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※ちょっとだけモブ男さんが出張ってますのでご注意を。






「べっぴんな嫁さん貰ったねェ、旦那」

お釣りを手渡しながら八百屋の親父が言ったセリフに、銀時はまたかと思う。
肯定も否定もせずに曖昧に生返事をして手渡された釣りを受け取った。

隣の肉屋で店の主人と談笑している妙を見やる。

まあ、確かに、黙っていれば、かなり。

「とびっきりの美人で、しっかりしてて、少し気が強いなんて、やるねェ旦那。ほんといい嫁さん貰ったなァ」

からかい口調でそう言う親父に、銀時はため息をついた。

誤解なんだけどなァ、と思いながらも特に訂正する気はない。

本当は、結婚どころか付き合ってすらいないのに可笑しなもんだと銀時は苦笑した。

いつからそうなったのかは覚えていない。
最初のうちは否定していた気がするが、何度も聞かれるものだから、そのうちいちいち否定するのも面倒になって、そのままだ。

顔見知りはよそよそし過ぎるし、知り合いにしては距離が近い気がする。友人というのも少し違う気がした。

自分と妙の関係に名前をつけるとすれば、一体なんなのだろうと銀時は首をひねる。

周りから"夫婦"と呼ばれる度に、満更でもないと思っている自分がいることにも気付いていた。

「夫婦、ねェ…」
「なんだい銀さん。あんな器量よしの嫁さん貰っといて不満でもあるのかい?結婚したからってぼやぼやしてると他の男にかっさらわれて泣き言言うことになっちまうぜ?」

袋に入れられた野菜がガサリと音を立てる。
じゃがいもににんじん、たまねぎが少し。
ああ、今日はカレーだと新八が言っていたな、と銀時はぼんやりと思った。

「あ、ほら。いいのかい旦那。嫁さんナンパされてるよ」
「は?」

夕飯のメニューに思いを馳せていた銀時は、八百屋の親父の声に顔を上げる。
指さされた方向を見ると、顔を赤くした肉屋の店員に一生懸命話しかけられている妙の姿があった。

「ありゃ肉屋の息子だ。顔も悪くないし、優しくて誠実だってここらじゃ評判の男だよ。ありゃあ惚れたな」

にやりと笑った親父に銀時はふぅん?と返事をする。

「惚れたって誰に?」

のんびりとそう聞くと、親父は何言ってんだと呆れたように銀時を叱責する。
とんだ亭主だなあんたは!と怒鳴られるように怒られて、早く行ってやれと背中を押される。

「あ、あの、コロッケつけときますね」
「え、そんな。いいんですか?」
「い、いいんです!サ、サービスですから!」

(…どもりまくりじゃねーか)

少し歩くと聞こえてきた会話。
ご家族は何人ですか、と聞く青年に4人、あ、5人です、と答える妙にどこかがくすぐったくなる。

なるほど好青年だ、とオヤジ臭い講評をして妙の前の青年を見つめた。
頬を赤らめて妙に話しかける姿にチャラけた雰囲気は感じられない。

(一目惚れってやつ?)

(あいつの中身も知らねーで…。ご愁傷様)
銀時は浅くため息をついて、若干の同情を込めた瞳で青年を見つめた。

なまじ見た目がいいだけに、妙に懸想をする奴は意外と多い。
中には妙の凶暴な本性を知りつつもしつこくストーカーする殊勝な存在もいるが、とにかく何かとモテるのだ。
街を歩けば男共が振り返るし、待ち合わせをすれば必ず声をかけられる。
さすが、かぶき町ナンバーワンキャバ嬢の名は伊達じゃない。

銀時はそれらの男たちから妙を遠ざけるのに必死だった。
出来るだけ一人で歩かせたくないし、外で待ち合わせをするときは絶対に遅刻なんかできない。妙が着くよりも先に待ち合わせ場所に着いているのが常だった。

(…あれ?)

そこまで考えて、銀時はふとあるとこに気付く。

(なんで俺が必死になるわけ?)

首をひねりながら、銀時は足を踏み出した。

***

「仲がいいねェ。あんたら夫婦は」

ショーケースから商品を取り出しながら肉屋の主人が言ったセリフに、妙はまたかと思う。
肯定も否定もせずに曖昧に微笑んだ。

隣の八百屋で店の主人と談笑している銀時をちらりと見やる。

自分が妻だとすれば、相手はおそらく、銀時なのだろう。
先ほどこの通りを一緒に通ったから、見られていたのかもしれない。

「あんなぼんやりしてそうな旦那には、お妙ちゃんみたいなしっかりした子が一番だよ」

うんうんと頷きながらそう言う親父に、妙はそっとため息をついた。

誤解なんだけどな、と思いながらも特に訂正する気は起きなかった。

本当は、結婚どころか付き合ってすらいないのに可笑しなものだわ、と妙は苦笑する。

いつからそうなったのかは覚えていない。
最初のうちは否定していた気がするが、何度も聞かれるものだから、そのうちいちいち否定するのも面倒になって、そのままだ。

顔見知りはよそよそし過ぎるし、知り合いにしては距離が近い気がする。友人というのも少し違う気がした。

自分と妙の関係に名前をつけるとすれば、一体なんなのだろうと妙は首をひねる。

周りから"夫婦"と呼ばれる度に、くすぐったいような、どこか嬉しいような、そんな気持ちになっている自分がいることにも、気づいていた。

ぼんやりとショーケースを見つめて、そういえば今日はカレーだったと思い出す。

(明日のお鍋用のお肉を先に買ってしまったけれど、カレー用が先だったわ)

「すみません」
「あっ、はい!」

顔を上げると、そこにいたのは先ほどまでの主人ではなく、自分と同い年くらいの青年だった。

「親父はちょっとお袋に呼ばれたみたいなので、後は俺が聞きますね。いきなりすみません」
「あら、そうなんですか。じゃあこのカレー用のお肉、頂けますか?」

8人分より少し多めにお願いします、とにっこりと微笑む妙に、青年が頬を染める。
妙がその様子に気付くはずもなく、手提げから財布を取り出した。

「おいくらかしら?」
「…あっ、はい!ちょ、ちょっと待って下さいね」

慌てて精算額を計算する青年を妙はにこやかに見つめる。
神楽ちゃん喜ぶかしら、と嬉しそうに微笑んだ。

「…っ、」
「あの、大丈夫ですか?顔が赤いですけれど…、」

妙の心配げな声に、青年はさらに顔を赤くする。
あたふたと精算額を提示して、そのまま肉を包み始めた。

「あ、あの、コロッケつけときますね」
「え、そんな。いいんですか?」
「い、いいんです!サ、サービスですから!」

照れながらはにかむ青年に、ご家族は何人ですか、と聞かれ、妙は5人です、と答える。
定春の分を入れ忘れて言いなおしてしまったけれど、なんだか“5人”という数字にくすぐったくなった。

くすりと笑って、妙は財布からお金を取り出す、が、それを横から手で遮られた。
驚いて顔を上げると、視界に映ったのは見慣れた銀髪。
財布をしまえということらしい。

「…どうしたんです?珍しい」
「…昨日の依頼が結構でかいやつだったんだよ。どうせ神楽の分まで多目に買ってんだろ」
「それはそうですけど、」
「お兄さーん、これ勘定ね」

銀時は後ろから妙を抱きしめるようにして、妙の頭に顎を乗せる。
重いと腕をつねられたが、銀時はそのまま肉の包みを受け取って金を青年に渡した。
じ、と青年を睨むように見つめて、どーも、と言いながら振り返らずに妙の手を引く。

「あっ、ちょっと銀さん!」
「けーるぞ」
「あの、すみません、コロッケありがとうございました!」

「あ、ありがとうございましたー…」

力なくそう言った青年の肩を、父親と八百屋の親父が叩く。

「相手が悪かったな」
「ま、お前の女の見る目は悪くない」
「ドンマイだ息子よ」
「はぁ…」

***

「ちょっと銀さん!急にどうしたんです?」
「…別になんでもねー。早く帰んねーとあいつらがうるせーからな」

振り返らずにそう言った銀時に、妙はため息をつく。
何があったのかは知らないが、好きにさせておこうと苦笑した。

(困った旦那さまね)

そう思って、妙は押し黙る。

(あら?旦那さまって、私…)

かあっと顔が熱くなる。
自分は今、何を考えた?と妙は自身に問いかけた。

(私は、この人が本物の旦那さまでもいいって思っているのかしら)

今までなんとも思っていなかったはずなのに、繋いだままの手に急に気恥かしさが募った。

(振りほどけるのに、)

(このままでいたい、なんて)

思いの外、この人の体温は自分にとって心地いいものだということに、今更妙は気付く。

恋か愛かと聞かれれば、それは少し違うかもしれないが、このままずっとこうしていられたらどんなに幸せだろう、なんて考えて妙は思い切り首を振った。

後ろを振り返ることも出来ない銀時は、つないだままの手にそっと力を込める。

(くっそ何だよ俺!やきもちなんかやいてねーし!断じて悔しいとか思ってねーし!)

振りほどかれないことに少し安心している自分がいるなんて、認めない。断じて。
銀時はそう心に誓って、相手はゴリラ女、と一心に念じた。

しかし。

(こいつ手ェ意外とちっせェな…。あ、竹刀ダコ)

握った手の感触に妙にドギマギしながら、銀時はずんずんと進む。
料理は出来ない癖に他はわりとそつなくこなすんだよな、なんて思いながら。

(無茶ばっかしやがるから、目離せねェんだよなァ…)

無意識に自分が考えたことにはっとして、銀時はうつむく。

(…なんだよ)

(“夫婦”なんて呼ばれてんのに今更か…っ!)

無意識の独占欲と庇護欲。
それから、妙のそばにいることの強烈な安心感。

それらが出す答えはきっと、ひとつだ。



妙は知らない。
銀時の頬が赤く染まっている事も。
彼が自分の中の想いに気付いたことも。


銀時は知らない。
妙の頬が赤く染まっている事も。
彼女が自分の中の想いに気付き始めていることも。

商店街の人々の生温かい視線を受けながら、“似合いの夫婦”と評判のこの二人はまだ、互いの胸の内を知らないのだ。





(その先に進むのはいつの日か、)





大変長らくお待たせいたしまして申し訳ありません…!リクエストくださったまぁさまに捧げます!シチュエーションのみのご指定でしたので、CPと設定は私が勝手に決めさせて頂きました。“恋人未満”という言葉で真っ先に浮かんだCPが銀妙でしたので、「周りから夫婦と勘違いされつつもまだ付き合ってすらいない二人」というベタな設定でものすごく楽しんで書かせて頂きました!まだ見てくださっているかわかりませんが、気に入っていただけると嬉しく思います。
もちろん返品等受け付けておりますので、何かありましたがお気軽にお知らせくださいませ。素敵なリクエストありがとうございました!



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