「……………え?」

思わず。そう、思わず、だ。思考回路がショート寸前にまで陥る事件が目の前で起きていた。
僅かばかりの記憶を総動員させるが、例えその考えが当てはまっていたとしても、どう譲歩してみたってまごうことなき人外の生物が十字路の先には居た。いや、この場合居る、か?

いやいやいやいや、ないないないない。

そうは思っても、先程の曲がり角の奇術師よろしく、同じように電柱の影に隠れてみたものの、どう贔屓目に見ても目先に見える人物(?)は人外にしか見えなかった。

あれ、ちょ、これ可笑しいぞ。

奇術師に扮したコスプレ外人を避ける為、十字路の曲がり角を左には曲がらず、真っ直ぐ進んだはずなのに、まったくもって予想外の展開だった。
なして目先に人外。それも、これまた見覚えがある奴だからやっかいだ。
全身緑色の肢体には至るところに斑点模様が刻まれており、頭部は角のように天高く伸び、嘴(くちばし)はオレンジ色で、指は三本。羽とおぼしき二対の合間には、先端がスポイトの形状をした長い尻尾。
うん。どう見たって七つの球関係の爬虫類生物である。それも第一段階。

何。何なんだこの状況。

時刻が深夜帯なので目を凝らさなければよくは見えないが、爬虫類の足元に見えるのは、考えたくはないがひょっとして服ではなかろうか。それも、色からして女性物。
おいおいおい。コスプレするにしたって明らかに演出が過ぎている。
ガチか。ガチなのか。いやいやまてまてと、パニクる思考を必死で落ち着けさせようと努力する。
瞬間、ふと爬虫類が振り替えるそぶりを見せた。心臓が嫌なほど脈打った瞬間である。
間一髪覗かせていた顔を引っ込めるのに成功したのか、爬虫類が近づいてくる気配はしなかった。もし気づかれていたらと思うと、ぶわりと、毛穴と言う毛穴から冷や汗が流れるのも無理はなかった。
しかし、はて。不思議と疑問が頭をもたげた。
そもそも爬虫類は“気”を感じとることができたはずである。遠くにいても、生命エネルギー体が放つ精気のようなものを辿り獲物を見極めていたはずだ。
奇術師とて、念の一種“円”なる反則技を身に付けている訳だから、私の存在に気づいてもいいはずなのに、まったくもって気づいている素振りは見られなかった。
ではやはりコスプレか。コスプレだったなら所詮は一般ピープルだ。気付かない事にも合点が行く。
が、それはそれ。これはこれ。

春は気づかれぬようにそっと電柱から身体を離した。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -