同じ空の下で | ナノ


一方、時代は変わり戦国時代。こちらも本日真夏日。ただ現代とは違ってクーラーも扇風機もないために暑さの影響をモロに受け、七人隊の面々はやつれ果てていた。


「アヂィ…アヂィよォ!」
「煩ェよ蛇骨。余計暑くなんだろーが」
「だって暑いモンは暑いんだよぉ!そりゃあ、煉骨の兄貴は頭涼しくていいかもしんねーけど」
「ンだと……。」


反射的に声を荒げつつも、それ以上は何も言わない。全てはこの暑さのせいだ。
一方で蛮骨もはだけた着物を指で摘み、何とかして外気を取り込んでいる。しかし、それもただの気休め。彼の苛立ちは遂に頂点に達した。


「おい煉骨、この暑さ何とかしろよー…!」
「何とかって、そんな無茶な…。精々水撒くぐらいしかできませんよ」
「じゃあ、それとっととやれよ。ったく、頭良くても気は効かねーな」
「……」


蛮骨の言うことは絶対。
逆らえるはずなどない。
本当は心中蛮骨を罵る言葉で溢れ返っているのだが、ここは大人。素直に重い腰を上げ、庭に出ようと襖に手を掛けた。


その時だった。廊下の方からドタバタと騒がしい足音が聞こえ、煉骨は眉を寄せる。


「唯か。ったく、廊下は走るなと何度言ったら分かる…ンギャアァ!?



ズボッ。大きな音をたて、二本の腕が障子を突き破って出て来た。その様は正にホラー映画のワンシーン。
またその腕は煉骨の心拍数を上昇させるだけでなく、そのまま胸部にクリーンヒット。
極めつけに、がたついた襖が一枚、胸痛に耐え疼くまっていた煉骨の上に倒れこんでフィニッシュ。
ほんの数秒の出来事。――の末に煉骨が受けた心身ダメージ、計り知れず。



「「「「………」」」」


居間にいた煉骨除く蛮骨ら四人は状況を掴めず、暫く呆然としていた。
悲鳴が聞こえたかと思えば、振り向いた先には既に煉骨の姿はない。代わりにそこにいたのは唯。彼女は何故か障子に両腕を突っ込んだまま、襖に張り付いて俯せに倒れていた。








*

「幽霊ィ!?」


その後。当然の如く唯は煉骨からこっぴどく叱られ、言い訳にと聞いた話をそのまま伝える。一同は静かに聞くが、話終えると途端に蛇骨が口を開いた。


「何で百年単位なんだよ」
『それはあたしも分からないけど…。とにかく!幽霊は百年に一度しか出ないから、この時代は安全よ』
「……つーか、おめぇ幽霊が怖ェのか。だっせーの」
『何よ蛇骨。アンタは怖くないっての?』
「へっ、そもそも幽霊なんざいるわけねーし」
「蛇骨の言う通りだ。必要以上に怖がるから見えねーモンも見えるようになんだよ」


冷静な顔付きでそう言う蛮骨の手にはいつの間にか長方形の薄い紙切れが六、七枚握られていた。
それらを並べて作った紙の扇子でパタパタと扇いで涼んでいる。
ただ、よくよく見ると、その紙には黒い模様と草書体の文字がつらつらと綴られていたのだ。


「大兄貴、その紙は…」
「んあ?これか?奥の押し入れの戸にびっしり貼られてあったんだけどよ」


蛮骨は手に持つ紙を皆に分かるように広げて見せる。
その紙が何なのか。理解した途端、皆の顔から生気が失せていった。


『も…もももしかして、これは…』


蛮骨が持っていたのはお札だった。中心には草書体で“悪霊退散”の文字。今までの話を考えれば、一々悩まずともそれが何のためのお札なのか直ぐに分かる。


「おい、ちょっと待てよ。それ剥がしちまったらやばいんじゃねぇの!?」
『やばいよ、これ絶対幽霊の封印か何かでしょ!?何剥がしてんの!!』


唯と蛇骨は互いに怯えた表情でぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。しかし蛮骨は相変わらず表情一つ崩すこともなく、鼻を鳴らして笑って見せた。


「へっ、何が幽霊だ!そんなもの、この蛮骨様が退治してやらァ!」




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