『ジャーファルさんはどんな女性がお好きなんですか?』 「ぶふっ…!」 前触れもなくそのようなことを尋ねられては流石に驚きます。吹き零したコーヒーを慌てて拭い、視線を戻すとアリアはハッと表情を変えた。たちまち頬を林檎のように紅潮させ、「違うんです!」と必死に首を横に振る。 『実はアラジンくんたちを元気付けるために豪華な食事と女性を揃え、ちょっとした宴を開くのはどうかと考えていたんです…』 「ほう宴ですか、良い考えだと思いますよ」 パァッと彼女の表情に花が咲いた。だが、その笑顔は次第に影に呑まれていく。 『でも、いざ女性をお呼びしようと思っても私には男性の好みというものがよく分かりません。歌や踊りに長けた方がいいのか、話し上手な方がいいのか、考えれば考えるほど分からなくなってしまって…。それでジャーファルさんはどうなのかなって…』 「なるほど、そういうことでしたか…」 言葉の意図を知らなかったとはいえ、過剰な反応を示してしまった自分が今更ながら恥ずかしくなった。ゴホン、一度咳払いをして何とか気を取り直す。 「そうですね…私であればシンドリアに貢献してくれそうな女性ですかね」 『……』 「アリア?」 『…なんだかジャーファルさんが心配になってきました』 「何故!?」 真面目に考えた末の答えだったのだが、どうもアリアには受け入れてもらえなかったらしい。これから他の男性にも意見を求めに行くと言うので、私も同行することにした。 ヒナホホ殿とその子供たちの場合。 「そりゃあ、やっぱり元気なガキを沢山産んでくれる健康的な女が一番だろう!」 「く…苦しいよ父ちゃん…!」 何より子供が好きなヒナホホ殿のことだ。返答は予想できていたが、子供たちを両脇に抱えて笑うヒナホホ殿の姿に自然と頬も緩む。だがそんな時、悪戯に口端を歪めてアリアを見つめる子供たちの姿が目に入った。どことなく嫌な予感…。 「それで言ったらアリアはダメだよなー」 『あら、どうして?』 「だってアリアみたいなほっそい体じゃ父ちゃんのピー入れたら簡単に折れちまう……」 「コラッ!!」 『…ジャーファルさん、どうして私の耳を塞ぐんですか?』 「聞いていたら今頃卒倒してますよ」 『…?』 マスルールの場合。 「取り敢えず、(おっぱいが)デカい人じゃないスかね」 『デカい人、ですか…?』 「男ならみんな(おっぱいが)好きです」 『そうだったんだ…』 一番大事な単語が欠落している気がする。マスルールとは長い付き合いであるため、彼が好む女性は勿論知っている。だから私は今の会話で意味を取り違えることはない。だがアリアはそうもいかないだろう。妙な勘違いをしていなければいいのだが…。 『よ…よし!皆さんの意見をもとに、そろそろ街へ女性を探しに行ってきますっ!』 「一人で平気ですか?何なら私も一緒に…」 『だ…だだ大丈夫ですぅぅ…』 ひくり、と口元を引き攣らせて笑顔を作るアリアを見て不安に思わないわけがない。ぎこちない動きで街へ向かう彼女の背中を見送ったはいいが、心配で心配で堪らなかった。仕事にも身が入らず、熱があるのではと周りに心配されたほどだ。 だが、やりきれない時を過ごすこと二時間。アリアは嬉しそうな面持ちで私のもとに帰ってきた。 『只今戻りました!』 「おかえりなさい。どうでしたか?」 『バッチリです!これ以上ない素敵な女性が見つかったんです!』 グッと親指を立てるアリア、その自信に満ち溢れた表情にひとまず安堵。そこまで言うからにはきっと大丈夫だろう。そもそも彼女はもう大人、心配の必要などなかったのかもしれない。どこか淋しい気持ちを抱えつつも、私は料理を持って一足早くアラジンたちの部屋へ赴いた。 「ジャーファルおにいさん、一体何が始まるんだい?」 「フフ…見てからのお楽しみです」 『お待たせいたしましたぁ!!』 「さぁ、準備が整ったようですよ」 アリアの声を合図に部屋の扉が開く。今はただ首を傾げているアラジンたち。その表情に笑顔が咲くことを信じよう――。 「エカテリーナでございます」 「「「……」」」 エカテリーナ。そう名乗った女性はそれはもう立派な巨体の持ち主だった。彼女の姿を見るや否やアラジンとアリババくんは顔を真っ青にする。 『どうですか、ジャーファルさん!彼女、国一番の実力派ホステスなんですって!それにマスルールさんがおっしゃった通り大きいです!』 「……ええ、大きいですね確かに」 悪い予感が的中した。どうやらアリアはマスルールの言葉を別の意味で捉えてしまったらしい。彼女が悪いのではない。どちらかと言えばマスルールの説明不足、そして私のフォロー不足だろう。 ズンドコズンドコ。軽快なリズムが部屋内に流れ出すと途端、エカテリーナという女性はクネクネと体をくねらせながらアリババくんたちの方へ向かっていく。 女性の巨体に隠れて確認出来ないが、二人の泣き叫ぶ声が聞こえてくることからきっと目を覆いたくなるような光景がそこにあるのだろう。その酷い光景がアリアの目に触れることのないよう、私はそっと彼女の目を覆い隠すのだった。 Plan A 『おねえさん大作戦』 私とアリアの奮闘日記 (ア…アリババくん。この人はおねえさんなのかい?こんな大きいおねえさん、僕は今まで見たことがないよ) (……気のせいかな。俺、一度前にも見たことがあるような…) |