やってみなきゃ分からない。豪語したはいいが、実際どうやって封印をとけばいいのか見当もつかなかった。犬夜叉と違って胸に矢が刺さっている訳でもない。どうすれば…、どうすれば封印を解ける?
「…よし!」
先ずはと思い、水面に触れてみた。当然水面は乱れ、小さな波紋が生じる。小さな波紋は徐々に大きな円となり、滝壺全体に拡がっていった。
だが流石にこれだけでは変化は起きず、今度は滝壺の中に入ってみる。足を踏み入れれば、ひんやりとした冷たさが気持ち良かった。しかし思ったより水温が低い。
「死んでないわよね?」
彼女の肌は真っ白。今更ながら安否が気になり始め、体に触れようと恐る恐る手を伸ばす。その時、
「きゃ…」
突如ゴボッという音が頭に響いた。同時に全身に感じた冷気。自分の身に何が起こったのか、理解するのに数秒を要した。
どうやら巫女に触れた時何かに引っ張られ、水面下に引き込まれたよう。
「(目を覚ました!?)」
なんて期待したけど、状況は相変わらず。流石に諦めの色が浮かび始める。
しかし、かごめの霊力は少なからず巫女に影響を与えていたらしい。その証拠に彼女の睫毛が微かに動いた。
「…!」
微かだが、兆しが見えた。だから必死に心中で訴える。目を覚まして、息をして、生きて…と。そうして長いこと巫女に対して念を込め続けていると、自分の身に微かな変化が起き始める。
「(何だろ、懐が温かい)」
懐にあるものとしては小瓶に入った四魂のかけらのみ…。まさかと思いつつ確認してみれば、煌々と輝く紫色の光が目に入る。四魂のかけらはかごめの思いに反応するように光り続けていたのだ。懐から出せば、一層輝きを増す。そして…、
ドクンドクン、とどこからか心臓の鼓動が聞こえ始めた。四魂のかけらに共鳴するように。静かに、しかし力強く…。
そして、遂にその時が来た。
賽は投げられた
ドーン
「…っ!?」
突如響いた激しい地鳴り。今まで傀儡と戦いを繰り広げていた一行は思わず手を止め、息を呑む。
滝壺を満たす水は激しく跳ね上がり、一つに纏まって天まで届いていた。その様は例えるなら水の柱。
「ククク、目を覚ましたな葵」
奈落は声を上げて不気味に笑った。よく見たところ、水の柱の中には女の姿がある。それは巫女葵に違いなく、目をしっかり開いて奈落を睨みつけている。どうやら封印は完全に解かれたようだ。
天まで続く水はまるで生きた龍のように動き始め、奈落へ襲い掛かる。一方で奈落は防御は疎か身動きすらしない。結果、水の龍は奈落の胸部を綺麗に貫通し、そのまま天へ昇って姿を消したのだった。
急所の胸を突かれたことで傀儡の術が解け、奈落の体は呆気なく崩れ去る。
そして再び訪れた静寂。
「…かごめっ!」
未だ動揺は収まらずも、急いで滝壺へ駆け寄る。そこには倒れた葵とそれを支えるかごめの姿があり、犬夜叉はホッと一息ついた。
「かごめ、大丈夫か?」
「ええ、あたしは平気よ」
「…女も無事か?」
「気を失ってるみたい。でも、さっきよりずっと穏やかな表情だわ」
初め、封印され眠り続ける彼女の表情はどこか悲しげに思えてならなかった。だけど、少なくとも今は穏やかに見える。
「…よかった」
眠る巫女を見て、かごめは静かに微笑むのだった。