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『ゴリラの死体を早く引き取りに来てください』

ぴしゃりと告げられた言葉に、土方はつい押し黙る。
姿が見えないと思ったら、やはりお得意の愛の狩人ごっこ、もといストーキング行為に勤しんでいたらしい。
最近はある噂のせいで部屋に引きこもりがちになっていたのだが、また懲りずに会いに行っているとは。
謝罪よりも先に口をついて大きなため息が出た。

『土方さん?』
「…いや、すまん」
『お仕事もおありかと思いますが、いつまでもあんなものを庭に放置しておきたくないので、早急に引き取りにきてください』
「…あァ。手間かけたな。すぐに行く」
『縁側に回ってください。お留守番がいますから』
「は?留守番?」
『ええ。実は今、お買いものに出ているんです。行けばわかりますから。良かったらお茶でもご一緒にお飲みになったらいかが?』

珍しく楽しそうな声音で、少女は笑う。
とりあえず、わかった、と返事をして電話を切った。

「ほんとどうしようもねェな、あの人は…」

口から漏れるのはため息ばかり。
情けないやら腹立たしいやら、複雑な気持ちで土方はそのまま志村邸を目指した。

***

「なんでお前がここにいんの」
「…それはこっちの台詞だ腐れ天パ」

電話口で言われた通り縁側へ回ると、そこにいたのは銀髪の男。
留守番ってのはこういうことか、と土方はため息をつく。縁側にだらりと腰掛けながら茶を啜る男に、眉間に深い皺を寄せた。

「で?」

うちに何の用だとも言いたげに、銀髪の男は土方に問いかける。
目は相変わらず死んだ魚のようだ。

「…ここの家主から近藤さん回収命令が下ったんだよ」

しかめっ面でそう答え、土方はそっぽを向く。
庭の隅で伸びている近藤(いつもより2割増しほど傷が多そうである)を見やり、銀時は大変なもんだなァと棒読みで告げた。

さらっとそれを無視して、これみよがしにため息をつく。

「ちょ、やめてくんない。なんか辛気臭そうなオーラうつりそうなんですけどー」

まるで子どものような物言いに、土方はまた眉間の皺を深める。
あの女もどうしてこんな男を選んだんだか、とまた口をついてため息がこぼれた。
目の前のいけ好かない男と、近藤が盲目的に愛する少女が付き合い始めたらしい、という噂を耳にしたのは、つい最近のことだ。
出所は山崎。信憑性があるのかないのかいまいち微妙だが、今回のことは十中八九本当だろうなと土方はなんとなく感じていた。

「…なに」

じろじろ見んなマヨ方、と悪態をつく様子は以前とそう変わらないが、纏う空気が少し和らいだように思う。
のんべんだらりとしたぐうたらな男ではあったが、どこか他人と一定の距離をとっているようにも見えた。護り護られる関係というものに、存外固執しているようにも。
いけ好かない男のそんなことに気づいてしまう自分に、若干の吐き気を催しながら、土方はそういえば、と話を振った。
この話を聞いて、近藤は泣くし喚くしで、何かと被害を被っているのだ。(それでもストーカーをやめていないことに関しては言及しない。)それに、真選組全体も、心なしか士気が下がったよう。「俺たちの姐さんになるのは、お妙さんしかいないと思ってたのに…」という隊士のつぶやきを聞いてしまったからには尚更。

要するに、土方は銀時に腹が立っていた。

まったくの八つ当たりだとわかってはいても、仕返ししてやりたくなるのは隊全体の尻拭いに奔走している副長のちょっとした遊び心というやつである。

「…なんだよ」
「お妙さんと付き合い始めたってのは本当なのか?」
「ぶふぅっ!」

銀時が飲んでいたお茶にむせてげほげほと咳き込んだのを横目に、土方は煙草に火をつける。

「…なんで、」
「ザキ情報。今回は間違ってなかったみたいだな。うちの大将からすりゃァ、外れててほしかったみたいだが」

銀時の言葉に被せるようにそう言って、失恋の悲しみに暮れる近藤が立ち直るのはまだまだ先になりそうだと土方は苦笑した。

「…ちげェよ」
「は?」

もごもごとふてくされたように呟いた銀時に、土方が眉をひそめる。
なんだって?とやや喧嘩腰で尋ね返すと、銀時はやけになったように叫んだ。

「まだなんだよ!」

勢い余って立ち上がった銀時は、しーんとした空気に居た堪れなくなってそっとまた腰を下ろす。
なんだよなんか俺超カッコ悪くね?とぶつぶつ言う銀時に、土方はこのヘタレめと侮蔑の表情を浮かべた。

「今失礼なこと考えたよね絶対!!」
「るせェなこのヘタレが」
「ヘタレじゃねェェェェ!!俺Sだから!おたくの王子には負けるけど俺もドS設定だからね!!?」

知るかよ馬鹿、と土方は眉間に皺を寄せる。
まだ付き合っていないとなると、悲しみに暮れる近藤には朗報である。
またあのテンションで、(いや、以前よりも勢いは増すに違いない)ストーキングが始まるのかと思うとげんなりとしたが、近藤には幸せになってもらいたい。
好いた女がいるのなら、その女と一緒になるのが一番だ。少々気が強く生意気な少女ではあるが、幸か不幸か隊士たちからの信頼も厚い。
目の前のいけ好かない男と一緒になるよりかは、近藤と一緒になった方があの女にとっても、自分たち真選組にとっても幸せなことに違いない、と土方は頭の中でそう結論付ける。

揺さぶりをかけるなら今か、と冷静に判断を下して、土方はこっそり口角を上げた。

「へェ。じゃあまだ、挽回のチャンスはあるってことだ」
「は!?何が!?ないから!チャンスとか全然!!」
「どうだかなァ。お前みたいなちゃらんぽらんな甲斐性なしより、近藤さんと一緒になった方が、お妙さんは幸せになれると思うぜ」

甲斐性なし、という言葉に銀時は反論を試みるが、図星すぎて二の句が告げない。
そんな銀時をどこか満足そうに見やって、土方は、それに、と続けた。

「ゴリラだけじゃねェかもしれねェぞ」

途端に眉根を寄せた銀時に、土方は挑発するようにそう続ける。
あんな犯罪スレスレのアプローチで近藤が妙を落とすなんてことは到底ありえないとわかってはいたが、敬愛する我らが大将のお相手がかかっているのである。
多少の意地悪は許容されるだろう。

「うちの総悟だって、なんのかんの言いつつお妙さんのことは気に入ってるみたいだしな。何しろあいつが近藤さんの惚れた女を“姐さん”と呼ぶのは初めてだ」

ぴくり、と銀時が反応を示す。
なんでそこでドS王子!?とあからさまに声をひっくりかえした。

短くなった煙草を携帯灰皿に押し込みながら、土方は懐から新しい煙草を取り出す。
それをくるくると手で弄びながら、土方はしたり顔で笑った。

「近藤さんはあれでなかなか惚れっぽくてな。お妙さんにああなる前は、しょっ中相手が入れ替わってた。中には近藤さんといい感じになった奴もいたにはいたしな」
「ふ、ふーん?それでなんでうまくいかなかったんだよ。あのゴリラに惚れてくれるような女とか貴重だろ」

動揺を隠しつつ、銀時は土方に続きを促す。(しかし声は震えていた)

「何でだと思う?」

問い返された質問に、銀時はイラついたように眉を寄せた。

土方のライターがカチリと鳴る。
火のついた煙草を咥えて、煙を吸い込んだ。

「総悟が認めなかったからだよ」
「は?」

言葉と同時に煙を吐き出して、土方は薄く笑う。

「は?認めなかったって、それだけ?」
「近藤さんの妻になるってことは、俺たちが一生“姐さん”と呼んで敬わなきゃならねェ相手だ。誰でもいいってわけでもねェさ。ここまで言やわかるだろ?」

ジジ、と煙草のフィルターが灰になっていく。

「…つまりお前らはゴリラの相手をふるいにかけてるってことか?」

否定も肯定もせず、土方は黙って煙草をふかす。

ということは、つまり。

「…ふぅん?で、ゴリラは知らねェってわけか」
「そもそも総悟や他の隊士目当ての時だってある。あの人は疑うってことをしねェからな」
「へェ、泣けるじゃねーか。大事な大将のために隊士がそろって面接たァ」
「あんなでも真選組の頭だからな。俺たちは揃いも揃ってあの人に惚れてんだ」

呟くように告げた土方の顔が穏やかで、銀時は少し面食らう。
大した忠誠心だな、と皮肉って、冷めた茶を啜った。

「…で、お妙は合格点だったってわけか」

煙草を咥えたまま、土方は視線だけを銀時に動かす。
紫煙を吐き出して、お妙さんだけは、と続けた。

「…お妙さんだけは、違った。近藤さんが今までで一番真剣だってのもあるが、一番厳しかった総悟が唯一“姐さん”と呼ぶことを認めた女だ」

不機嫌さを隠すことなく、ふぅん、と銀時は相槌を打つ。

「…で?」
「俺たちもそう簡単には引けねェってことだ」

かちり、と合う視線。
互いが本気なのだと、告げていた。

「そこに私情は入ってねェんだろうな?二枚目の副長さんよォ」
「…さァな」
「っのヤロ、」

「あれ、土方さん?」
「マヨがいるアル」
「あら、土方さん。まだいらしたんですか。早く持って帰って、出来れば処分してくださいな、ソレ」

一発触発な空気の中に、新八と神楽ののんびりした声が割って入る。
明らかに何かを背負った風な笑みを浮かべる妙に、銀時と土方は反射的に気をつけした。

「今日はカレーアル!」
「神楽ちゃん、そこの荷物持ってきてくれる?」
「仕方ネーな。酢昆布1箱で手を打つアル」
「酢昆布徴収性なの!?」

わいわいと楽しそうに台所へと駆けていく新八と神楽を、妙は優しい目で追いかけながら微笑みを浮かべる。
その微笑みに、二人してつい見惚れた。

「さて、銀さんも台所へお願いします。今日は男のカレーだって新ちゃんが張り切ってましたから。とびきりおいしいの、お願いしますね」

銀時は新八グッジョォォォォォブ!!と心の中で親指を立てながら、縁側から居間へ上がる。
妙には見えない角度から、土方に勝ち誇ったような笑みを浮かべてザマーミロ、と舌を出した。

「…っ、」
「あ、土方さんも召し上がって行かれます?」
「は?」
「…いいのか?」
「は!?なんでそうなる!?さっきお前、早く帰れって言ってたよね!!?絶対嫌ですぅ!!マヨ依存症と飯食うなんて俺はごめんだから!!」

妙の予想外の申し出に、銀時は全力で拒否を示す。うるさい、と妙から強烈なボディーブローを食らって、銀時はうずくまった。

今度は土方がザマーミロと笑う。

「いや、せっかくだが遠慮しておく。近藤さんを連れて帰らなきゃならねェからな。世話かけて悪かった」
「うふふ、本当に。いっそ動物園の檻の中にでも入ってしまえばいいのに」

妙の相変わらずな物言いに土方はひきつった笑みを浮かべるが、じゃあな、とそのまま背を向ける。

「あァ、そうだ」
「はい?」
「今度いつもの詫びに飯でもどうだ。ダッツでもなんでも奢ってやるよ」
「まぁ、いいんですか?楽しみにしてますね」
「あァ、また連絡する」

いまだ痛みにうずくまりながら、コンニャロ、と青筋を浮かべる銀時を勝ち誇ったように一瞥して、土方は後ろ手に手を振った。

右手に引きずる近藤が少し邪魔ではあるが、お気をつけて、と土方を見送る妙はさながら恋人か夫婦のようで、銀時はうずくまりながらもギリィと拳を握りしめる。

つーかなんであいつお妙の携帯番号知ってんの!?と喚く銀時の背中に、急にずっしりとしたものがのしかかってきた。

「ぐえっ」
「圧倒的に銀ちゃんが不利アル」
「は!?神楽!?」
「アネゴのこと好きならもっと頑張らないとモノに出来ないヨ!」
「…お前またなんかのドラマに影響されてるだろ。つーかなんで知ってんの!?」
「今は三角関係の学園ドラマに夢中ネ!銀ちゃんバレバレアル。気付いてないのアネゴと新八だけヨ」
「新八は気付いてねェんだな!?おっしゃ、まだセーフ!!」
「でもこないだサドとアネゴが二人で出掛けてるの見たってヘコんでたネ。サドとマヨならマヨのがまだマシアル」
「うんうん、沖田くんとお妙がね〜、っては!?なんだって!?二人で出掛けてた!?」
「銀ちゃんうるさいアル。アネゴがモテるのは今に始まったことじゃないネ。私が知ってるだけでも片手では足りないアル」
「は!?嘘だよね!?それ嘘だよね神楽ちゃん!!?」
「私は万事屋の好で銀ちゃん応援してやるアルから頑張るネ!成功したら酢昆布1年分私に貢ぐヨロシ!」
「ちょ、嘘だろォォォォォォォ!!!??」




上がり続ける


(あっちもこっちもあの子狙いだ!)
(果たして、噂が真実になる日は来るか)





本当に、大変お待たせいたしました…っ!遅くなりまして申し訳ありません><まだ覗いてくださっているでしょうか…?リクエストくださったみぃさまに捧げます!
銀妙+土とのことだったのですが、ただの総受け話になってしまいました…。「真選組のみんなが近藤さんの相手を値踏みしている」というずっと抱えてきた妄想をしれっと突っ込ませていただきましたが、そんなこんなでちょっと総受け色がきつすぎたかな、と反省しております。銀妙がいちゃいちゃしてなくてすみません;もちろん返品・リテイク承りますので、何かありましたらお気軽にご一報くださいませ。ものすごく楽しんで書かせていただきました^^素敵なリクエストありがとうございました!


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