ちょっと黙って






「俺がやろうか?」

「いらない」

「やらせろよ。俺、得意なんだぜ?」

「いらないって」

「そんな事に時間掛けんなって。冷めちまうだろ」

「猫舌だからちょうどいいんだ」

「なあ、カカシ…」

「ちょっと黙って」

「ちっ……」


最後の一言からカカシの本気を感じ取って、渋々口を出すのを止めた。

これだけはカカシにだって負けねえな。

そんな風に自負するくらい自信があるんだ。
カカシがどれだけ意地になったって、絶対に俺より上手くやるなんて無理。
だから早く俺に任せて、カカシは楽してりゃイイ。
そんな考えが何故か受け入れてもらえない。

「もういいや」

そう言って諦めたカカシは、俺の視線から逃げるようにそれを頬張った。
一口ごとに眉を顰めながら。

「何を意地張ってんだよ。ノドに刺さっても知らねーぞ?」
「平気だよ」
「一回一回出すの、面倒じゃないのかよ」
「全っ然!!」

そう言って大きく口を開いて骨だらけのそれを放り込んで。
顎を動かした途端にあがる悲鳴。

「だから言ったのに……ほら、こっち食え!」

カカシが手を出すよりも先に皿を奪い取り、代わりに自分の前にあった皿を押しやった。

「何で出来ないのかなぁ……」

呟いたカカシの声は涙声で、俺は慌てて顔を覗き込んだ。

「俺、アスマとは対等でいたいのに……」

溢れた涙が重力に従って流れ落ち、カカシは箸を置いてテーブルへと突っ伏した。

「おいおいおい!ちょっ…どうした!?」
「俺、アスマと同じくらいしっかりしないと…みんなに言われちゃうのに……」
「何を?」
「何であんな奴がアスマと、って……」
「誰かに言われたのか?」
「言われてないけど……でも、アスマは大人っぽいし、頼りたくなるくらい強いし、優しいし、人望もあるし…」
「そりゃ褒めすぎだろ」

次々出てくる褒め言葉に苦笑いを零してもカカシは顔を上げない。

「俺なんて…17にもなってこんなにガキだし、全然強くなれないし、優しくするってどんなかわかんないし、会話するのなんて三代目とアスマがほとんどだし……」

一つ自分の欠点をあげる度に確実に落ち込んでいく声を聴いて、何か励ませる言葉は無いかと必死に考えた。
しかし、カカシに大人っぽいと言ってもらったとはいえ俺だってまだまだ未熟な18才。
上手くまとめた言葉で励ます術など持ってない。

結局、思いついたままの単語を並べていくしかなかった。

「俺はお前の方がよっぽどしっかりしてると思うぞ?いつだって真剣で何をするにも丁寧で。忍としても一人前だし」
「そんな……」
「俺は要領良いだけだしなあ…適当にごまかしながらやったり、さりげなく他人に押し付けてサボったりしてっから全然マジメじゃねえし」
「でも、ホントにそれだけの人間だったらあんなにみんなから信頼されたりしないよ……」

俺の言葉を打ち消す様に言いながらも、だんだんカカシの顔が上がってきた。
腕で顔半分を隠したまま紅くなった目がチラリとこちらに向く。

「俺に話しかけてくんのなんて俺と同じくらい適当な奴らばっかだぜ?」
「それでも…それでも俺よりはマシじゃない……」
「うん?」
「俺、任務で一緒になった人と最低限必要な会話するくらいだし…道を歩いてても声掛けられる事も無いし……」

喋り過ぎて乾いた喉を潤そうとしていた俺は、カカシの言葉に思わずお茶を噴き出しそうになった。

「おま…当たり前な事言うなよ!ビックリしてお茶零すとこだったぞ!?」
「何で当たり前なのさ?」
「普段自分が仕事してる状況を考えてみろよ。面つけて、気配消して働くような火影直属の暗部だぞ?お前の事がすぐにわかる奴がいたら大問題だろ」
「でもさ……」
「それにお前、普通にしてても気配薄いし。お前の気配をよく知った俺でさえも常に…」

ハッとして言葉を切った。
常にお前の気配を探ってるなんて、そんな恥ずかしい事を言い掛けたのを恥じながら。
が、カカシはしっかりと言葉の続きがわかったらしくガバッと顔を上げて満面の笑みを浮かべた。

「そっかぁ…アスマもそんなに俺の事……へへへ、そっか」
「くそ……まあとにかく!万が一誰かに何か言われるような事があっても、お前の事を知りもしない奴の言う事なんか気にするな!!」

照れを隠すように語気を強めて言うと、物凄く満足げに笑って深く頷いてくれた。

何でカカシとアイツなんかが……

そんな事を言われるとしたら、俺の方だと思う。
里にとって欠かせない存在になっているカカシと俺なんかが、こんな関係でいいのだろうか。
そう思う事が多々ある。

それでも俺が平然としていられるのは、言葉に頼らずともカカシの気持ちが伝わってくるから。
そして、思っていたほどカカシが完璧な人間ではなかったから。

だからさ、カカシ。
魚の骨をキレイに取れるのはどっちか、なんて戦いはやめて、ちょっとくらい俺にも良いとこあるって思わせてくれよな。





06/08/07

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