その後、メイド喫茶を出たあたし達は犬夜叉達とも別れ、寺へ向かってのんびりと歩いていた。あれから結構時間が経つのに笑いは止まらない。
「『ヒーッヒーッ…!』」
「唯に蛇骨、てめェらいつまで笑ってる!それから指差すな!」
「まさかおめェらにそんな趣味があったとはなァ」
「大兄貴!違いますよ、あれは無理矢理誘い込まれて…」
煉骨は必死で弁解する。睡骨は全てを諦めたのか、能面のような表情で黙ったまま。二人の頭には未だに猫耳カチューシャが輝いていて、その姿は相変わらず抱腹絶倒もの。だけどそれでも皆無事なことには変わりない。ようやく心から安心できたのだった。
『本当に寿命が縮む思いだったんだからね!』
「俺ァ楽しかったけどな。普段見られないもンも見れたし。なァ、煉骨」
「……勘弁してください」
『アンタ達反省してる?』
人の気も知らないで、ホントお気楽な人達。
でもふざけあってる皆を見て、いつの間にか笑みを浮かべてる自分に気づいた。
いつも戦いのことを考えてる皆も今は気を緩めて、自然体でいられてる。それを考えれば、こうやって馬鹿やるのも悪くないのかな。何だかんだ言ってあたしも楽しんだし。
「なァ、唯」
『ん?どうしたの、蛮骨』
「おめぇ、この国が好きか?」
『…え?』
突如予想にもしないことを聞かれて驚いた。どうしてそんなこと…。
変だと思ったけど、蛮骨の目は至って真剣で。あたしが生まれたこの時代のこと、改めて考えた。
『そうねぇ、こっちは便利だし居心地もいいし。……でも、皆が居なきゃつまんないじゃない』
「つまんない?」
『ほら、前に蛮骨言ってくれたでしょ?あたしの居ない生活はつまんなくなったって』
「…あぁ、そう言えばそうだったな」
『あたしだって同じだよ。皆の居ない生活は物足りないの』
非日常は当たり前で、日常なんてつまらない。いつの間にか七人隊はあたしにとって大事な居場所になっていた。そのことを伝えれば、蛮骨は「そうか」と笑う。
「じゃあ、嫁に来るか?」
『……は?』
あまりの衝撃に顎が抜け落ちるかと思った。今、嫁に来いって言われた?何故このタイミングで?そもそも何故そんなことを!?ちょっと待てよ、それともあたしの耳がおかしくなったのか。
『今何て?もう一回言ってよ!』
「あ、何だありゃ!」
『聞こうよ』
チッ、うまいことはぐらかしやがった。それからもしつこく聞き続けたけどやっぱり駄目で。諦めて蛮骨が指差す方を見ると、プリクラ機が目に入る。……そう言えば皆と写真撮ったことなかったっけ。
『よし…、撮ろ撮ろ!』
頭に疑問符を浮かべる皆の背中を押し、プリクラ機へ向かう。この後あたし達は現代での一時を満喫し、最悪で最高な一日は終わりを迎えたのだった。
*
すっかり日が落ち、街のネオンが闇夜に浮かぶ。唯達がプリクラを撮って楽しんでいたその頃、寺には不穏な空気が漂っていた。
寺の奥に存在する居間には見慣れない女の姿がある。茶色の長髪に、顔立ちはどことなく唯に似ている。当たり前と言えばそれまで。何しろその女、一ノ瀬類は唯の実姉なのだから。
類は暫く茶を手に居間でくつろいでいたが、時計の短針が7を指したことを確認すると立ち上がった。
「さて、帰るかな」
「えっ、でももうじき唯も帰るわよ?それにご飯も…」
「ごめんね、お母さん。この後用事があるの」
「類ちゃん」
「ま、よろしく伝えといて。勿論、貸した洋服のこともね?」
そう言って悪戯に笑うと、部屋の襖を開けて帰路につき始める。しかしふと思い出したように立ち止まっては母に向かって笑いかけた。
「そうそう昼間に会ったあの男の人達にも伝えといてよ!また会えるのを楽しみにしてるって」
「……っ!」
彼女が発した言葉に母は息を呑む。その額には冷や汗が浮かんでいた。どこかおかしい母の様子を目にしながらも類の表情は変わることはない。笑顔、しかしながらどこか気味悪さが残る、そんな笑顔だった。
類は終始笑顔のままにこやかに手を振り、居間から出て行った。しかし、その後暫く類の顔から笑みは消えることはなく…――、
「本当、楽しみ」
ポツリと不気味な独り言を零し、闇夜の中へ溶け込んでいったのだった。
To Be Continued...
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