本当に自覚ないのか?






「眠いなら止めようよ」
「…?あ、」

先輩の提案はあまりにも唐突だった。
咥えていた先輩のそれを離して、しかも弾みで歯を引っ掛けてしまうほどに。

どうやらとても気持ちの良いところを刺激したようで、眉根を寄せた先輩が一瞬天井を仰ぎ見てから僕に視線を向ける。
ソファーに爪を立てていた指が伸ばされて額に触れた。
前髪を掻き上げるように撫でつけて緩慢な動きで上半身を起こす。

「誘っといてなんだけど別に無理強いはしないから」
「無理なんて…」

中途半端に捲り上げていたトレーナーが重力に従ってストンと戻る。
滑らかな素肌が隠れてしまうのが惜しくて咄嗟に伸ばした手がすんでのところで腹に届いた。
潜り込ませた手のひらで皮膚を撫でると力の籠もった指先が僕の髪の毛を引いて上を向かせる。

服を脱がないまま、猛る陰茎だけを露わにした姿。
快感に素直な体なのに唇だけはそれに反して頑なに閉ざされる。
きつく噛まれて色付くそこが僕を宥めるように、決して嬌声など洩らさぬように慎重に言葉を紡いだ。

「ね、テンゾ…まだ今なら」
「ここで止める方がボクには無理です」

先輩のそこに負けないくらい、僕のそれだってズボンを押し上げているのに。

わかるでしょう?

宙を蹴って揺れた爪先に自分の股間を擦り付けた。
スラリと長い足の指がズボンの生地を摘むように握られて器用に僕の先端を撫でる。

思わぬ快感に腰を引けば唇の端を吊り上げて笑みを作った先輩が体をズリ下げてしつこく股間を狙って指を動かす。
その攻撃を受け止めても避ける為に体を動かしても結局布に擦れて与えられる快感から逃れられない。

「何がしたいんですか…!」
「今テンゾウとシたい事なんて一つしかないんだけど」
「それなら、もう…」

邪魔しないでください、と。

言うよりも早く覆い被さってきた先輩に顎を掴まれて唇が重なった。
閉じられなかった目が焦点を合わせきれずに先輩を捉える。
ぼやける視界の中、右目を細めて一層深く絡められた舌を吸われる。

「ん、ふッ…!」

濡れた音の合間に溢れるのは自分の吐息だ。
先輩は涼しい顔をして頬を撫でていた指で頤を辿って唾液を飲み下した喉を擦る。

そうして口付けを交わしながら僕の下半身を苛めるのも忘れていないのだから酷い。
人の事は止めておいて随分と一方的じゃないか。

「テン…」

触れ合ったまま名を呼ばれる。
もはや声ではなく振動として伝わった。
むず痒い痺れを唇に残す呼び方に、僕は必死に舌を伸ばした。
ピチャリピチャリと唇や歯列を舐めると甘く舌の先を噛みながら先輩は熱心に股間を踏みしだく。
絶妙な力加減の爪先の下、溢れる先走りで濡れて張り付く下着の気持ち悪さに眉を顰めれば「イイ顔するね」と悦ばれた。

「どうしたんです…?」
「何が?」
「このままだと…」

先輩の肩を押す。
大した力を掛けたわけでもないのに大人しくソファーに身を沈める。
偉そうに胸を反らして組まれた足は僕の股間を離して目の前に差し出された。

「例えば、の話ですが」
「イヤだよ」
「聞いてください」
「嫌だ」

綺麗なアーチを描く甲をスルスルと撫で上げて、滑らせた指先が再び足の付け根に辿り着く。
僕が弄ばれている間、放っておかれたそこは色濃く張りつめて触れられるのを待っているように見えた。
滴るほどに唾液を垂らしてしゃぶっていたのに今ではすっかり乾いてしまった。
けれど時折刺激を求めているかのように鈴口が開いて透明な液体を溢れさせ、先端だけが濡れたペニスを見せ付けながら
カカシ先輩は変わらずソファーに背中を預けて静かに僕を見下ろし続ける。

快感から潤むと色の深みが増す瞳に見つめられているだけで達してしまいそうだった。
奥歯を噛み締め下半身に滞る射精感をやり過ごしながら先輩のウエストに手を掛け服も下着も剥ぎ取る。

「今の先輩になら、抱かれても良い…」

先ほど言い掛けて止められた本音が零れて頭上からは溜め息が降ってきた。
怒らせてしまっただろうかと頭のどこかで焦りつつも手の動きは止められない。

剥き出しになった下半身。
背中に回された足が僕を抱え込む。
解す間ももどかしく、半ば無理矢理突っ込んだ指をくるりと回して開いてみせればついさっきまで僕のペニスを撫で回していた器用な足がシャツを捲り上げて脇腹を引っ掻いた。

そのまま僕の上に滑り降りてきて、指を咥え込んだまま緩やかに腰を動かした先輩が妖艶な笑みを浮かべて耳朶を食み、掠れた声でそっと囁く。

「俺がお前を抱きたいと思う…?」

下手な嬌声を遥かに凌ぐ一言。
もう何も考えられずに目の前の体を抱き締めた。
僕の唇を撫でた指が真っ直ぐに中心を目指して下りていくのを呆然と見守る。
揶揄うように金具をチリチリと鳴らし、やっと下ろされたファスナー。
隙間を縫って指が入り込み、ボクに触れると途端に快感が駆け巡り――

熱を吐き出さないまま絶頂を迎え、頭の中が真っ白になり意識が途切れた。





耳に入ってきたのは子守歌だった。
歌詞がわからないのか、それともメロディーが気に入っているだけなのか。
鼻歌でのんびりと流れるように歌われる子守歌が心地良く体に響く。
とても気持ちの良い眠りだったはずなのに体に鈍い疲れを感じ、億劫に思いながらも目を開いた。

「おはよ」
「っはよ…ござい、ます…?」

僕の胸の上に本を開いた手を置いて、何故だか膝枕をしてくれている先輩が微笑んだ。
気の抜けた声で挨拶を返して笑ってみたものの僕の笑みは笑顔になりきらなかったかもしれない。
空いた手で髪の毛を撫でながらクスリと笑われる。

「体は平気?」
「えー…っと。それは…たぶん、ハイ」

改めて心配されるほどの何かをされたのだろうかと体の色んなところに力を入れてみたけどこれという違和感は無かった。
強いて言うなら床の上に寝転んでいるせいか背中が痛い程度だ。
ひとまず曖昧に頷くと「それは良かった」と安心した様子で視線が本に戻ってしまった。

手を上げて先輩の顔に触れる。
読書の邪魔をしたのに嫌がる素振りも見せず、僕にされるがまま顎を上げたり首を傾げたり。
何だか先輩の様子が妙だ。

「おかしいですよ」
「やっぱりドコか痛い?」
「痛くはないですけど…」

やっぱりってどういう事ですか。

訊ねる為に身体を起こそうとしたらやんわりと肩を押し戻される。
瞬きをして先輩にしっかりとピントを合わせてから見上げれば、ほんの少しだけ考える素振りを見せてから口を開いた。

「ちょっと遊び過ぎちゃったね」

ゴメン、俺が悪かったとばつが悪そうに苦笑い。
先輩が謝るなんて余程の事じゃないかと驚いて、思わず本当に痛い所は無いか再確認してしまった。

「テンゾウがあまりにも疲れた顔してるからさ、ちょっと揶揄いたくなっただけなんだよ」

親指と人差し指を僅かに開いて見せて本当にちょっとした遊び心だったとアピールしてくる。

「今にも倒れそうな顔色で俺のを舐め始めるから自分の状況、本当に自覚ないのかなぁって」
「だって先輩…」
「うん、わかってる。誘えばノってくるだろうって思ってたよ」

僕がどれほど疲れているのかも、先輩に誘われたらその気になってしまう事も承知の上で揶揄ったと言う。
流石に意識を失うとは思っていなかったんだろう。
“ちょっとした遊び心”の結果に焦った先輩の罪悪感が今、優しさに繋がっているようだ。

「…念の為の確認なんですが」

最後まで言わずとも僕の心配の種は伝わった。
横に振られた首にホッとする。
良からぬ事を口走ってしまった記憶は確かにあるからもしかしたらとそれだけが心配だった。

「意識飛んだところを、なんて犯罪みたいなマネしないよ」
「少しでも良心が残っていたようで何よりです」
「少ししかないのは遊び心だって。残りは全部良心だよ。ほら、ちゃんと着替えさせてあげたし」

指差された下半身は確かに事を始める前と履いている物が違う。
ウエストを引っ張って中を覗き込むとあんなに纏わり付くほど濡れていた下着まで変えられていた。
例えがたい複雑な心境に脱力し、寝返りをうって先輩のお腹にしがみつく。

「ベッド行く?」
「もう少し、このままが良いです…」
「背中痛くなったら言ってね」

ぽんぽんと脇腹を叩いてあやしたつもりらしい先輩。
触れられた場所に引きつるような痛みを感じて目を向ける。
何かと思えば先輩の爪先に引っ掻かれたところで、ふと甘く誘う声が脳裏に蘇った。

「…先輩こそ、もうちょっと自覚してくれないと」

こぼした愚痴は優しく頭を撫でる手に誤魔化されて消えた。





10/11/19

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