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「たーえ」
「はいはい、なんですか神威さん」
「大好きだよー」
「ありがとうございます、私も好きですよ」

後ろから妙の腰に抱きついて、神威は機嫌よく足をぱたぱたと動かす。
好きだよと繰り返し告げられる言葉を適当に受け流しながら、妙はてきぱきと洗濯物を畳んでいた。

「ちょ、またですかこれ…」
「いやァ、いつもすまんねェ…」

ただいま戻りました、という声と共に新八が廊下から顔を出す。そして、目の前に広がるいつも通りの光景に盛大に顔をしかめた。
大事な姉の腰にまとわりつく、ピンク頭の男。

そう、誠に遺憾だが、いつも通りには違いなかった。
いつも通りと言えど、腹が立つものは仕方ない。
物言いたげに神威の部下を睨みつけると、阿伏兎は申し訳なさそうに頭を下げた。

「妙は俺のこと好きー?」
「はいはい、好きですよ」

俺も俺もー!と神威はぐりぐりと妙の腰に頭を擦り付ける。
こら、と妙にたしなめられて、はあいと返事をした。

「「…っ!」」

そのデレデレな様子に新八と阿伏兎の腕に鳥肌が立つ。
幸せ絶頂、といった様子の神威にげんなりとした。

「あの、もう今に始まったことじゃないんでツッコむのもあれかと思うんですけど、」
「…あぁ、うん、そうだねェ」
「もういい加減にしてくれませんか…」

力なくそう言った新八を見て、阿伏兎は慰めるようにポンと肩をたたく。
はあ、と大きなため息が二人の口から漏れた。

「どうしてこうなった…」
「それは俺も聞きたいねェ…」

ははは、と乾いた笑いを漏らして、新八は肩を落とす。
神威がやってきたのは、1ヵ月程前。
最初の頃は大好きな姉に馴れ馴れしくベタベタとする神威を怒って追い返したりもしていたが、いくらやっても平然と軽くかわしてしまう神威にそのうち慣れて(疲れて)何も言わなくなった。
当の姉も満更でもなさそうだし、というのが一番の理由ではあるが、どこか釈然としない思いも残っているというのが本音だ。 もはや日常風景の一部になっている、というのも空しい。

「もう連れて帰ってくれませんか」
「連れて帰ってんだけどねェ…。勝手にこっちに戻ってくんだよ」
「それは…。ほんとにご苦労様です」
「ったくこのスットコドッコイが」

はああ、と二人の口から漏れるため息は今日も重かった。

「どうしたの二人とも。ため息ばっかりついてると幸せが逃げるぞー」

((誰のせいだと…っ!!!))

ぴしり、と青筋が浮かぶ。 イライラするほど無駄だとわかっているが、当てられるこっちの身にもなってもらいたいものである。

「あのねェ団長、いつまで地球にいるつもりだよ。来週にはナントカ星に行くことになってるってのに、それわかってんだろうなァ」
「わかってるよー。でもそんなに急いで行くことないだろ。あそこなら地球から3日もあれば着くし、片付けるのに1日もかからないよ」

予想に反して意外と的確に位置関係を把握していた神威に、阿伏兎もそれはそうだけどよ、と口をつぐむ。
強さや勝負以外の周りへの関心などゼロの我が上司が、どうしてかこの少女にはべったりで、阿伏兎にはそれが不思議でならなかった。
女を知らない男ではないが、色事への興味などないと思っていたのに。
恥ずかしげもなく好意を口にして、甘え倒す神威というのは、別の意味で想像を絶する恐ろしさだった。

「よし、終わった!はい新ちゃん、これあなたのよ」
「あ、ありがとうございます」
「妙、遊ぼうよー」
「もう、神威さん、いい加減離れて下さいな」
「えー、やだー」
「このままじゃお茶もお菓子も用意できませんよ?」
「むー」
「「僕が(俺が)準備してきますっ!!」」

新八と阿伏兎は同時に立ち上がって、ダッシュで居間を後にする。
むー、という言葉の間に、神威の目がすっと細まって、綺麗な笑みが浮かんだのを二人はしっかりと見た。訳すとすれば、「言わなくてもわかるよね」だ。

「わーアリガトー。さすが阿伏兎。よくわかってる」
「まあ、お客様にまで準備させるなんて」
「いいのいいの!あいつが自分で言い出したんだしほっときなよ。ああいうの得意だから」

ぎゅうっと腰に一層強く抱きついて、立ち上がろうとした妙をその場に押し止める。
懲りずにぐりぐりと頭を押し付けてくる神威に苦笑して、腰に回った手に己の手を重ねた。

「どうなさったんですか?今日はいつもよりも甘えたさんですね」
「んー、充電」
「充電?」

うん、とくぐもった声で神威が返答する。
だって、と続けた。

「これから一週間以上妙に会えなくなるもん。離れる前に、ちゃんと充電しておかないと」
「まあ、私は電池ですか?」

くすくすと笑う妙に、神威は機嫌よく足をぱたぱたさせる。

「妙はさみしくないの?一週間も会えなくなるんだよ?」
「さあ、どうかしら?あんまり毎日来られるんですもの。逆にせいせいするかも」
「た、妙…。それ本気で言ってるの?」

いたずらっぽく笑って見せた妙。
慌てて起きあがって、妙の顔を不安げな表情で覗き込んだ。

「ごめんなさい、冗談ですよ。そんな顔しないでくださいな。」
「…妙の意地悪」

ぷう、と頬を膨らませて、妙をそのまま腕の中に閉じ込めた。

「…妙といると、うまくいかないことばっかりだ」

少し寂しげな声。そこに僅かな苛立ちを滲ませて、神威は妙をぎゅっと抱きしめる。
妙の困ったような声が神威を呼んだ。

「なんだか自分が自分じゃないみたい。それでも、その相手が妙ならいいと思えるんだ」
「そう」

神威の声に妙は静かに相槌を打って、その背をそっと撫でる。

「神威さん」
「なに?」
「一週間会えないのは私も寂しいわ」
「…ほんと?」
「ええ、ほんとよ。だから、早く帰って来てくださいね」

うん!と大きく返事をした神威は、妙を抱きしめる腕に力を込めて、大好きだよ!と笑う。その笑顔が、穏やかなものであることを妙は確かに感じ取った。

***

「あの、」
「…なんだ」
「これ、いつ入ったらいいんですか」
「そうだな…。あと一時間は待つか」
「ハァ…」
「すまん」
「いえ、もう…。ほんと不本意ですけど慣れましたから。阿伏兎さん夕飯食べていきますか?」
「いいのか?」
「ええ。もう、ついでですし。今から準備するんで、手伝って下さい」
「了解」



ある昼下がりの出来事
(あ、言っときますけど、僕まだ認めてませんから!結婚とかそういうのはまだ早いですからね!)
(ああ、うん…。(こないだ団長が指輪とか結婚式場のカタログ見てたってのは黙っとこう))


Title: a dim memory



大変お待たせいたしました!リクエスト下さったルナさまに捧げます!
まだのぞいて下さっているでしょうか…?ラブラブな威妙が書けてほくほくです!途中まさかのシリアスになりかけて慌てて軌道修正しました←
お妙さんが大好きで、でもそんな自分に少し違和感を感じてて、でもお妙さん相手なら自分が変わるのも悪くないかな、なんて思ってる神威を書いてみました。補足しないとわからない微妙な書き方でごめんなさい><でも気に入って頂けたなら嬉しく思います^^素敵なリクエストありがとうございました!




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