「ねえ、二人の夢ってなに?母さんに聞かせてちょうだい?」 「フン、血塗られた運命をただただ歩むだけの俺に夢などあるわけがないだろう」 「ジャーファルくん、君のその喋り方はもう治らないの?…ところでアリアはどうかしら」 『あのね、わたしはね、ジャーファルのおよめさんになる!』 「え…、」 「だそうよ?ジャーファルくん」 「………覚えとく」 『え…?』 「大人になってもアリアが同じ気持ちだったら俺は……うわっ!なんだよいきなり抱きついて…!」 『わたし、ずっとジャーファルがすきだよ。おとなになってもおばあちゃんになっても、ずっーとジャーファルがだーいすき!』 「……」 「あらジャーファルくん、顔が真っ赤よ?」 「う、うるせえよっ!…ったく、だったら約束だからな、破んじゃねえぞ」 『うん!』 「フフ…アリアの花嫁姿、きっと素敵でしょうね。母さん、今から楽しみだわ」 「おい、起きろ!」 ガンガンガン。鉄格子の揺れる音が鼓膜を破る勢いで鳴り響く。目を薄く開いて冷たい石畳から頬を少しだけ浮かせると、真っ暗な空間にゆらゆら揺れる蝋燭の灯火が二つ見えた。 「仕事だ、お前には今からバルバッドへ向かってもらう」 「相手は金属器を七つも持った化けモンだ。対抗できるとしたらお前しかいない」 「おい、聞こえているのか!返事くらいしたらどうだ!」 「無駄だよ。俺たちの言葉は聞こえてるし理解もしてるが返事はしねぇ。反応も示さねぇ。そいつは人形と同じなんだ」 「チッ…気色悪ィ…」 私をその気色悪い人形にしたのは誰だと思ってる。ゆっくりと起き上がると私の手首足首にはめられた枷を繋ぐ鎖がジャラジャラとうるさく音を立てた。ただそれだけのことにヒッと間抜けな声を上げながらも必死に余裕な表情を作る男がマヌケで、いっそのこと嘲笑ってやりたいと思った。でも、どうやって笑うかも忘れてしまった今となってはそれさえも叶わない。 「ま、まぁ器量は上等だよな。少しくらい味見してもいいんじゃねーか?」 「やめとけ、こいつはあの方のお気に入りだ。つまみ食いがバレたら消し炭になるぞ」 「あの方か…。一度見かけたことがあるが、クソ生意気なガキだったぜ?何であんなのにヘコヘコしなきゃならねえんだよ」 「おい!声がでけぇって!誰かに聞かれたらどうすんだよ!」 これが私の未来。私が身に纏うのは美しい花嫁衣装なんかじゃない。ボロボロに擦り切れた包帯と薄汚いマント、それから一生取れない死臭。 ごめんね、お母さん。幸せになれなくて。幸せにしてあげられなくて。 冷たい石畳の上に転がっていた大好きなお母さんを抱き上げると胡座の上にスッポリと収める。そしてその頭を撫でながら「ごめんね」を何度も心の中で呟く。 こんなにも悲しいのに、こんなにも辛いのに、やっぱり涙は出てこなかった。 ジャム・トゥモロー 叶わない約束 (なぁ、さっきからこいつが抱えてる頭蓋骨ってもしかして…) (ああ、こいつの母親だ。仕事で檻から出る時以外いっつもああやって抱えてるよ) title by 誰花 |