「好きです」
「君、バカなの?」

心からの告白だったのに、足立からは嘲笑いしか返されなかった。
ジュネスや堂島家、学校帰りの道端での遭遇率は比較的に高く、声を掛け合うこともざらにあって、互いに確かな絆のようなものを抱いていたのは確かだった。ただ、何時も通りの毎日とは打って代わり、場所がテレビの中と言う異様な事態と状況に、更には歪な禍々しい空間での予想だにしなかった鳴上の発言に足立は笑いがこらえられなかった。
普段通りのよれたスーツを直しもせず、躊躇い無く右手に握った拳銃を一発鳴上目掛けてお見舞いする。音を発てて放たれた銃弾は、彼の頬の薄皮一枚を傷つけただけで致命傷には至らない。赤い筋が流れる様に、益々笑いが込み上げた。

「好きです」

くつくつと喉奥で笑う足立に対し、鳴上の態度はいたく冷静だった。撃たれた、と言うのに動揺も不安も抱いていないようで。一瞬、興ざめだとでも言うようにしきりに響いていた笑い声が止まる。だが口許は変わらず弧を描いたままに鳴上を見下ろしていた。

「ほんっと君ってバカなんだかマゾなんだか…」

はー おっかしぃの

言い様再び発砲した。パァンと小気味の良い音が数発響く。
流石に危機を察知したのか、鳴上が器用にペルソナを使って銃弾を弾いていた。
先とは違い、殺す気で放ったのだ。避けなければ間違いなくお陀仏だったのに、と残念そうに肩を落とす。その様(さま)が気に入らなかったらしい。鳴上の眉間に明らかな皺が寄るのが伺えた。
ようやく表情を歪ませることが出来た、と喜んだのが顔に出ていたようで、益々顔を歪ませる姿に遂には堪えきれずに吹き出してしまった。

「…何が、おかしいんですか」

腹を抱えかねない程体を折り曲げて笑う様は、この場所には実に似つかわしくない。変なものを見る目付きで問えば、笑いすぎて目元に涙が滲んだ足立が大袈裟に銃を真上に放った。銃はそのまま放物線上を描いて霧の中へと消えていく。
シャドウが統べるこの世界では、物理的な武器等本当は無くても同じなのだが、何故、今まで手にしていた武器を手放したのだろうか。不安げな表情を浮かべると、途端に、だって君僕の事殺す気なさそうだし、と言う返答が帰ってきた。
答えになっていない、と思う。

「武器はあくまでも身を守る為の物」

攻撃意思の無い奴打ったってつまんないじゃん

等とは言うが、つまり彼も鳴上を殺すつもりがないと言うことだ。一抹の危機は去ったらしい。

「…なぁんてね」

それに気づくのに一瞬遅れた。
気を抜いた瞬間。放られたはずの拳銃が再び足立の手に収まっていた。
一瞬の油断が命取り。
このおぞましい世界では何時だってそれが現実のはずだったのに、つい気を緩めたのが不味かった。
迷い無く打ち込まれた銃弾は避ける術なく、今度こそ鳴上を撃ち抜いた。
直撃を受けたのだ。衝撃で体が後方へと吹っ飛ぶのを数度たたらを踏んで堪えた。
ぱたぱたと地に赤い飛沫が描かれていく。銃弾が抉った左肩に視線をやれば、傷口からは血が溢れていた。

「あはーは!引っかかったぁ」

にやりと弧を描いた唇。銃口は真っ直ぐに鳴上の額に向けられている。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -