきたのは夜更け頃。仕事に関する書物を側に置き、そろそろ就寝しようかとも思っていた時だった。こんな時間に誰だろうか。不審に思うも扉に近付く。
 そんな時、ふと脳内に浮かんだのは数日前夜這いに来たあの少年の顔。あれから彼とは話し合いの場を設け、私の想いをちゃんと伝えた上で断った。だからまさかとは思うが、扉の向こうの人物に向かって口を開く。

『…どなたですか?』
「私です」
『…!』

 その声が分からないわけがない。急いで施錠を外し扉を開ければ思った通り、ジャーファルさんの姿がそこにあった。

「こんな夜更けにすみません。もしかしてお休み中でしたか?」
『いえ、書物に目を通していてまだ…』
「相変わらず仕事熱心ですね」
『あなたほどではありませんよ』

 クスリ、微笑み合う二人。彼との間に流れるこの穏やかな雰囲気が心地よくて好き。
 けれど、今日のジャーファルさんはいつもとは少し違っていた。上がっていた口角はすぐさま元に戻り、眼差しは真剣なものになる。私の手はいつの間にか握られており、それを悟って間もないうちにふわりと抱きしめられた。

「暫く君とはこうしていなかった」

 彼の吐息が耳に触れる。ただそれだけでゾクリと背中を突き抜けるような感覚に体が震えた。彼は少し体を離すと、射抜くような瞳で私を見つめてくる。

「これから、いいかな」

 その言葉の意味が分からないほど野暮ではない。分かった上で私は静かに頷いて答える。すると、それを待っていたかのように彼は私の唇を己のそれで塞いだ。





『その…何かあったんですか?』

 行為のあと暫くして、私は思い切って尋ねた。しかし彼はすぐにはその問いには答えず、切なげに眉を下げる。

「君の体に負担を掛けてしまったかな。すみません、何度も求めてしまって」
『謝らないで…あなたに求められて嫌な筈ないじゃない』
「ナマエ…」

 目を細めた彼は手を伸ばし、私の頭を優しく撫でる。それだけで得られる安らぎに私は目を閉じた。けれど…、

「アリババくんがね…」

 その瞬間、ドキリと心臓が跳ねた。

「私に言ったんです、ナマエさんをくださいって」
『……アリババくんが…』
「マスルールやシャルルカンがいる前でですよ?それはもう驚いたよ」
『…それで、あなたは何て?』
「勿論周りの目もあるから軽く受け流しておいたけれど………正直虫唾が走ったよ」

 突如声のトーンが下がる。何より意外なその言葉に驚かずにはいられない。見上げれば、唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべるジャーファルさんの顔が目に入った。

『もしかして、嫉妬?』
「……そうですね、嫉妬です」
『珍しい…あなたが嫉妬なんて』
「だって悔しいじゃないですか。ずっとあなたを想ってきたのに、突然現れた王子様にさらっていかれるだなんて」

 私だって嫉妬ぐらいします。少し不機嫌そうに呟いて、私の頬にそっと触れる。その時の彼の表情はどこか悲しいものだった。

「それから怖くなったんです、君の心が私から離れていくんじゃないかと」
『ジャーファルさん…』
「自分の中にこんな幼稚染みた感情があるなんて思いませんでしたよ」
『……幼稚染みてなどいません。私は嬉しかったですよ』

 私の言葉に一瞬目を丸めるも目を細めて柔らかく笑う、そんな彼を見て思う。やはり私は好きなのだ。幸せそうに笑うあなたが。

真夜中愛歌
あなたが好き


―――

年上のジャーファルさんにも攻められたい…!←
「真夜中哀歌」にてアリババくんから想いをぶつけられても、ヒロインは長い間想ってきたジャーファルさんの方を迷わず選びました。それでもどこかすっきりしない甘さになってしまったのはやはりアリババくんのことがあるからかなぁ…。
次は幸せなアリババくんのお話も書きたいです!

2013/02/10 蓮

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