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今日も今日とて妙の勤めるすなっくスマイルは大盛況らしい。
ほぼ満席状態の店内を見渡しながら、銀時はぽりぽりと頬をかいた。

少しばかり潤った財布の中。
新八や神楽に給料も支払って、滞納していた家賃も一月分ではあるがきちんと納めて来た。
少しくらい女と楽しく酒を飲んで遊ぶくらい許されるだろう。妙のお小言にだって今日はなんとか反撃できる。

と、つらつらと言い訳じみた言葉を頭の中で並べ立てながら銀時は無意識に妙の姿を探した。

入口でぼんやりしていると、ボーイがお待たせしました、と駆け寄ってくる。

「いらっしゃいませ。ご指名は?」
「…お妙ちゃん頼むわ」

少し迷って、結局妙の名を告げる。
売り上げに貢献してやるのも今日なら悪くない。そんなことを思いながら。

「申し訳ありません。ただ今お妙ちゃんはVIP接客中でございまして…」
「は?びっぷぅ?」

予想される妙のお小言への返答を頭の中でシミュレートしていた銀時は、ボーイの予想外の返事に間抜けな声を出す。
申し訳ありません、とボーイはまた謝って、今日は他の子のご指名をお願いします、と続けた。

「…VIPって誰だよ」

ぼそりと呟いた銀時の声の不機嫌さにボーイは苦笑する。
何かと問題ばかり起こす少女ではあるが、やはりナンバーワンの人気は伊達ではないな、とボーイは感心したように店内に飾ってある妙の写真を見やる。
何しろ、今日妙を指名したのはこれで5人目なのだ。
1人は気のいい常連で、残念そうにしながらもまた来るよ、とにこやかに帰っていった。
しかし、他の4人は一筋縄でいく連中ではなく、仕方なく妙の手が少し空いた時に少しだけ、という条件の下で代打の女の子が接客している。
どうやらこの旦那もその席に加わることになりそうだ、とボーイはそっと嘆息する。
何にせよ、店の売り上げは妙によるところが大きい。その妙の常連客を無下にするわけにもゆくまい。

「いつのまにVIPなんて制度出来たんだよ。まさかゴリラか!?ゴリラなのか!?」

1人でぶつぶつ言っている銀時をボーイは生温かい目で見つめながら、とりあえずこちらへどうぞ、と席へ案内する。

「あれ?万事屋の旦那?」

案内された席の顔ぶれに、銀時はぴしりと固まった。
ご期待通りの反応ありがとうございます、と心の中で苦笑しながら、ボーイはごゆっくり、と頭を下げる。

「じゃあおりょうちゃん、後は頼んだよ」
「はいはーい。お妙の人気ぶりにも困ったもんだわ〜」

笑みを浮かべるボーイを見送って、おりょうは銀時に座るように促す。
しかし、当の銀時は眉間に深い皺を寄せてその席に座る顔ぶれを睨みつけていた。

「…何でお前らがここにいんだよ」

不快感を微塵も隠さず、銀時は言い放つ。
それを受けて、黒髪黒服の男がぴくりと眉を動かした。

「そりゃこっちのセリ」
「あれ?万事屋さんも来たん?」

妙ちゃん人気もんやなぁ、と言いながら、呑気に席に戻ってきた花子におりょうはため息をこぼす。

「花子アンタ空気読みなさいよ…」
「え?」

言葉を遮られた男は怒るわけにもいかず、ただ黙って眉間の皺を深めた。

「この子がすみません、土方さん。まあ、万事屋の旦那もそう殺気立ってないで座って座って」

おりょうにそう促され、銀時も渋々腰掛ける。銀時も土方も互いに殺気を強めながら、思い切り舌打ちをして顔を背けた。

「相変わらず仲がよろしいようで。相思相愛じゃねェですかィ」

カランとグラスの氷が音を立てる。
ぐびりとグラスに入った焼酎を飲み干して、少々赤ら顔の沖田がニヤついた顔で銀時と土方を見た。

「「仲良くねーよ!!!」」
「仲良しさんなんやな〜」
「アンタはちょっと黙ってなさい」

「つーか総悟テメェ未成年の癖に何してやがる!そもそも何でお前がここにいんだ!」
「近藤さんに誘われたんでさァ。まさか非番のアンタがこんなとこにいるたァ思いやせんでしたけどねィ」
「で、その近藤がアレなわけ?」

おりょうに手渡されたビールを飲みながら、銀時はソファーに沈む近藤を指差す。
めり込むようにソファーに倒れこんでいるのは恐らく、妙の鉄拳によるものだろう。

「…さっきちょっとだけ挨拶に来たお妙にね」
「めっちゃ綺麗なストレートやったわ」
「…あっそ」

うんうんと頷く花子。その様子が容易に想像出来て、引きつった笑みがこぼれた。

「…つーかVIPって何よ。俺聞いたことねェんだけど」

ジョッキに入ったビールを片手に、銀時はおりょうに問いかける。
土方も視線をこちらに寄越した。

「あー、VIPね…。最近できたばっかりだから」
「てっきり貢ぎまくってるゴリラとか松平のエロ親父とかそのへんだと思ってたけど、この様子じゃ違うみたいだな」
「確かに近藤さんも松平さんも上客には違いないんだけどね…」
「上には上がおるねん」

腕を組んでうんうん、と頷く花子の頭を軽く小突いて、おりょうが続ける。

「つい2、3ヵ月前くらいからかな?ものすっごいお金を使ってくれるお客さんが通ってくるようになってね」
「彼お妙ちゃんしか指名せえへんし、使うお金の額も半端じゃないから、VIPっていう扱いになってるんよ」

妙しか指名しない、という部分に3人の男がぴくりと反応を示す。わかりやすいったらないわね、とおりょうが苦笑した。

「私たちが話せるのはここまで!さぁ、旦那、次は何にする?」
「ドンペリとかドンペリとかあるよ〜」
「…そのVIPってェーのはどこにいんだよ」

不機嫌そうな声を出した銀時に、おりょうは小さくため息をつく。
やっぱりこうなるか、と肩をすくめた。

「それ聞いてどうするの、旦那」
「どうって邪魔しに行くに決まってまさァ」

グラスに残った焼酎を飲み干し、沖田が好戦的な光を灯して目をすがめる。

「…総悟」
「何ですかィ。ほんとはアンタだって気になってる癖に、余裕ぶるのもいい加減にしなせェ」

そんな調子じゃ、俺が姐さんいただいちまいやすぜ。

挑発的にそう言って、沖田が土方を睨み付ける。
土方は眉間の皺を深くして短く舌打ちした。

「ほんまお妙ちゃんモテモテやなぁ」
「何のんきなこと言ってんのよアンタは!ってあれ、万事屋の旦那は?」
「へ?」

辺りを見回すと、確かに銀時の姿が消えていた。
まさかと思って、おりょうは妙がいる奥のテーブルを見やる。
視界に入ったその情景に、まさかが的中して大きくため息をついた。

「…あーあ。もう知らない」
「行ってしもたね」
「半分はアンタのせいでしょーが」
「なあなあ、フルーツの盛り合わせ頼んでもええかなぁ?」
「どんだけ自由なのよアンタ…。でもいっか。情報料ってことで頼んじゃおう!」

***

「…何でテメェがこんなとこにいやがんだ!!!」

先ほど土方に向かって言った語気とは比べ物にならない強さで、銀時がそう叫ぶ。
鋭い視線の先には、悠然と笑みを浮かべる桃色の髪の少年。
もぐもぐと動かしていた口元をぬぐって、あーあと呟いた。

「見つかっちゃったね」

残念だなあ、と言いながら、その声音はひどく楽しそうだ。
やってきた沖田と土方を見つけて、また笑みを深める。

「旦那、知り合いですかィ?」
「…誰だ」
「こいつは、」
「まあ、銀さん?」

殺気を隠そうともしない銀時たちの中に、渦中の人物の綺麗なソプラノが割って入った。
姐さん、と呼んだ沖田にこんばんは、と会釈を返す。

「いらっしゃいませ。あなたまでいらしてたんですか」

今日は大忙しなんですよ、と妙は困ったように笑った。

「3人そろってどうしたんです?」
「妙!」

妙の問いかけに銀時たちが答える前に、妙が呼ばれて振り返る。
土方のみならず、沖田と銀時の眉間にも皺が寄った。

「遅いよ、妙!」
「ごめんなさい、神威さん」

テーブルに戻った妙を横から抱きしめる神威に、銀時が叫んだ。

「は!?ちょ、お前何しちゃってんのォォォォ!?」
「姐さんを離しなせェ!」
「…どういうこった」

口々に飛ぶ野次に妙は眉を下げる。

「いいんですよ。言ったって聞かないんですから。もう慣れちゃいました」
「わーい、妙大好き〜」
「はいはい」

神威は頬を摺り寄せてぎゅうぎゅうと妙を抱きしめる。
銀時たちに向かって、ざまあみろとでも言いたげな笑みを浮かべて舌を出した。

「何がどうしてこうなった!?お前いつからこいつと知り合いなんだよ!!」
「もう、なんですか。大声出して。神威さんは常連さんなんですよ」
「常連!!?どうなってんだよオイ!!お前団長じゃねェのかよ!?」
「いーのいーの。大体のことは阿伏兎がやってくれてるから。それより俺と妙との時間を邪魔しないでくれない?お侍さんとはまた今度遊んであげるからさ」

にっこりと浮かべた笑顔の中にちらりと宿る殺気。
妙に向ける笑顔とは、明らかに種類の違うそれに、銀時も土方も、そして沖田もぴくりと眉をひそめる。

―――邪魔するなら殺しちゃうよ?

暗にそう言って、神威はまた笑みを深めた。
一発触発に近い空気が流れる中、土方も沖田も愛刀に手をかける。
どうしたものかと銀時が視線を動かしたとき、こら、という声が張りつめた空気をぷつりと切った。

「神威さん、いい加減にしてくださいな」

邪魔しないでよ、と言った神威の頬をゆるく抓って、それから包み込む。

「神威さん、この間私とした約束は覚えてますか?」
「…覚えてるよ」
「なら復習です。一、このお店では、」
「暴れない」
「二、銀さんたちに会っても、」
「大人しくしてる」
「三、何があっても、」
「手は出さない」
「はい、よくできました」

そう言って、妙はよしよしと神威の頭を撫でる。
きちんと約束、守れますよね?と幼子に言い聞かせるように言って、神威の海色の瞳を見つめた。

「ちぇー…」
「よろしい」
「俺、三つ目の約束には納得してないんだけどなぁ」

拗ねたように頬を膨らませて抱きついてきた神威を受け止めて、そっと背を撫ぜる。
神威さん、という窘めるような妙の声音にため息をついて、わかったよ、と渋々頷いた。


「…今日はせっかくゆっくりできると思ったのになあ」
「まあ。いつもゆっくりなさってるじゃありませんか」
「妙と二人っきりでって意味だよ!」

どういう意味だよそれ!と突っ込む銀時を後目に、神威はこれ見よがしにぐりぐりと妙の胸に頭をすりつける。

ザマーミロと言わんばかりにちろりと舌を出して、神威は甘えた声にごろごろとすりよった。

浮かぶ青筋。
沖田が抜刀しかけたのを、土方が寸でのところで制止した。

「残念だけど、邪魔者も来ちゃったみたいだし、そろそろ行こうかな」
「あら、もうお帰りになるんですか?」
「さびしい?」
「…ええ、とても」
「…営業スマイルには困っちゃうなあ」

神威は珍しく困ったように笑って、妙の頬をするりと撫でた。

「さて、地球のお侍さんたち。俺と鬼ごっこだ」

去り際に妙の頬にキスを落として、またね妙!と大きく手を振った。

「どさくさに紛れて何してんの!?」
「待ちなせェ!!」
「っのヤロ!」

神威を追いかけてバタバタと店を出て行った三人を見届けて、妙はソファに腰を下ろす。

久々に賑やかだったわね、とくすりと笑みを浮かべた。

「はい、お疲れさま」
「お妙ちゃんお疲れ〜」

フルーツの盛り合わせを両手に抱え、おりょうと花子が妙の両隣に腰を下ろす。
ありがとう、と差し出されたグラスを受け取った。

「やっと静かになったわね」
「ふふ、ごめんなさいね」
「いいんよ〜。見ててめっちゃおもろかったもん」

なあ、おりょうちゃん、と花子が笑う。
そうそう、とニヤつきながらおりょうがぐびりとシャンパンをあおる。

「ほら、お妙!夜はまだまだ長いわよ!」
「そうやでお妙ちゃん!飲も〜!」
「そうね、飲み直しましょうか」

ドンペリ追加オーダーお願いしまーす!という明るい女性陣の声がすまいるに響く。

かぶき町の夜は、まだ始まったばかりだ。






注意人物



(誰にとっても、何にとっても)
(さあ、だれだ?)




Title: a dim memory


大っっっ変お待たせいたしました…っ!リクエストくださった灯夜さまに捧げます!お妙さんを自分のものだと見せつける神威ということで、ありがちですが、みんなの前でちょっといちゃいちゃしてもらいました。途中から当て馬三人組の影が薄くて申し訳ないです…。途中何度かシリアスになりかけたんですが、なんとかギャグ風の着地にしたつもりです。灯夜さまのイメージに副っておりますでしょうか。返品・リテイク承りますので、お気軽にご一報くださいませ。まだのぞいてくださっているかはわかりませんが、楽しいリクエストを本当にありがとうございました!


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