ゴミが散乱して床が見えなくなっているだとか、そんな生易しいものじゃない。
ドアノブより手前側。つまり、自身が立っている場所は何時も通りの見慣れた自宅の内装なのに、弟の部屋であるべき室内は、部屋丸ごと、別空間になっていたのだ。
空間、というか、室内面積がまるで違う。天井の高さから奥行き雰囲気に至るまで、何もかもが自身が知っている弟の部屋とは区別がなかった。
何より廃墟のような室内には、見覚えのある数名の顔が並んでいた。
そこに一人こちらに気がついた奴がいた。

「……おや」

ひっ!
ヒソカァア!?
何でテメェがいるんだよ!とは言わず、ショックのあまり乱暴に扉を閉めても良いはずなのに、まるで何も見なかったと言わんばかりに気が付けば静かに扉を閉めていた。

「………」

…今見たのは現実なのだろうか。いやいやまさか、むしろ夢じゃね。もしくは見間違い件、白昼夢。って、んな訳ねぇえ!
……どうなっている。ほんとのほんとにどうなっているんだ!
ドアノブの先。廃墟の様な作りの室内にはピンク色の髪を高く一本結びにした女性と言うか少女に近い女の人と、鉄筋の積まれた山に座するオールバックの黒髪の男性、何やら書物を手にしていた。おまけに額には十字架を、更にスレンダーなスーツを着こなす妙齢?の女性と来ては、間違いなかった。
現在進行形で連載中の漫画。ハンターハンターの世界では悪役に位置する幻影旅団のメンバー。マチ、クロロ、パクノダだ。
そして何より奇術師を名乗る珍獣もとい変態、ヒソカ。この四名が何故か(仮)弟の部屋には居た。正確には弟の部屋とは言いがたいがそんなことはどーでも良い!!

つうかヒソカ!お前、私が帰る道を通せんぼしてただろ!何でそこにいるんだよ!!

さも初めから居ましたと言わんばかりのナチュラルさで壁に凭れていた変態に腹がたった。
帰路の為、全ての行く手を阻まれた自身の取った行動においては、身体を守るものが身に纏ったワンピース一枚のみではあまりにも頼り概がなかったのだ。音を立てずに移動は出来たが、露出した肌に擦り傷やら掠り傷を作る羽目になってしまった。一概にはヒソカだけのせいではないのだが、面子から言えば文句をつけられそうなのは奴しかいなかった。
上着ぐらいは着よう。決意しても、守れる保証はなかったりする。

「あれ、ねぇーちゃん」
「うぉ!」

もう一度弟の部屋の中を確認しようか考えあぐねていると、握ったドアノブが奥に引かれて奇妙な声が上がった。

「何してるの」
「いや…」

ドアノブを握ったままだったので、開いたドアに身体を持っていかれてずっこける手前のような奇妙な体勢になった。と、頭上で弟が欠伸を漏らした。
こちらはラフと言うか引っ掴んだ物を適当に着たという出で立ちで、扉を開けた方とは反対の手にはバスタオルが握られていた。

「風呂でも入るの?」
「ん〜、頭洗うだけ。汗掻いて気持ち悪いから」
「ふ〜ん…」

道を譲る為奇妙な体勢を立て直す。しかしドアノブから手は離していない。
横切る弟の姿が、階下に消えるのを目で追った。真っ直ぐ立っても、弟と自身の身長差はあまりない。まだ中1だし、これから伸びる可能性はおおいに高い。しかし、私個人で言えばあまり伸びないでもらいたかった。身長にコンプレックスを抱いているのが姉の方とはまったく可笑しな話である。
ドアノブにかかったままの自身の手から、知らずと入っていた力を抜く。開(ひら)けた扉の先には何時もの弟の部屋が鎮座していた。








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