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「ねぇねぇ妙〜」
「……」
「妙〜。ねぇ妙ってば〜」
「……」
「何何?拗ねてるの?ごめんね、今日はちょっと来るのが遅くなっちゃったから。明日は、」
「…神威さん」

昼過ぎに、行ってきますと遅めの出勤をした新八を見送って、縁側で一息ついていた妙の元に現れたのは桃色の髪をしたおさげの少年。
妙の穏やかな午後をぶち壊した少年は、無邪気に妙の名前を呼ぶ。
妙はにっこりと綺麗に微笑んで、膝の上でごろごろする神威の頬を思い切り抓った。

「いひゃい!いひゃいよひゃえ」
「もういい加減にして下さい!毎日毎日鬱陶しいわ!」

ぺちん、と頬を叩いて、もうひとつおまけにでこぴんをしてやる。
痛いよと抗議の声は上げるものの、膝から退く気はないらしい。
甘えるようにすり寄って、妙の細い腰に腕を絡める。

「鬱陶しいだなんてヒドイなあ。妙は俺が嫌い?」
「そうじゃなくて、いい加減離れて下さいと言っているんです。これじゃあ何も出来ないわ。膝枕だって疲れるんですから」

えーヤダーと口を尖らせる神威に、妙もほとほと呆れてため息をついた。
幸せが逃げるよ、なんて言うアホをぎろりと睨みつけてもう一度頬を抓る。
相変わらず愛情表現が激しいね、という声が聞こえた気がしたがきっと空耳に違いない。

どうしてこうなった、と妙はまた深いため息を漏らす。
神威と出会ったのはほんの偶然だった。買い物途中に寄った団子屋で、席が隣だったというただそれだけの話だ。
しかし、それがどういうわけか懐かれてしまい、最近では毎日のように家にやってくる。
家の場所なんて教えた覚えは全くないのだが、深く考えるのはやめにした。

「お仕事はどうしたんです」
「ん?阿伏兎がテキトーにやってくれてるから大丈夫だよ」
「また阿伏兎さんに任せっきりにして!こんなところに来てる暇があるなら仕事しなさい」

すみません団長を頼みます、と言って申し訳なさそうに頭を下げていた阿伏兎に同情する。
こんな自由奔放でわがまま放題な上司に仕えるのは大変に違いない。

阿伏兎の分も加えて少しきつめにおさげを引っ張ると、妙の意地悪!と言ってぎゅうぎゅうと腰に抱きついてきた。

(ああもうこの人は…!)

何をしても、何を言っても、神威には無駄だと学習したのは最近のこと。
いくら拳をふるっても、飛びっきりの笑顔で毒を吐いても、神威はあっさりとかわしてしまう。しまいにはいちいち反応するのも面倒になって、やりたいようにやらせておこうという結論に至った結果がこれだ。

これでもかというほど甘えてスキンシップを求めてくる神威にいい加減うんざりしているのは事実だが、自分を姉御と呼び慕う少女の顔がちらついて、どうしても邪険に出来ないのも本音だった。

桃色の髪に青い瞳。
さすが兄妹と言うべきか、神威と神楽はよく似ていた。
双方の間には何か事情があるようで、神威は神楽に会いに行こうとしない。
深くは知らないが、詮索をするつもりもなかった。

神威の仕事とやらは表社会で堂々と口に出来るものではないらしい。神威から仕事の話を聞いたことはないが、妙はなんとなく気付いていた。それが薄暗く血なまぐさいものだということも。

無邪気なように見えて、時折こちらの肝が冷える程冷たい笑みを浮かべる神威が怖くないと言えば嘘になる。
神威はぽやんとしているようで、無邪気なだけの少年ではない。
それでも強く拒絶できないのは、惹かれているということなのかもしれない。

膝に乗った神威を落とすのは諦めて、妙はそっと頭を撫でる。
初めて会った時の殺気はどこへやら、今の神威は大きな子供のようだった。

桃色の柔らかい髪を梳くように撫でてやると、神威は気持ち良さそうに目を細める。
手に馴染む髪質は神楽とそっくりで、知らぬ間に頬が緩んだ。

「妙?」

不思議そうに妙を見上げる神威に、妙は何でもないわと首を振る。
神威はふうんとどこか不服そうな返事をして頬を膨らませた。
ぷっくりとした頬を指でつつけば、くすぐったそうに笑う。

「…俺、妙の手好きだな」

神威は妙の手をまぶしそうに見つめ、そっと頬に寄せた。

「なんていうか、安心する」

安心したように目を閉じて、神威は手を重ねる。
指を絡ませるように握って、指先にちゅ、と口付けを落とした。

「好きだよ」

妙が見下ろした先には、ふたつの青い瞳。
もう聞き慣れているはずの言葉に、妙の心臓が音を立てて跳ねた。

「…神威さん」

わずかに朱色を帯びる頬。
困惑したような声を上げれば、なあに、と甘い声で返事をして、神威が起き上がる。

妙の伏せた目を覗き込むようにして、神威は瞼にまたひとつ口付けた。
びくりと身をこわばらせた妙に構うことなく、そのまま腕の中に収める。
大好きなんだ、と耳元で囁いて抱きしめる力を強めた。

「ほんと、困った人ね…」

呆れたような顔に反して、その声は優しい。
神威はそのことに満足したのか、嬉しそうに妙の頬にすり寄る。

「ね、キスしていい?」

耳打ちした言葉に途端に真っ赤になった妙にかわいいととびきり甘く囁いて、神威はその返事ごと唇を優しく塞いだ。


マイベイビ、アイラビュウ!
(君がいるから、世界は輝く)



Title: エドナ


お待たせしましたァァァァァ!リクエスト下さった三日月さまに捧げます!ほんとに時間かかり過ぎて申し訳ありません…!><。まだ覗いて下さっているでしょうか…?お妙さんが好きでたまらない神威を目指したつもりですが、いかかでしょうか?気に入って頂ければ嬉しく思います^^クールなヤンデレ神威もいいですが、ベッタベタにお妙さんに甘える神威もやっぱり捨てられませんよね!甘甘なふたり、楽しく書かせて頂きました^^素敵なリクエストありがとうございました!




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