今もなお、名前たちは奈落を追って旅を続けている。
そのため野宿することもしょっちゅうだが、今晩は違う。弥勒のインチキなお払いのおかげで屋根の下で過ごすことが出来るのだ。
だが一つ、問題点が…。
とれたのは二部屋。二人くらいが寝泊まりできる小さめの部屋と比較的大きめな部屋だ。
その前者の部屋で名前と過ごすと言い出した弥勒。勿論それを犬夜叉が許すわけなく…。
今の状況を簡単に説明するとこんな感じだろう。
『はぁ…』
深い溜息が零れる。名前が宥めれば落ち着くのだが、そんな元気も残ってはいない。そんな名前を見てかごめが声をかけた。
「名前ちゃん、大丈夫?なんか疲れてるみたいよ?」
『う…うん、ちょっとね』
「そりゃあ疲れるだろうさ。昼間は七人隊までやってきて揉めたんだし…」
珊瑚の言う通り今日の昼頃、偶然か必然かはさておき七人隊と出くわしてしまった。そしていつもの二人に蛮骨と蛇骨まで参入し、一次騒然となった。名前が喝を入れ、騒ぎは終えることになったのだが…。
「もう一つの部屋で休んできたら?二人は私達で宥めとくから」
『でも…』
「大丈夫よ、後で珊瑚ちゃんと七宝ちゃんと一緒に部屋に行くわ」
女子三人で大部屋を使わせてもらいましょう!
そう言ってウインクするかごめに申し訳なく思いながらも、言葉に甘えさせてもらうことにした。
『ふー』
部屋に入ると疲れがどっと出たのだろう、座り込んでしまった。
――どうしてこんなことに…。
この時代に来て初めてこんなに多くの男から一度に好意を寄せられた。それは女として喜ばしいことに違いない。名前もまた例外ではなく、一人の女として素直に嬉しいと思った。
しかし犬夜叉も弥勒も大事な旅仲間。それ以上でも以下でもない。なのに今でも喧嘩をする二人を見て忍びなくなる。
それにこれは最近のことだが、名前には一つ心の内に秘める想いがあった。
『鋼牙くん…』
誰もいない部屋で呟いてみる。
名前が密かに気にしている者、鋼牙。彼もまた名前に想いを寄せている。直球で強引。あまりの強引さにドキドキしてしまうくらい。
しかし彼はこの頃とんと顔を見せなくなった。
何か危険な目にあったのではないか。そうやって考えるのは鋼牙のことばかり。
離れているからこんなに気になるのか、それは名前自身も分からない。
『元気な姿を見れればなぁ』
ただただ思うのはそれだけ。
だが、その想いは意外にもすぐに通じることになる。
『この気配…』
四魂のかけら、二つ。
微かだが感じることが出来る。
『来てる、近くに…』
――鋼牙くん!
気配の主を理解すると名前は部屋を飛び出した。
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