同じ空の下で | ナノ


『ジャーン!!』


突如開いた襖から姿を現したと思えば、途端に茶色の物体が盛られた皿を差し出す唯。照れ臭そうに頬を染める彼女に七人隊の面々は首を傾げた。




死亡フラグが立ちました!





『今日のために張り切って作っちゃいました!』
「何だこれ、ウン……ブフォ!」

見たままの感想を素直に口にした蛇骨の頭に唯の手刀がガツンと振り下ろされる。

『食べ物の前ではしたないこと言わないの』
「ハァ?この茶色いのが食いモンってか?」
『そう、チョコって言うお菓子。今日はこのチョコを男子に配る日なんだよ!』
「へぇ、んでこれをお前が作ったと?」
『イエス!』


食べて食べてと目を煌めかせる唯。
だが、七人隊は唯が作ったというだけで一斉に顔を青くした。彼らの中で彼女の手料理はロクでもないものとして定義付けられているためだ。


「あ、俺さっき菓子つまんで腹一杯だから」
『え、ちょっと蛇骨!』
「俺菓子はあんま好きじゃねーし」
「右に同じく」
『睡骨…煉骨まで!…蛮骨は?食べるよね?』
「……」


蛮骨に至ってはあからさまに嫌な顔をし、無言で圧力を掛けてくる。
この場に唯の手作りチョコを食したいと思う者は一人とていなかった。

暫くして唯は俯き、もういいよと一言呟く。その言葉に皆は救われたと心底安堵した。
――しかし。


『みんな大っ嫌い!!』


荒い声色で紡がれた言葉には流石に誰もが驚き振り返る。さすれば涙を溜めて体を震わす唯にはたまた仰天。声を掛ける間もなく、彼女は居間を出て行ってしまった。





「――とまぁそういうわけだ」


あの後、蛮骨等は犬夜叉一行へ助言を求めに赴くことにした。
何しろ唯があれ程までに怒ったことは初めて。現代に帰ってしまった唯を連れ戻そうと手を尽くすも返り討ちに遭い、犬夜叉達に借りを作るのは不本意ではあったがもうこれしか打つ手が見つからなかった。


「非はあなた達にありますよね」
「何だよ生臭坊主」
「誰が生臭坊主だ、吸い殺すぞテメェ。
…ったく、おなごが精を込めて作った料理をむげに扱うなど私には到底理解出来ません」
「そりゃおめぇ、あいつの料理の恐ろしさを知らねぇからだ」


一斉に顔を青くする蛮骨等に一行は困ったように顔を見合わせる。
だが、ちょうどその時かごめが姿を現した。どうやら今まで現代に身を寄せていたらしい。


「あら、蛮骨達がいるわ。珍しい」
「遅っせーぞかごめ!」
「ごめーん、チョコ作りに手間取って…!」
「!?」


かごめの口から出てきたチョコという単語に誰もが驚く。そのチョコこそが今回の騒動の火種であるからだ。

その後はかごめを含め、再び議論は交わされる。


「サイテーね、アンタ達」
「んなっ!」
「今日は大切な人にチョコを渡す日なのよ?唯ちゃんはきっとアンタ達に喜んでもらいたくて一生懸命作ったの。それをアンタ達は…!あー腹立ってきた!!」
「お…落ち着きなよ、かごめちゃん」


憤り立つかごめは珊瑚により宥められ何とか落ち着いたものの、結局犬夜叉サイドはほぼ全員一致で七人隊が悪いという結果を導き出したのだった。





「大切な人に贈る菓子…か」


自分達の住処へと続く帰り道。
かごめから聞いたバレンタインという習慣の意義に色々と考えさせられることがあったのか。皆それぞれが表情に反省の色を浮かべている。


「知らなかったとはいえ悪いことをしたな。大兄貴、これからどうします?」
「……とにかく、とっとと帰るぞ」


皆より一歩先を歩く蛮骨の表情はよく見えない。
ただこの時、蛮骨の心中にはある決意があった。


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