log (〜2012) | ナノ


『もう行っちゃうんだ』

慣れた手つきで鎧を身に纏うその姿を見ていると、侘しさが篭った言葉が自然と口に出た。
蛮骨と過ごせる時間はあと僅か。七人隊がまたもや戦に駆り出されることになったからだ。どうして傭兵の男を好きになってしまったんだろう。こんな時、決まっていつも考える。考えたところでどうにもならないし、蛮骨を好きだという事実も曲げられないのだけれど。

「んな顔すんなよ。いつものことだろ」
『だけど、今回の戦は特に長引くんでしょ?煉骨が言ってた。一人でお留守番は寂しいよ』

私も連れていって…なんてそんな我が儘、言えるわけない。足手まといになるのは目に見えてるもの。ああ、武術や剣術何でもいいからやってればよかった。そしたら皆と一緒に行ける。こんな思いをしなくていいのに。

「何で戦う術を学んでこなかったんだろう」
『へ…?』
「そしたら私もついていけたのに…ってか?」
『なっ…!』

蛮骨が不意に口にした言葉は私の心情そのもの。もしかしたら読心術が使えるのではないか。だなんて馬鹿げたことを本気で考えた。

「ブッ…ククク、図星かよ」
『…は?』
「本当に分かりやすい奴だな、おめぇは」
『…っ〜!もう、意地悪しないで!』
「まぁ、そんな怒んなよ。…けどな、名前。あんな危ねぇ場所におめぇを連れて行く訳にはいかねぇ。分かるだろ?」

暫く続いた爆笑の後、不意に真剣な顔を見せた蛮骨。私は思わず息をのむ。

「ほんの七日だ。あっという間に終わる。だから、それまで…な?」

頭の上にポスンと手を乗せ、優しい声で言い聞かされれば返す言葉は「うん」しか見つからない。
会えない寂しさを顔に出してしまう、そんな自分が子供に思えてきて腹がたった。本当は寂しい顔ひとつせず、気丈に送り出してあげるのが一番だ。それは分かってる。でも、やっぱり寂しいものは寂しい。一方蛮骨は強い人だし、寂しいだなんて感情もきっと持たないんだろうけど。ああ、そんなことを考えてたら更に気分が落ち込んでしまった。何自分で墓穴掘ってるんだ。

「じゃあ、そろそろ行くな」
『うん。気を付けて』
「おう」

…可愛くない。何でこんなことしか言えないんだろう。またもや自己嫌悪に陥る、どうしようもない私。
それでも彼が行ってしまう前に、ちゃんと顔見て笑顔で言ってあげなきゃ。「いってらっしゃい」って。そうしてモヤモヤした気持ちを振り払うと、蛮骨の方へ振り返えるため畳の上に置いた手に力を込めた。

だが、その時。私が振り返る前に後ろから彼の両手がまわってきた。その手で私の両頬を包みあげたかと思えば、不意に力を入れ、ぐいっと顔を天井へと向かせる。
そして次の瞬間。突然視界が真っ暗になり、私の唇に彼の唇が押し当てられた。

『んっ、…っ!?』

数秒間の口づけの後、唇が離れてからも私は顔を天井に向けたその態勢で固まったまま。まさかこの状況で、上から口づけを落とされるだなんて全く予想してなかった。

『ば…蛮骨』
「これでまた、頑張れそうだ」

固まった私に柔らかく笑ってそう言うと、後ろから私の体を抱きしめる。耳に彼の息が触れて、もうそれだけで顔が熱くなる。

「なるべく早く終わらせて帰ってくる。俺もおめぇに会えないのが一番辛ェ」
『…っ!』
「行ってくるな、名前」

ちゃんと笑顔で送り出したいのに、真っ赤に染まってしまったこの顔では彼に見せることすら叶わない。
暫くすると、背後から襖が開く音とともに「くれぐれも浮気すんじゃねぇぞ!」だなんてデリカシーのない言葉が飛んできて。私はというと、頬を真っ赤に染めたまま、相変わらず可愛いげのない台詞を小さく小さく呟いた。

『…馬鹿。早く行っちゃえ』


直視できない、理由ゆえに
素直になれないのです。

(うおーい!おっせーぞ、大兄貴ィ。…ってか何でニヤけてんだよ)
(ヤベーぞ蛇骨。名前のやつ、マジで可愛い)
(うわっ、お惚気かよ)
(なァ煉骨、今回の戦やっぱりナシってことには…)
(なりません)

fin.

2012/05/01
title by Seventh Heaven

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