例えて、奇異な現象とはどう言ったモノを指さすのだろうか。また、それらに見回れた時、人はどの様に対処するのだろうか。
失敗から始まり、失恋に失業。事件や事故に遭遇した際。総合的にみても現実と理想、思考と行動が噛み合わない事は実に多い。
状況にもよるだろうが、例えば不審者や変質者が目の前に現れたとする。日頃から警戒心剥き出しで、幾度も撃退パターンを脳内でリフレインさせている人物だとしても、いざ犯罪者を前にした時に撃退すべく行動を起こせる人物は物凄く少ない。つまり、物事にはイメージトレーニングだけでは対処しきれないリアルが存在するという事を言いたいのである。
単純なようで不明瞭。そんな怪奇現象ともつかないあやふやな事象は常に回りで起こっている。つまり、今回その対象となったのが自身なだけであり、悲しい事に現実で………

「でね、僕はそう言う奴が嫌いなんだ」
「はぁ…」

そう、こんな事態を誰が予測できただろうか。現在春の隣では、コスプレした外人がかなりの気さくさで話しかけてきていた。
好きな食べ物だとか嫌いなタイプの人間。どうでもいいことにスリーサイズまで教えてくれた。知り合いでも何でもないのに聞いてもいないことを一方的に話続ける男の気が知れず、はぁだとかへぇだとかの空返事ばかり返すのだが、気の無い返事もなんのその、男はまるきり気にした風もなく永遠と喋り続けている。

「………」

何と言うか溜め息もひとしおだった。そもそもどうしてこんな状況になったのか、幾度も考察を繰り返した結果、原因は安アパートの裏手扉しか思いつかなかった。
理科室の扉から大海賊時代幕開けな世界へのありえない移動を果たし、予想以上の事態に見回れたせいか内心パニクっていたらしい。ショート寸前だった思考回路をまとめるべく、あの場面でトイレに行きたいと進言したまではよかったが、案内されたトイレ前。今思えば、開いた扉の先に見えた見覚えのある光景を前に、後先など考える余裕がなかったのも確かである。
不可解な世界からの脱出。考えられたのは“帰れる”と言う事実だけだった。その事に固執するあまり、近道だからと横着したのが間違いだったのだ。
近道とは言え路地を突っ走り、あんな安アパートなど通らなければこんな事態は避けられたはずなのだ。そう思うと泣けてくる。まぁ、今更考えたって仕様がないが、なるほど、まさしく後悔とは書いて字の如くである。

「はぁ…」
「ん?どうかしたかい?」

一度ならいざ知らず、二度も溜め息をついた事が珍獣に興味をもたせてしまったらしい。正直目も合わせたくなかったのだが不振がられるのも億劫だ。

「え、あ、いや…何でもな」

いです、と言う言葉は言えずに終わった。
咄嗟に男を見上げた矢先、狂気染みた気配が男の回りを取り巻いているのに気がついた。まさしく雰囲気がガラリと変わる。表現法で言うならまさしくそれだ。男を中心に路地の空気が暗くずっしりとした重さを伴ったのが嫌でも解った。
感じたことのない恐怖がぞわぞわと体を這い回る。経験なんてないのでにわかに判断できなかったが、それでもはっきりと“殺気”と呼べる代物を男が放っているのにゾッとした。
血の気が一瞬で引いていく。
ただ、幸いなことにその“殺気”が自身に向けられたものではないという事実は、背後から聞こえた足音で理解した。







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