パーティー内のプレイヤーは原則4人。戦闘中の入れ替えはゲームのジャンルによって可否が変わるが、ペルソナシリーズの戦闘形態は不明でも、恐らく一番スタンダードな4人1チームのパーティー制。
現在のパーティー構成が7人でも、実質戦うのは4名のみ、のはずだ。が、この数値はあくまでもゲーム場での話。アニメ番の彼等はそんなことお構いなしに全員が臨戦態勢から迎撃姿勢へと移行する。

「だぁーっもう!何でクリア済みのダンジョンに敵がわんさかいるんだよ!?」
「花村うっさい!!いーから口より手を動かす!」
「してるっつの?!」
「っ!?花村!上…!!」
「ああ゛!!?」

ズッドォン!!
鳴上の声に咄嗟に爆転すると、数秒差で花村が立っていた場所に雷鳴が降って落ち、地面が煙を上げて丸焦げになる。一瞬遅ければ花村もただではすまなかっただろう。

「…っぶねぇ」
「センセー!右クマよ!!」
「っ!!?」

今度は着ぐるみ(クマ)が鳴上の危機に声を上げた。その声に花村と、彼の一番近くにいた雪子が反応したが、間に合わず鳴上の身体が横殴りに吹き飛ばされた。

「ぅっ…ぐっ」

クマの声に反射的に右肘をたてて防御はしたものの、攻撃をもろに食らった鳴上は体が宙に浮くのを覚えた。右肘からみしみしと嫌な音が立ち、一拍の後に、背中から瓦礫の山に激突する。

「鳴上ぃー!」
「鳴上君!?」
「センセー!!」

あんなものくらったら普通は立ってはいられない。思ったが、数秒後には彼は立ち上がっていた。ぶつかった際に切ったのか、口端からは血がにじんでいる。
あれでよく立てたものだ。春は感心しながらも、恐々と彼等の戦いぶりを眺める他なかった。
現在…鳴上、花村、完二、千枝、雪子、クマ、春の累計7名のパーティー構成中、戦闘に入っているのは内5名。非戦闘要員である春は、巻き込まれないようクマに援護してもらいながら、離れた場所から観戦している。
完二に至っては真っ先に脱落した。訳ではなく、所謂“俺は良いから先に行け”を地でやってのけた為、このステージにには居ない。
ダンジョンに足を踏み入れて数歩。四方から敵がわんさか溢れ、いきなりの事態に対処がつかずに狼狽える一同。道が道でなくなりかけた時、完二が自身のペルソナを持ってして全員をダンジョン端の通路まで投げ飛ばしたのだ。
辛うじて敵の侵入が他に比べて控えめだった為、着地後すぐ次のステージまで走り抜ける事が出来たのは幸いだった。

「先ぃ!行ってて下さい!」

春は着地に失敗して一度転んだ。起き様振り返った時見えた完二の背中は、実に男らしかった。しかし不思議なのが何故彼の肩掛けの学ランは飛んだり跳ねたり走ったりしているのにも関わらず落ちないのか……うーむ、謎だ。

「っペルソナ!」

ステージが変わり、階段を駆け上がり三階に上がる。どわっと押し寄せる敵の軍団に向けて、鳴上が詠唱を唱える。ここまでくる間にも敵の数は衰える事が無く、先に召還していた侍姿の召喚獣が交代してどでかい蠅が現れた。
思わずうえ゛っ!?と奇天烈な声が出る。別に蠅なんてそこいら中に生息しているし大したことは無い。だが、デカい。想像よりかなりの大きさだ。
小さければ割と何ともないものでも、大きさが増せばグロテスク度も上がる。召喚獣だと思えば、成る程辛うじて許せる範囲ではある。
現実世界のアニメでは、今後仲間になるであろう名探偵、直人のダンジョンで見た覚えがあり、かなり強力な召喚獣のはずだ。
ペルソナ4の中でも一番好きなキャラクターは直人と言い切れるだけに、直人関連のストーリーだけは覚えているので、あの蠅の威力も知っている。
だが、敵の数が圧倒的に多すぎた。倒せど倒せども、次から次へと出現してくる敵に体力ばかりが奪われてゆく。クマが援護で回復能力を発動させてはいるが、それもどこまでもつかも解らない。最悪、全滅も視野に入れるべきだろう。

「っあ!まずいクマ!回復能力が尽きたクマよ!!」

雪子のダメージ蓄積数がオーバーした。圧倒的な数の暴力にクマも正常な判断を下せなかったらしい。片膝を付いた雪子に回復をかけた途端、自分の能力の限界に気付いたようだ。
案の定。最悪の事態は目前に迫っていた。鳴上が苦しそうに呻き声をあげる。

「くそっ!一時撤退だ?!」

そうは言っても撤退もかなりの無茶を強いられた。
MP切れを起こしてはいても、唯一体力に余力のあるクマが先陣を切り、後方から迫る敵を花村と鳴上が迎撃する。最後に回復をかけられた雪子も体力的には問題なかったが、千枝がダウンしたので春も一緒になって彼女の両腕を支えて走った。
クマの攻撃範囲からもれた敵を雪子がフォローしつつ出口を目指す。途中完二と合流した時には、彼もかなりボロボロになっていた。
満身創痍でテレビの世界から脱出した一同は、暫く身動きが取れず、ジュネスのテレビ売り場の一角でうずくまっていた。ようやく落ち着きを取り戻せたのは、それから一時間あまりが経過した頃だった。
疲労が限界を超えている。無言でジュース片手にジュネスのオープンテラスに座り込む皆の表情は死んでいた。

「俺等…何しに行ったんだろうな」

ズコッとストローを鳴らす花村の目は虚ろだ。
収穫はゼロ。以前に目的地にすら到達出来ず仕舞いとは、誰も予想だにしなかった。

「つか、あの敵の数おかしくないっすか」
「あーあたしもそー思うー、けど今はそんな事考えてらんないー」ゴンっとテーブルに頭突きをかました千枝は、その姿勢のままにうなだれる。無理もないと、暫く無言の沈黙が続いた。
春は申し訳なさに身を縮こまらせた。まさかこんな事になるなんて。

「あの、なんか、すみません」

か細く謝った声は、本人も驚くほどに弱々しかった。

「ん?良いって良いって、あたしが言い出したことなんだし」
「で、でも、皆さんが疲れてしまったのは私のせいでもある訳で…」
「気にすることないわ、私達がやりたくてやってるんだし」
「ごめんなー、家に返してやりたかったんだけど、俺等こんな体たらくで」
「い、いえ、そんな」

そんな、事は。
春は罪悪感で胸が苦しくなった。
家は、ある。早く帰りたいとも思う。でも、その方法が解らない。帰れる保証もなく、帰れたとしても、どれほどの時間があちらで経過しているかも判断が付かない。
彼等は必死で春の元居た場所を、家を探そうとしてくれていた。なのに、私は。私は、本名も何処から来たかも告げずに、“この世界を作り上げた犯人を知っていながら黙秘している”。それが、酷く、悪い事のように思えて。きゅっと両手を膝の上で握った。

「…ま、あそこに何かあるのは間違いないよねぇ」
「そーだなぁー、あんだけ敵がいりゃあ何かしらあるとは思うわなぁ」
「確かに、もう一度行く価値はあると思う」

千枝、花村、鳴上に励まされるようにして、再びダンジョンに足を踏み入れたのはそれから四日後の事だった。

「よぅし!行っくぞー!!」

千枝の掛け声と共に、体力(HP)気力(攻撃力)精神力(MP)全てにおいてMAXで挑んだ2回目だったが、前回同様まさかの失敗。ならばと3回、4回と回数ばかりが重なり、ことごとく彼等と出会ったボス戦ステージまで辿り着く事は叶わなかった。仕舞いには「何で毎回敵の数が減らねぇんだよ!」と全員がキレる始末。もっともである。

























それから、最後にダンジョンに向かった日から数えて一週間が経過した早朝の5時頃、霧のような小雨の降る中、春は傘を片手に散歩をしていた。
今朝は鳴上の家に泊まり、今日もその予定でいる。叔父の堂島が警察署に数日泊まり込まなければならないらしく、咎める者がいないからとあがらせてもらっている。叔父の子供…菜々子ちゃんは大変物わかりの良い子供で、私が泊まっている事実も秘密にしてもらっている。
さりとて私はこの世界にとったら異端でしかない。この町は見かけと同じで規模が小さく、コミュニティの範囲も狭いときた。地域住民でもない春は、外から来た人間として目立ちやすく人目に付きやすい為、外出出来るのは早朝か夜に限られた。
窮屈と言えばそうだが、自由があるだけマシである。
彼等に良心があって良かったと思う
出会った当初、人の形をしていたとしても、シャドウとして認識されれば殺される危険も少なくはなかった。比べれば、今のなんと自由なことか。
春は自販機の見える曲がり角で空を仰いだ。視界に曇り空が移る。

「ねぇ、君、誰?」

そんな声が、ふいに後ろから聞こえてきた。







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