log (〜2012) | ナノ


最年少で七人隊の首領。今まで六人の弟分達を腕っ節で纏めてきた。力なら誰にも劣らねぇ。
けど、そんな俺にも悩みがある。それは、


「本当に可愛いなァ、蛮骨の大兄貴」


ある日の午後、廊下を歩いていた俺に届いたその声。振り返ると蛇骨の姿がそこにあった。うっとりとした表情で俺を見つめている。正直なところ、この表情を向けられると毎回背筋が凍る。


「気色悪ィこと言ってんじゃねぇよ」

「だって本当のことだもん」

「…あのなぁ」


可愛いとか言われても全然嬉しくねぇ。しかも男にだぜ?


「ったく、俺のどこが可愛いってんだ」

「ん…、そうだなぁ」


蛇骨は俺をじっと見る。そして一言。


「ちっちゃいところとか?」


その時、俺の胸に何かがグサリと刺さった。


「腕の中にすっぽり収まるこの大きさ、堪んねぇよなァ」


蛇骨は目を輝かせ、語り始める。
分かってはいるんだよ。別に悪気があって言ってる訳じゃないって事は。蛇骨とは一番付き合いが古いから、こいつの性癖は嫌と言う程知ってる。今更怒ったところで改善されることはないだろう。だから俺は一つ溜息をつき、蛇骨を置いて再び廊下を歩き始めた。



俺の悩み、それは身長。見て分かるだろうが、俺は七人隊の中で霧骨に次いで身長が低い。凶骨は例外だとしても、蛇骨達と比べると一頭身以上差がある。
俺が格別低い訳じゃねぇ。あいつらがでかすぎるだけだ。
…別に、あいつらより背が小さかったとしても何ら不便はない。今までは大して気にしなかったし、いつまでも悩むのは性にあわねぇ。だけど――



『蛮骨!』


自分の名を呼ぶ、その女は名前。俺の女。
振り返るとあいつが廊下を走って来ていた。俺の前へたどり着くと勢いよく抱き着く。その小さな体をしっかりと受け止めると、ふと笑みが漏れた。


「走らなくたって逃げやしねぇよ」

『だって早くこうしたかったんだもん』


頬を赤く染め、ギュッとしてくる。
本当に可愛い奴。愛しさのあまり無意識に手が伸び、名前の頭を優しく撫でてやると、照れたように笑う。



俺が身長だなんてちっぽけな事を気にしだしたのは多分、こいつのせいだ。名前に惚れてからというものの、自分の短所が気になって仕方ねぇ。
それは、惚れた女の前ではいつも完璧な男でありたいと思うから。いつも、いつでも、いつまでも俺を見ていて欲しいと思うから。
だからだ。向上心を持てば持つほど、いつもなら気にならない悩みも重大なことのように思ってしまう。
情けねぇとも思った。名前に惚れたからといって自分の短所を気にするなんて。だけど、それだけ俺が名前を愛してるってこと。



突如、名前の腕の力が弱まった。そのまま顔を上げ、真っすぐ見つめてくる。
だからやべーって…。
この顔に何度理性を打ち砕かれそうになったことか。それでも必死に堪え、何とか平然を装う。


「どうした」

『蛮骨、ちょっと身長伸びてない?』

「そうか?」

『うん』


名前は一つ頷き、何故か不機嫌になる。


「何怒ってんだよ」

『だって』


消え入りそうな声で呟いては俯く。その時、名前の顔は真っ赤に染まっていた。

不機嫌になったり、恥ずかしがったり…一体何なんだよ。女心っつーのはたまに理解し難いところがある。まさか何か悪いことをしてしまったのか…と考えていた、その時だった。
名前が俺の首の周りに腕を回す。同時に背伸びをし、顔を近付けてきた。これには流石に平常心を保ってはいられない。


「おい!何を…」


最初こそ抵抗したが、目を細めて顔を近付けてくるその表情が色っぽくて、気付けば俺も目を閉じていた。だけど中々触れてはくれず、もどかしくなって目を開ける。
名前の唇は重なる寸前で止まっていた。結局触れることなく離れていく。


『やっぱり届かないや』

「名前、一体どうしたんだよ」


目を伏せ、悲しそうに呟く名前に意を決して問いただす。すると彼女は揺れる瞳に俺を映し、口を開いた。


『蛮骨が大きくなっちゃったら…あたしから口付け、出来なくなるよ?』

「え…」

『そんなのやだよ』


何てこった。惚れた女のその一言は俺の悩みを一瞬にして消しちまった。


『だからね、もうこれ以上大きくならないで?』


着物を掴んで必死に訴えかける、そんなお前見てると何だかいじめたくなんだよな。


「悪いがそれは約束出来ねぇな」

『え…』

「俺ァまだ十七だぜ?いくら望んだって伸びるに決まってらぁ」


悪戯に笑うと名前はシュンと落ち込んだ。


「ま、でも――」

『わっ…!』


名前を抱え上げ、その腰に腕を回す。必然的に名前が俺を見下ろす形になった。


「こうすりゃお前からも出来んじゃねーの?」

『…っ!』


段々と赤くなる頬。その照れた顔も大好きだ。



コンプレックス


君さえいれば
 短所も長所に...



(でも不意打ちはできないよね)

(不意打ちなんざ十年早ぇ!)



fin.



2011/8/10

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