迷子達のユーフォリア | ナノ

 2年生になると部屋も変わるらしい。
 修了式が終わりアラジン達と別れたわたしは新しい部屋を訪れていた。ルームメイトに挨拶も済ませたし、あとは授業に備えて準備をするだけ。早速ベッドに腰を掛けて新しいカリキュラムに目を通す。
 しかし、どうにも内容が頭に入ってこない。理由は…多分さっきの修了式のことだろうなぁ。ふう、と息をついてベッドに横たわる。

『(ティトス・アレキウス、かぁ…)』

 修了式で首席として紹介されたのがそのティトス・アレキウスだった。首席はアラジンだと確信していただけに違う名前が呼ばれた時は驚いたけど、その首席が昨晩バルコニーで出会った少年だったことにはもっと驚いた。驚きのあまり、話しかけてきたスフィントスをことごとく無視してしまったくらいだ。(この後スフィントスが暫く膨れっ面だったのは言うまでもない。)
 壇上に立ったティトスは凛とした面持ちで生徒達を見据えていた。昨晩と同じように彼のルフはざわめいて、その時わたしは確信したんだ。ティトスは他の魔導士達とは何かが異なっている。それが何かはまだ分からないけれど、

『(同じ学年ならまた顔を合わせるよね)』

 次に会った時は話ぐらいできるかな。あの時泣いていた理由も気になるし…。
 そのようなことをぼんやりと考えながら重い体を起こした、その時だった。

「ほう、確かにこの部屋は多少マシのようだな」

 勢いよく扉が開き、男二人がズカズカと部屋内に入ってきた。ちょうど扉の近くにいたルームメイトの女の子は乱暴に首根っこを掴まれて早々部屋の外につまみ出されてしまう。

「おい、そこの女!貴様も早く出ろ!」
『ちょっと、いきなり何?』
「ここがこの粗末な寮の中では一番広くてマシな部屋だと聞いた。だからここはティトス様の部屋だ。貴様らは出ていけ!」
『ティトス…?』

 聞き慣れたその名に眉を寄せたその時、大股でこちらへ向かってくる男の肩越しに淡い金髪が見えた。

 ――ああ、あの人だ。

『ティトス・アレキウス…』

 無意識に名を口にした瞬間、男に胸ぐらを捕まれる。

「何をしている、早くしないか!」
『……』
「何だその目は…!文句あるのか?」
『……その喧嘩、買った』
「あ?う…うわぁぁぁっ!」

 人差し指をクイッと曲げてやると小さな竜巻が生じ、男はいとも容易く部屋の外にはじき出された。

『失礼にも程があるんじゃないの?』
「なっ…き、貴様…!」
『謝って』
「何だと…?」
『わたしのルームメイトに手を上げたことを詫びなさいって言ってんの』

 どうやら言葉で諫めても無駄らしい。まだ文句を言いたそうな顔をしていたため、致し方なく力魔法を込めた杖で床を叩く。力を入れ過ぎたようで床に大きな亀裂が入ってしまったけれど威嚇にはこれくらいで充分だろう。

「ヒッ…!お、おのれ庶民風情が…!」
「もういい」
「ティトス様…!しかし…」
「ボクが一声上げれば上質な部屋くらいすぐに用意されるだろう」
『……』

 まさかこんな険悪なムードの中で対面するとは思わなかった。不敵な笑みを浮かべてこちらに向かってくるティトスに負けじと鋭い睨みを利かせる。

「…ふぅん?」
『な、なによ』
「君が青蘭だね?驚いたよ。まさかこんなに面白い子だったなんて…」
『…?』
「ねえ、ボクの友人にならないかい?」
『…はぁ?』

 つい素っ頓狂な声が出た。何故この状況で友達になろうだなんて言葉が出てくるのか。その真意は分からないけど、人を舐めるような目付きで見てくるティトスに何だか無性に腹が立った。

『ちょっとアンタね…』
「青蘭さん!」

 聞き慣れた幼い声が聞こえてきて、喉まで出かけた文句をグッと飲み込む。振り向けば思った通り、アラジンとスフィントスの姿がそこにあった。二人だけじゃない、いつの間にか周りには同期の魔導士達まで集まっている。

「ああ、君がアラジンか」

 ニタリと意地悪な笑みを浮かべたティトスはアラジンに近寄り手を差し出す。そして、ものの何秒か前にわたしに言った言葉をアラジンに対しても言い放った。

「君もボクの友人にしてあげよう」
『…!』
「ボクの他にも優秀な魔導士が一人いるとは聞いていたよ。他の生徒は全く見込みがないけどね」
『なっ…』

 ぶちん。これには堪忍袋の緒が切れた。どうして誰も何も言わないんだろう。ここまで見下されているのに同期達は俯いてグッと耐えている。スフィントスでさえ文句ひとつ溢さないのだ。納得いかない。誰も言わないのならわたしが言うまでと思い切って足を踏み出す。しかし、すかさずスフィントスに腕を掴まれ引き止められてしまった。

『何よ…!』
「あいつはアレキウス家の人間だぞ!アレキウス家といえばレームのものすげえ名家じゃねえか!」
『だから?』
「だからって…」
『支配階級の人間だから人を見下していいって言うの?わたしはそうは思わない』

 アラジンだってきっと同じ気持ちだ。あんな人の手を取ったりはしないはず。心からそう信じていた。だからアラジンがティトスに向かって手を伸ばした時は絶望を覚えた。

『…っ、アラジン…!』

 そんな、どうして?
 拳を固く握ってアラジンを見つめる。

 しかしアラジンの手がティトスの手を握ることはなく、何故かそのまま通り過ぎていった。そして――、

『…え?』

 疑問、のち、唖然。
 アラジンはティトスの胸を揉んでいた。これにはみんな口をあんぐり開けて固まる他ない。

「あれれ?やっぱりなかったや…。君、声も高いし何だかお尻も大きいからてっきりおねえさんだと思ったんだけど…もしかしておにいさんなのかい?」
「……」

 そりゃあポカンとするよ。小さな男の子にいきなり乳揉まれたかと思えばガッカリした顔されるんだもん。周りは必死に笑いを堪えていたけれど、スフィントスが耐えられず吹き出したことで徐々にその場は笑いに包まれる。

『えっと…』

 この変な空気は一体どうすれば…。何だかティトスが段々不憫に思えてきた。

『あの、ティトス…?』
「………ろす…」
『え…』
「っ…殺す!!」

 さっきまでの高圧的な笑みは一体どこに行ってしまわれたのか、ティトスは青筋を浮かべてびっくりするほど激昂していた。なんだ、こんな顔もするんだ。こうして見ると案外、普通の人かも?

「この下劣なガキめ…!恥を知れ!」
「うーん…何だか面倒くさいおにいさんだなぁ…」
「行けっアラジン!あんなケツのでかいボンボンなんかやっちまえ!」
「なにーっ!?」

 耳をつんざくような怒声に頭を抱える。何なんだ、このグダグダした状況は。

14'0223 迷子の彗星

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