桜色の約束 | ナノ


かけらの気配がもうそこまで来たかという頃、木々の隙間から竜巻が確認できた。恐らくあれが超速の気配の主だろう。
竜巻がこちらに向かってくるのを確認した犬夜叉は遂に腰の刀に手をかける。後ろでかごめは慌てて彼を宥めた。

「もう喧嘩しないでよ!」
「うっせぇ!今日こそあの野郎の足の四魂のかけらを切り出して…ギャン!」

犬夜叉の言葉は森の奥から現れた竜巻によって突如遮られる。竜巻は犬夜叉をいとも容易く踏み倒し、かごめの前で威力を弱め消失した。すると、忽ち現れ出でたのは鎧と狼の毛皮を纏った若い男。

「元気にしてたか、かごめ」
「え、ええ。鋼牙くんも元気そうね」
「て、てめ…こうが!」

犬夜叉は未だ地面にめり込んだまま。傍から見れば、かなり情けない姿。鋼牙と呼ばれた男は鼻を鳴らして笑う。

「いたのか犬っころ」
「てめ…ぶっ殺…!」
「おすわり!」
「フギャ!」

『……、何だあれは』

三人のやり取りを暫く静かに観察するも、馬鹿らしいとしか言いようがない。呆れつつ近くにいた弥勒に問いかければ、爽やかな笑顔で「お気になさらず。阿呆が移ります」と酷い言葉がさらりと返ってきた。

「「誰がアホだ!」」
「おや、聞こえましたか」
『…お前達、芸者か何かか?』

あまりにも息のあった漫才の様なやり取りを繰り広げるので、思わず笑いを含めた溜息を漏らす。その時であった。鋼牙と目が合った。彼は警戒しつつも、私の顔をじっと覗きこむ。

「いつもと違う匂いが混ざってると思ったが、見ねー顔だな」
「その人は葵さんよ。私達も今しがた彼女と出会ったばかりなの」
「ふーん?」
「あ、葵さん。この人は妖狼族の鋼牙くんよ」
『妖狼族か、聞いたことはある。お前も犬夜叉の仲間なのか?』
「「仲間じゃねぇ!!」」

間髪入れずに否定する犬夜叉と鋼牙。その威圧に少しばかり圧倒された。どうやらこの二人の仲の悪さは折り紙つきらしい。

『そ…そうか、分かった。ではもう一つ聞きたいのだが、何故両足に四魂のかけらを仕込んでいる』
「…おめーも四魂のかけらが見えるのか。こいつは奈落を倒すために必要なんだよ。渡せって言っても渡さねぇぞ」

かけらを奪われるとでも思ったのか、鋼牙は警戒する様に後ずさる。しかし、私は四魂のかけらになど興味はない。ただ、奈落が犬夜叉一行だけでなく鋼牙の様な妖怪とも関わりを持っていたことが少し意外だったのだ。

『奈落も様々な輩に恨みを買ったものだな。安心しろ、奪いはしない』

私の言葉に不審を抱いたのか、彼は眉を寄せる。だが、四魂のかけらに関心がないと察したようで、次第に落ち着きを取り戻していった。

「ま、なら構わねーけど。…あ、そうだ。奈落と言えばおめーらに聞きたいことがあったんだ」
「はぁ?何も教えてやんねーよ、ぶあぁーか!」
「犬夜叉!」
「フン、奴の手掛かりを掴んでるって言ってもか?」
『…!』
「…何だと!?」

奈落の手掛かり、それを手中に収めていると言う鋼牙は僅かに口元を緩ませる。しかしながら次の瞬間には神妙な面持ちを取り戻し、この場にいた者達にも切迫をもたらす。

「昨日のことだ。俺は死人と墓土の匂いがする亡霊とやらと戦った」
『…亡霊?』

鋼牙の口から紡がれたその単語に胸がざわつく。亡霊などと浮世離れした存在を聞かされたからだろうか。その真意は定かではない。ただ、今は胸騒ぎなど気にも留めず、静かに鋼牙の話に耳を傾けた。


不穏と胸騒ぎ


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