人生初、詰んだんじゃね?これ的な場面が、まさかこんな展開で訪れようとは夢にも思わなかった。そもそも“詰み”な状況なんぞ、人生に一度や二度陥るものではない。
どうする。どうしよう。どうしたい。時刻は限りなく深夜である。
知り合いの店員が今日はいるからと、深夜近くのコンビニに買い物に繰り出したはいいが、年齢的には補導対象洩ろ入りなので、元来た道を戻る線は考えにくい。補導なんぞ食らったら、少ない小遣いが更に少なくなってしまう上に、最悪ゼロなんて事にも成りかねない。それだけはなんとしてでも回避あるのみだ。
が、そうなると道をどれか選ばなければならないのだが、これが非常に難しい。
生存確率が一番高そうなのは奇術師だが、一概にそうとも言い切れないのは基(もとい)、どいつもこいつも超絶危険人物ときているものだから、選ぶこと事態を放棄したくてたまらない。
ひょっとしたら時間が経てば消えてるんじゃないかと淡い期待を持ったのはついぞ十分前。いっこうに消える気配のない危険人物達は、その場で電話を始めるわ、丸くはなるわ脱皮してたりと動く気配がまるでない。

ああくそもう、わっけわかんねぇ

どれだ。どれを選べば正解だ!
限りなく難しい選択を迫られているせいか、逆に頭が冴えていくのを感じた。人間窮地に陥った時こそ本領を発揮するとはよく言ったものである。
外出してから既に三十分あまりが経過しようとしていた。季節は夏場に近いとは言え、深夜を回れば冷え込みもする。
どうせ近いからとラフな格好で出てきたのが間違いか。部屋着の黒のワンピース。裾がそこまで長くないせいで暖房面は望めない。襟が多少ノースリーブ気味なのがこれまた痛かった。
風に湿り気が混ざり始めている。明日は雨になるかもしれないと、しゃがみこんだ電柱裏で膝を抱えながら両肩を擦った。

こうなったら一か八かである。こーしてここに居ても打開策は見込めない。何時になれば道が空くとも知れず、何より、寒さを我慢するのが嫌だった。腰痛持ちには寒さはなによりの大敵なのだ。
あと眠い。新作のお菓子を急に食べたくなどならなければ、今頃は夢の中にいたはずなのに、不運とはどうしてこうも重なるものなのか。溜め息は付いても付ききれない。
両膝に手を当てて屈伸運動。軽く筋肉を伸び縮みさせてから、一気に塀を飛び越えた。
道で言えば奇術師の様な珍獣と、生物学的には爬ハ虫類寄りの人外のいる中間あたりだ。塀を飛び越え雑草の繁る民家の庭に着地した。
近所が犬より猫派が多いい事に、この時程感謝した事はない。(自慢じゃないが近所付き合いは滅法苦手)吠えられでもしたら一貫の終わりだ。無論自身も大の猫派を謳(うた)っている。
バレるな!気付かれるな!私は空気!私は空気!!
言い聞かせてゆるりゆるりと民家を渡る。緊張というかスリルが半端ない。どうにも緩慢になりがちな動作に音だけは立てるな!と一心に思う。
そんな時に限って余計な事を考え付くもので、泥棒ってこんな心境なのかな。等とけして知りたくもないスリルと状況に、思考はどうやら逃避気味だった。…無理もないけど。

そうして遣り過ごすことに成功する事約八分弱。やっとの思いで到着した我が家に灯りはなかった。当たり前だが、信じられない思いで帰って来た身としては少々やるせなさが先立った。
せめて玄関先ぐらいは明かりが欲しかったと、暗いせいで手元の見えない鍵穴に、鍵を差し込もうと躍起になる事二分あまり。
嫌な汗をかいたと、履いていた黒のパンプスを脱ぎ捨てる。ついでに乾きを覚えて冷蔵庫を漁り、半分近く中身の無い2リットルのスポーツドリンクに口を付けつつ、自室のある階段上を登ていった。
自室の手前には二個下の弟の部屋があり、本来なら寝ているだろうとスルーする。はずだった、が。

何…?

何やら話し声が聞こえた。電話でもしているのかとも思ったが、そうではない。複数人の声に眉を潜めた。誰だろう。友達が泊まりに来る予定なんか聞いていない。

「あんた、何して…」

さして疑問も抱かずドアノブに手をかけた。のが不味かった。

「………、は?」


ドアノブを開けた先の光景は、まさしくはぁ?な状況だった。







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