可笑しいんだよね 色々と
見たとこ君 中学生くらいでしょ?
この町ってさぁ みた目通り狭くて小さいんだよね
学校も少ないし 住民の数もそこまでじゃない
近くの中学校に確認もとったけど 君みたいな生徒は居ないって言われちゃうし
ひょっとしたらアイドルのりせちー見たく引っ越して来たばっかなのかな?とも思って近隣を調査してみたんだけど…みーんな知らないし最近そんな話聴いたこと無いってさぁ
しかも 君 あれでしょ? 高校生君達のとこで寝泊まり繰り返してるでしょ?
君ぐらいの年齢でそんなことするのっておかしいじゃない?
もしかしたら家出娘を匿ってるのかも!って思って調べてみたんだけど 君と該当するような捜索願は見つから無かったしー――…事件生があれば彼等だって警察に言うぐらいはするでしょ
さっすがにそこまで馬鹿じゃないだろうしねぇ
で 僕が思うに 事件生はある でも家出の可能性は低い では なぜ彼らは警察に届け出ないのか…


「それって、君と出会った場所が問題なんじゃないかって」

思うんだけど どう?


喋りながら段々と自分との距離を詰めてくる男を前に、春は「あ、りせちー引っ越してきたんだ」と実に状況に似付かわしくない思考へと意識を飛ばしていた。
薄っぺらい笑顔の奥に見える狂気。奇術師の男の纏うものとは違う、内に孕む粘膜質なそれ。一線を越えた人間が漂わせる、腐敗した血のような匂い。
事実彼は人を殺めたが、血にまみれた訳ではない。テレビの中に突き落とした。それだけ。
だから、血の匂いなんかしないはずなのに…するわけもないのに、瞬間漂った香りにぶるっと春は身を震わせた。
テレビの中に人を突き落とす。字面にすると大層愉快だ。
でも、春は体験した。体験する以前から、この世界がテレビの中との繋がりを持っている事を知っていた。
だから、解る。男が、“テレビの世界の匂いを漂わせていることに”
テレビの中の住人…シャドウとは人の負の願望を映し出した姿だという。だからと言って、人が犯罪者に陥ると、こうも暗くよどんだものを纏えるというのか…。

「ねぇ、ちょっと、聞いてるの」

男がまた一歩近づいてくる。

「あ、貴方こそ、誰ですか」

春は瞬間思いついた。そう言えばファーストコンタクトの時、一度振り向いたきりで顔はまともにあわせていなかった。自己紹介すらしていない。ならばと、ごく当たり前の質問を投げかける。
いきなりな発言に男は何を言い出すのかと顔にハテナを浮かべたが、暫く春と同じ考えに行き着いたらしい。
会話に至ったのは今日が初めてなのだと言う事に。

「僕の名前は足立透。見た目じゃわかんないだろうけど警察官だよ」

ね?だから心配いらない
そんな安っぽい笑顔を浮かべる男に、春は口元が引きつった。

「自分は警察官だから安心しろなんて言う人の方が怪しいです!」
「…君、よくわかってるじゃないの。女の子だからね、うんうん、警戒心は持ってた方がいいよね」

でも ほら

「警察手帳だってあるし、ね?本物でしょ?」

言葉と同時に胸ポケットから出されたそれは、紛れもない警察手帳だった。そもそも男が警察官であることなどはなから疑ってはいない。論点はそこじゃない。

「…どうして、私を調べてるんですか」
「ん?…だって君、見たこと無かったし」
「み、見たこと無いからって理由で、普通そこまで調べますか」
「誰だって見知らぬ人間がいたら色々知りたいと思うじゃない?それこそこれだけ狭い町なんだよ?皆助け合いながら生きてるんだから、相手を知らなきゃ始まらないでしょ。僕も都心からここへ引っ越して来た時はそれなりに聞かれたり噂されたりもしたしさぁ」
「でも、やってることがストーカーに近いですよ」
「やだなぁストーカーだなんて、仮にも僕は警察官だよ?」
「警察官の犯罪が最近増えてますので、なんとも言えないです」
「えぇ?僕犯罪行為に走るように見える?」
「人は見かけじゃないって…」
「あ、そこは警察官じゃなくて個人として見てくれるのか」

へらっと笑う様は確かに犯罪行為を働く人には思えない。でも、知っている。彼が紛れもない犯罪者であるその事実を!
だから、こそ。

「そこまで調べるのは異常だと思いますよ」
「え?そうかなぁ〜。誰だって僕と同じ状況だったら調べると思うよ?だって、君」

男はまた数歩距離を縮めてきた。

「外の世界の人間でしょ?」

ゾワッ…!腰を屈めて目線を合わせる男を前に、春は後ろに数歩後退した。縮められた距離を僅かに離しただけで、大した違いはない。

外、外と言ったかこの男。
警戒心も露わに身構える春を見て、足立と名乗る男は愉快そうに笑った。

「はは、何、ビンゴ?」

外に含まれる意味合いは大きく分けて3つ程。ここ霧の町より外の人間…つまり足立や鳴上と同じく外から来た住人かどうか。霧の町で起こる不可解な現実…テレビの中の世界からやってきた者を指しているのか、あるいは異世界からトリップしてきた者を指しているのかは判断が付かない。

「なんで、そんな事…」
「あれ、あからさまな反応してるくせにそれ聴くの?」

しょうがないなぁ、とさも面倒臭そうな仕草。男の口元は絶えず笑っていた。

「ここ数年おんなじような日々を過ごしてるんだけどさ、初めてなんだよね、君みたいなのが登場したのって…」

毎日毎日変わらず堪えず繰り返される日々
うんざりするほど同じ人に同じ内容に同じ状況ばかりがエンドレスリピート
頭がおかしくなるほどの平穏で平凡なあたりまえの毎日
代わり映えのないシナリオとストーリー展開に、いい加減辟易してたんだ

喋り続ける男の言葉に、春は違和感を感じた。だが違和感の正体が分からず首をひねるだけで終わってしまう。
男の言う代わり映えのない毎日とは、刺激のない当たり前の日々に飽きているようにも聞こえる。事実飽きているのだろう。うんざりだと言葉でも表情でも解りやすいくらいに表していた。

「…何が、言いたいんですか」

笑いをこらえた表情で、足立は肩を竦めた。

「テレビ画面越しっ…とでも言うのかなぁ」

テレビ画面。
そう、彼等は本来なら、春にとってはテレビ画面越しの存在でなくてはならないのだ。薄い画面越しに映るデータ上の存在。
足立にとっては、日常事態がゲームと変わらず、人の人生はテレビのように面白おかしく滑稽に映るのだろう。

「…テレビ?」

くすっと足立が笑った。その顔が余りにも自嘲気味で、思わず躯が強(こわ)ばった。

「…繰り返される日常は、幾つかの物語を機転としている」

物語には必ず始まりと終わりがあって
絶えず始話と終話を牽引している
エピソード事態の起伏は変わらず チュートリアル的内容は避けるすべがない
何度避けようと試みても 最終的な内容に変化は起きることがない

「流石に頭がおかしくなるよ」

最初からおかしいでしょ とは、今の春には言えなかった。
彼はこの町に越してきて、すぐではないにしろ犯罪を犯した。理由は簡単。自分の憧れだったアナウンサーが不倫を働いたことが許せなかったのだ。確か名前ばヤマノアナ゙。報道陣から逃れるようにこの街にたまたま避難してきたところを、これまたたまたま足立が警護の任についた。
そうして生まれた悲劇は、テレビの中に突き落とされて迎える死。正直笑ってしまうかもしれないが、テレビに突き落とされた人間が、現実世界で迎える死はアンテナに引っかかり、逆さまで死ぬという悲惨でシュールな死に様だ。
足立もテレビ初登場時、テレビに落とした女がそんな格好で死んでいたのを目撃して吐いている。初犯が意図的なものではなかったにしろ、物語が進につれてそれを面白がっていたのは事実だ。
しかし、足立の話を聴く限りで、春は一つの答えを見いだしていた。ひょっとしたら、いや、もしかしたら。そんな曖昧な答えなものだから、もう少し決定的な証拠がほしいと拳を握る。
男が深く息を吸う。つられるように息を吐いた。
もしかして
もしかしたら

ここは、この世界は…

「笑える話、もう十何年も2011年を繰り返してる」


周回…コースだと!!


「君は、僕を馬鹿だと思うかい」

くしゃりと、音を立てて顔が歪んだ。







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