父が死去して六度目の夏。毎年訪れている場所がある。
セルゲームの終了後、仲間達と共に決めた父の墓の場所。幼少期の頃、彼が棲んでいたとされる山の頂(いただき)に、その小さな墓石は存在した。
皆1年に1回しか訪れない為か、手入れのされていない木々に囲まれたそこは、見張らしはそれほどよろしくはない。けれど、自然が好きだった彼を思えば、これほど似合う場所もないだろう。
父が亡くなり、親を無くすには早すぎた年齢だったけれども、自分はわりかしあまり泣くことをしなかった。母を慰めるので手一杯だったと言うのもある。ただ、泣き崩れる仲間の中にも“孫くんならしょうがない”そう言った意見も少なくはなく、悟飯はそんな仲間達の言葉に支えられ、悲観に暮れずにすんでいた。
墓より少しだけ離れた場所には小屋があり、既に朽ちかけたそこは結構凄惨な有様だ。辛うじて居住の形跡は伺えたが、獣に荒らされ廃墟同然の体たらく。永いこと家主は戻ってはおらず、夜には野犬の住処(すみか)である。
初めてブルマが、父、悟空に会った場所がここなのだと聞かされた時には、思わず込み上げてくるものがあって…少し、景色が滲んだ。懐かしそうに語りながら笑うブルマは、とても穏やかな表情を浮かべていた。
旅立った理由。ドラゴンボールを探していた経緯。その過程で訪れた山奥でのバイオレンスなトラブルの数々と冒険。心弾む一人旅は、実に彼女の好奇心を潤したようだった。少女と呼べる年齢であって、そのアビリティの高さには感服する。
彼女がやっとこさ目的のものを見つけた場所は、奇妙な男の子が住む一軒家。そう、思い出の地はここからスタートしたのだと、訥々(とつとつ)と記憶をなぞるブルマの話を、一年目の墓参りの前日に、ひたすらに登りゆく山道の間、ずっと、静かに聴いていた。
飛ぶことも、走ることもせずに、記憶を、思い出を少しずつ辿り行く山道は、父という大きな存在の消滅を深く悟飯の胸に刻み込んだ。
ブルマの瞳が、声音が、思い出が、訴えていたのだ。
どうして、死んだのよ。どうして、生き返らなかったのよ。どうして、そんな悲しい選択するの。ばか。馬鹿ばか。孫君の、バーカ。馬鹿馬鹿馬鹿。ほんっとうに、






「孫君らしくて嫌になる」

父の墓前でブルマは、一言そう言い笑ってはいたけれども、哀愁漂う背は明確に言葉にならない言葉を訴えていた。

寂しいじゃない。悲しいじゃない。置いていかないでよ。追いかけさせてよ。

滲んだ目元は見ない振りをして。
その日から、悟飯は山を散策した。父の形跡を辿るように、彼の片鱗に触れるように、それこそ何日もかけて山を散策した。
父が死去した2年目の事。やはりこれも墓参りの前日。何を思ってか再びブルマに連れられて墓参りに来たその時も、やはり浮空術は使わずにリュック片手に山を登ったりもした。当時を振り返りながら父の事を話すブルマの瞳には一年目のような笑顔はなく、始終涙が浮かんでいて、どれほど彼を愛してくれていたかが解ってちょっぴり泣けた。それでも彼女は勤めて明るく振る舞ってはいたけれども。滲む涙を拭わないあたり、今年は泣くと決めたのだろう。
最早例年の年間行事の如く、墓参りの前日には、ブルマと山を登るのが通例となっている。
三年目は怒っていたか。お気楽。脳天気。戦闘馬鹿のあんぽんたん。でも、嫌いじゃない。
そんな、ツンツンデレな彼女は、最後には決まって、バーカ、と軽愚痴を叩くのだ。
そんな記憶を思い出しながら辿り着いた本日の目的地。既に何人かが訪問したのだろう。墓の廻りには幾つもの花束が置かれていた。
大食間だった父を思えば、食べ物の山くらい供えもしたが、生憎と野生動物が多い為、荒らされることを踏まえて食べ物は一切置かれていない。
父は不満だろうが、少しは荒らされたくないこちらの意図もくみ取っていただきたいものである。まぁ、無理だろうけれども。
六年も経つと言うのに、父を知る友人達は未だに誰一人としてかけることなく訪れているようで、毎年それぞれの花束には手紙が一つ添えられている。
コメントはほとんどが単文で簡潔。しかし、誰が訪問したのかがよく解る文ばかりだった。それらを目にする度に、涙が溢れそうになったのは一度や二度じゃ済まされなかった。
簡潔に、“孫くんのバーカ”と一行だけ書かれているものがブルマによるものだ。例年通り、昨日ブルマと共に供えた代物だ。
決まり文句のように毎年“バカな奴だった”と書いてあるのがヤジロベーで、“親友へ”と記入してあるものがクリリンのもの。花束に埋もれた文章の中で、唯一、手紙のない小さな花束がピッコロの手によるものだろう。
毎年訪れる度に、彼らの中でいかに父が大きな存在だったかを目の当たりにする。それも、六年経った今でさえも。
けれど、彼の肉体がそこに眠っていないことぐらい皆知っているはずだった。知らないわけがなかった。







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