眩いばかりの金髪を、雲泥が広がる空の下で翻す。
淡く色付いていただろう緑の草花も今や枯れ、薄気味悪い湿地帯の一部と化していた。
晒される白い裸体に身につけているものは何もなく、気の向くままに赤い湖の上を疾走する。
ふと空を見上げたが、天高くに存在するのは真白む月ではなく、あるのは黒い暗雲立ちこめる闇ばかりだった。
何故だか無性に叫びたくなったのは、性だろうか、血故だろうか。
見上げた空はそのままに、空高くにあるであろう蒼を想い、一層蒼い瞳を投げ掛ける。
本能のままに口を吐いたのは、何故だか悲しみが混ざった咆哮だった。



































高く高い丘の上にひっそりと浮かんでいるのは、白い幻影に映し出された朧月だった。
薄暗い雲の合間から差し込む月光は本物に近く、偽物であるのが嘘の様に強い存在感を持ってして、剥き出しの大地に光を与えている。
幾年もの歳月が流れた今をもってして尚、今宵もそこで交される密約を止める者は、誰一人として居なかった。ありふれた会話をするでもなく、ただ一緒にいるだけの時間は瞬く間に流れ、今日もまた帰る時間が訪れる。
悲しい事に別れの時刻は日を追うごとに早まっている気さえして、もどかしい焦燥に、会えない時間に苦しみばかりが増えていく。
それでなくとも会える時間は限られているのだ。
それは多すぎず、少なすぎず。
共に居る時間を惜しむよう…月下に照らされた偽りの世界で、ただただお互いの双瞳を見つめあっていた。
二人の間に交わす言葉などいらなかった。言葉を形にしなくても、絡む視線がお互いの感情を如実に相手に伝えていたからだ。
別れ際には触れるだけのキスを交わした。
ほんの少しだけ距離を縮めただけなのに、赤みを帯びる頬に、身体は隠しようもない熱に浮かされた。
短い浅瀬を終え、別れの挨拶をする為に唇を離す。
何時もならばそのまま振り向きもせずに帰路に着くのだが、この日だけは違っていた。
一瞬たりとも目が合ってしまったのだ。
言いようのない感情に支配され、無意識の内に身体は二度目のキスを交わしていた。一度目よりも深いキスは、ともすれば理性さえ平気で吹き飛ばす勢いのものだった。
喋る事はない。話す事もない。語る事さえしなかった。
言葉のない世界で交わされる口付けだけが、ひっそりと水音を響かせる。
息継ぎをするのさえ惜しいと、理性をかなぐり捨てた二人は行為に集中没頭した。
唇が離された時、二人の間にはそれまであった甘い空気は残されてはいなかった。
無言のままに表情だけで別れを告げる。
言葉のない別れは今に始まった事ではなかった。あるいはこんな奇妙な関係を持つ前から、二人は気づいていたのかもしれなかった。
寂しいとも言わない。離れたくないとも言わない。
言えばそれは終わりの合図だと、始まる前から悟っていたのだろう。
辛い関係ではあった。できるなら、二人でどこか遠くへ逃げてしまいたかった。
閉ざされた空間で二人きり。それも悪くないと、本気でそう思うぐらいには。
だがそれは許されなかった。
二人が穏やかに過ごせる場所など、何処にもなかったのだから。逃げ場など、最初から用意されてはいなかった。
逃げる事は、許されなかったのだ。振り向いてはいけない。別れを惜しんではいけない。迷っては、いけなかった。
背を向けて、走ればそれで全てが終わる。
離れてしまえば、悩む事もなくなるだろう。
一歩、また一歩と足を進める。段々と離れていく相手との距離が、今まで涙したことのない涙腺を揺るがした。
仕舞に走る背中に、誰かが追って来る気配は感じられなかった。
だがそれでよかった。これでいいはずだった。
でも何時か、何時の日か。この背を追って来てくれる事を祈っている。掴まえて、決して離さないでいてくれと。掴んだ体を、強く抱き締めてくれないかと。願っているのも事実だった。
決して叶わない願いだと理解はしても、理性はそれ以上に相手を求めていた。
愚かな夢だと罵られようと、ただの幻にすぎなくとも、それでも。


「………っセル」


願わずには、いられなかったのだ。



end

悟空→セルバージョン
たまには逆もいいかなって思って
2009.9.30
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