それから先は怒濤の展開の連続だった。
「鳴上!」と誰かの呼び声と共に、天井に異次元ホールの様な穴が開き、そこから赤毛の青年が現れたと思いきやあっという間に赤子の手から灰髪の青年を救出していった。
ついでに私も助けてもらった。私の急な登場に赤毛の青年は戸惑ってはいたものの、眼前の敵を前にそれどころではなかったらしい。たちまち赤子を模した化け物が形態を変え、意識は私から削がれていった。
“鳴上(なるかみ)”と赤毛の青年が灰髪の青年を呼ぶ。
端には見覚えのある数名の姿。緑ジャージの茶髪おかっぱ娘と、赤い制服に身を包む黒髪ロングの美少女。筋骨隆々むっきむきな金髪不良野郎が、よくわからないキャラクター(?)の着ぐるみ野郎と共に先輩!だとか鳴上君!だとかとそれぞれエールを送っていた。
赤子は防御態勢に入ったらしく、ラスボスよろしく身体の回りを色とりどりのキュービックブロックで固めてゆく。さながらコックピットに乗った操縦士か、意志を持ち蠢くブロックはたちまちロボットの風体を作り上げた。
皆からの熱い声援を一心に受ける“鳴上君”はと言えば、相対し、臆することなく右手を中空に掲げ「ペルソナ!」と高らかに叫んでいた。
強い光と共に召還された獣?だか魔物?(なんて言うんだっけか)を使い、私を置いてけぼりにした激しいバトルが開幕した。ビーム。光線。破壊砲。言葉は違えど意味は同じなありとあらゆる魔法(としか説明が付かない)の苛烈なまでのぶつかり合い。まさしく火花散る戦場。春の知らない世界がそこにはあった。
つまり。まぁ。だから。

うん、はい。そうですね。

間違えようもない非現実的な光景。“また”別世界にトリップしたらしい。眼前の光景に、春はひたすらうなだれるしかなかった。
























「で、誰だよこの子」
「さぁ…俺もよくは………気づいたら居たとしか」

TVの世界を脱出後、戻った場所は何処かのショッピングモールの電化製品売場の一角だった。
何処かのショッピングモール。等と濁しはしたが、流れてくるアナウンスはまんまお店の名前を“ジュネス”と連呼していた。
ジュネス。…とは、確か目前の赤毛の青年の両親が経営しているお店である。
歩いて屋上まで上った面々は、バルコニー席に付き、程なく赤毛の青年から喋り出した。
隣で話を聞く灰髪の青年に注目する。
間違えでなければ、彼の名前は鳴上悠。ここ霧の町に引っ越してきて程なく、怪事件の当事者として矢面に立たされた主人公である。
ゲーム主体の物語。名を“ペルソナ4”。
主軸はゲームだが、現在春が居るこのペルソナ世界の内容は、ベースの構築がゲームではなかった。
ペルソナシリーズでも、4はより多くのゲームが発信販売されている。ゲーム、アニメ、舞台、ラジオと幅広く展開している分、様々なストーリーが存在する。バッド、ハッピー、デッドエンドだけでも各種パターンは想像を超える豊富さだ。
そもそもペルソナ自体が周回ゲームで選択式。選択の余地の分、分岐点のバリエーションも広い。
中でも、何故、ゲームが主軸ではないと言い切れるのかと言うと…、春が初めてこの世界に来た時の展開。赤子に宙づりにされていた灰髪の青年。彼のいた空間が関係している。
実は、灰髪…鳴上が赤子に捕らえられていたあの空間、シーンは、“アニメ”でしか用いられていないものなのだ。
確か、状態異常で言うとバッドステータス。混乱だとか錯乱系の技を食らって発生した異空間の一種で、アニメのオリジナルシーンなのだとか…オタッキーなのか良くは解らないが弟が熱く語っていたのは覚えている。
実際に春はゲームはした事がなく、アニメをまばらに見ていた程度なので情報は少ない。
しかし、霧の世界のテレビと現実世界(春にとっては現実ではない)のテレビが繋がっているこの世界の構築には興味を引かれた。なかなかに物理の法則に反している。ま…ここではそれが現実だと言うから摩訶不思議。

「ねぇ、ねぇ君」
「…あ、えっと、はい」

とか何とか考えていたら、赤髪と灰髪の青年のやり取りが終わったらしい。なにやら超注目されている。そりゃそうか。私にとっても彼らにとっても私の存在はイレギュラー。注目しない方がおかしい。
赤い服の美少女が、何かを問うて来る。生憎とキャラクターの名はあまり覚えていないので、彼女の名前はわからない。

「君、何処の子?名前は?」
「なっ、まえですか…?」

名前、まさか名前を問われるとは思わず口ごもる。過去、飛んだ世界では一切問われたことがなかった為に予想だにしなかった。

「?」

名前と聴かれてどもった私に、周囲がいぶかしむ。そりゃそうだ。名前を瞬時に言わない時点で怪しさ満点、不審さ千倍。大抵名前を言わない者には心暗い…後ろめたい何かがあると思われがちだ。
名前を隠したい訳じゃない。けど、名前。名前、だよ。
この世界は現代世界がベースだ。旅だとか冒険だとかで一々戸籍を調べたりとかしない海賊やらハンター世界と比べても、名前一つで身元確認をされてしまうような世界である。
そこで、もし、名前を言おうものならば、戸籍に名を連ねていない事が発覚する。最悪存在がユーマ的な事態になりかねない。ならなかったとしても、良くて嘘をでっち上げた家出娘の完成だ。
うわぁ。なんて嫌な二者択一。

「…先生!クマが思うに、この子もクマみたいな存在だったりしないクマかね?」

言葉の出ない春に、着ぐるみ野郎が灰髪の青年に向かい言う。はっとした一同。春は無言で成り行きを見守った。

「…確かに、その可能性は否定できないか」
「でも、チエ、単純に記憶が飛んだだけかも知れないわよ」
「そっすね、どっちも可能性はなくはないと俺は思うっすけど」
「でもよ、おかしな話、なんでこの子は鳴上と同じ空間に入れたんだ?だってあれ、攻撃を受けないと入れないはずだぜ?」
「…確かに、そう考えるとおかしいよな」

ふむ、と腕を組み考える灰髪の青年。
人として考えるならおかしい。だがシャドウとしてならあり得る。うーん、と頭をひねる一同。
春はよくよく考えてもみた。彼らは確かに高校生ではあるが、アニメを見ていて思ったことは揃いもそろって察しが悪い点だった。
テレビの世界。通称真夜中テレビなんてものがあるせいだろうか。常識外の出来事が彼等から真実を遠ざけているのと同様、簡単な事実からも目を背けている気がしてならなかった。
着ぐるみ野郎の先の発言にしてもそうだ、何故シャドウ。よりによって、シャドウだと?春からしたらどうしてそうなった、だ。
普通、家出とか、迷子とか、記憶喪失だとか……いや、これは春にとっての普通にすぎないか…?家出だと思われたくはないし、迷子になる年齢でもない。
だが、何故中間をかっとばして究極の選択にまで至るのか、疑問点は尽きる事がない。
うなる一同を見据え、そう言えば、と春は思う。春が知っている彼等はゲームではなくテレビ寄りだ。だが知っている名前と言えば主人公の“鳴上悠”緑ジャージの女子が“ちえ”名探偵として活躍中の“直人”着ぐるみが語尾にクマと付けていたので多分“クマ”であっている。
筋骨隆々マッチョに赤髪の青年、赤い制服の女子は覚えていない。
最後に、この物語において最も重要な人物。この世界が霧深くなる要因を作り上げた、罪深き知能犯。

「あっれ?皆集まってなーにしてるの?」

名を足立 透。
くたびれたスーツを着た男が、背後に、居た。




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