Free Request | ナノ


『…で?』
『え?』
『だから何なんでィ?』

真っ赤になって少女が告げた言葉に、沖田はそう返す。 湧きあがってくる苛立ちを隠そうともせず、面倒くさそうに少女を見やった。

『え、あ、あの…、よ、良かったら、つ、つき、付き合って欲しくて…』
『俺が?アンタと?』

真っ赤な顔をさらに赤くして、少女はうなずく。 沖田は大きくため息をついて、きつく睨み返した。

『他当たんな。俺ァアンタに興味ねェ』

沖田の言葉に、目の前の少女が凍りついた。 周りにいた友人と思われる女子が、そんな言い方ないじゃない!と吠える。 ああ、うるさいことこの上ない。

『いいよ…っ。もう、いいから…っ』

少女の涙声がして、でも!ともう一人が不満げに声を上げた。 沖田はそれを冷たく一瞥して、そのまま背を向ける。 後ろからまた何か言われた気がしたが、無視してその場を後にした。


「…たくん、」

「きたくん」

「沖田くん!」

呼ばれた名前に、沖田ははっと我に返る。 怪訝そうな瞳でこちらを見つめる少女に何でもありやせん、と笑みを向けた。

「大丈夫?」
「大丈夫でさァ。ちょっとぼーっとしてただけなんで」
「ならいいんだけど…。沖田くん、もう終わった?」
「もうちょっとですねィ」
「早いのね。私はまだかかりそうだわ」

手元のプリントを見やって、妙が苦笑する。
今日出されたばかりの古文のプリント。 提出期限は3日後なのでまだ余裕があった。

夕日が差し込む教室で二人きり。
それなのに、甘い雰囲気にならないのは妙の性格のせいなのか、それとも自分のせいなのか。

沖田は浅くため息をついて手にしていたシャーペンを机に放る。

つまらないことを思い出してしまった、と眉間に皺を寄せた。
呼び出されたのは昼休み。 とんでもなく無駄な時間だったと沖田は心の中で舌打ちをする。
正直、呼び出されることには慣れていたが、告げられる言葉に何の感動も喜びも湧いてこなかった。
ああして集団でやって来て、ずっと好きでした?付き合って下さい?
冗談も休み休み言って欲しい。

自分がその言葉が欲しい相手は、お前らじゃない。

沖田はカタンと椅子の後ろ側に体重をかけて伸びをする。
向かい側に座る妙を盗み見た。
視線に気付いて、妙が顔を上げる。

シャーペンを置いて、私ももうやめるわ、と困ったように笑った。

「提出日までまだ日はありやすし、別に今日やらなくても大丈夫でさァ。明日また一緒にやりやしょうぜ」
「ふふ、そうね。さすがに疲れちゃった。銀八先生にしては珍しく宿題が多いわね」 「どうせ面倒だから課題でまとめて点数つけようとかそんなんでしょう。一気に出してくるあたり性質が悪ィ」

思い切り顔をしかめた沖田に、妙がふふふと柔らかく笑う。
プリントとペンケースを鞄にしまいながら、あ、そういえば、と声を上げた。

「どうしたんですかィ?」
「沖田くん、また振ったんですって?すごく噂になってたわよ」

ぴくり、と沖田の眉が上がる。 あの女、とイラついた。

「…誰から聞いたんですかィ?」
「最後の授業、体育だったでしょう?隣のクラスと合同だから、その時にたまたま。誰から、っていうのじゃないわ。“沖田くんが隣のクラスで一番可愛い女子を振ったらしい”ってみんな騒いでたから」

今日の昼休みの出来事だったにも関わらず、広まる早さと言ったら。
苛立ちのあまり沖田は思わず黙りこむ。それを察してか、余計なことだったわね、ごめんなさい、と妙が申し訳なさそうに謝った。

「…いや、いいんでさァ」
「え?」
「姐さんは、俺が断った理由、知ってやすかィ?」

沖田の蘇芳色の瞳が妙の黒曜石を捉える。 妙も静かに沖田を見つめ返した。

「…どうして?」
「姐さんには、知ってて欲しいんでさァ」

真剣味を帯びた沖田の瞳。

戸惑っているのだろう。しかし、妙はそれでも目を逸らさない。

真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうだった。
綺麗だ、と沖田は素直に思う。
「俺ァ好きな人がいやしてね」
「まあ、」
「いろいろと頑張っちゃいるんでさァ。でもどうにもこうにも鈍感でねィ。苦戦してるんでさァ」
「沖田くんが落とせない女の子なんているの?」

妙が目をまんまるにして沖田に問いかける。
本気で言ってんですかィ、と沖田も苦笑した。

「本気よ。沖田くんに告白されて、断る女の子なんていないと思うわ」
「へェ?」

それこそ、本気で言ってんですかィ、と沖田は心の中で妙に問いかける。
からかう様子もなく、ただ真剣に自分の話に耳を傾けてくれる妙。

(ま、こういうところもかわいいんですけどねィ)

沖田はふっと息をついて、妙の髪に手を伸ばした。

「沖田くん?」
「俺の好きな人はキレーな黒髪なんでさァ」

さらりと髪を撫でて、じっと瞳を見つめる。
こうしておもむろに髪に手を伸ばしても、嫌がられない程度には仲良くなれた。
一見ガードが固そうな妙だが、一度仲良くなってしまえば、その警戒心はいっそ危なっかしいと思えるほどに緩くなる。

信頼してくれているのはわかる。
でも、男としては―――?

胸のどこかぎゅっとなる。
込み上げてくる気持ちを押し込めて、沖田はじっと妙を見た。

「綺麗な黒髪?…そよちゃん、とか、」
「違いまさァ」

見当違いな答えを口にした妙に、間髪をいれずに否定を返す。
すると妙は少し悔しかったのか、思いつく黒髪の女子生徒の名前を上げ始めた。
それにひとつひとつ違うと返事をしながら、沖田はこっそりと笑う。

万にひとつも自分だなんて可能性は考えていないのだろう。
真剣に頭を悩ませる妙に沖田はどうしたものかと考える。

ちらりと時計を見やると、短針がもうすぐ6時をさそうとしていた。
午後6時。
窓に視線を移すと、丁度日が沈んだところで、空が紫色に染まり始めている。

思わずその景色に見入った。

「…綺麗ね」

妙の嘆息が聞こえて、沖田はその横顔に釘付けになる。

好きだと衝動的に告げたくなって、拳を握る。
君の方が綺麗だよ、なんてクサいドラマのセリフが頭に浮かぶほどに、妙の横顔は美しかった。

「っ、姐さ、」

ガラリ。

沖田が口を開くと同時に、開いた扉。
半ば八つ当たり気味にその主を睨み付けると、ぶつかったのは開き気味の瞳孔の切れ長の瞳。

「土方くん」
「…おう」

妙の声に小さく返事をして、何してたんだ、と聞いた。

「沖田くんと宿題してたの。土方くんは委員会?」
「…あァ。もう最終下校近いぞ」
「ふふ、心配しなくてももう帰るわ」

微笑んだ妙を土方は優しく見つめて、そのまま視線を横にずらす。

そして、合わさった視線。

険しい瞳で沖田を見つめ、土方は眉間に皺を寄せる。
『どういうつもりだ』と言いたげな土方に沖田は涼しげに笑って見せた。

「姐さん、帰り寄り道していきやせんか?」

沖田の言葉に、土方があからさまに眉を吊り上げる。
それを視界の端に捉えながら、沖田はにこやかに妙に話しかけた。

「寄り道?」
「帰りは送りやすぜ。飯でも食って帰りやせんか?」
「んー、そうね。今日は新ちゃんも遅くなるって言ってたし…。行こうかしら」
「やりー!じゃあ決まりでさァ」
「あ、土方くんも一緒に行かない?」

せっかくだし、と言いながら、妙は笑顔で土方を振り返る。
途端に沖田が顔をしかめた。

「いいのか?」
「もちろん!ね、沖田くん」

妙の笑顔を見てしまえば、駄目なんて言えるはずもなく。
渋々沖田は頷いて、死ね土方コノヤロー!と言いながら消しゴムを投げた。

「った!テメェ総悟!!」
「マヨネーズと共に眠りにつきなせェ」
「んだとテメェ…!」

睨みあって青筋を浮かべる二人を交互に見て、妙は困ったように笑う。

「相変わらず仲がいいのね」
「「よく (ねェよ!)
(ありやせん!)」」

綺麗にそろった声に妙はくすくすと笑った。
バツが悪そうに黙ったふたりを交互に見つめて、妙は立ちあがる。
職員室に用事があるから校門で待ち合わせにしましょう、と言ってそのまま教室を出ていった。・

「……」
「……」

互いに睨み合って、沖田がぷいと視線をそらす。

「…何のつもりだ」
「何のつもりってそりゃァ俺のセリフでさァ。人の女に横恋慕たァどういう了見で?」
「あァ?誰が誰の女だって総悟」
「近いうちにそうなりまさァ。アンタの入り込む隙なんてありやせんぜ」
「どうだかな。お前は志村を好きだろうが、志村はどうかわからねェだろうが」
「これから好きにさせりゃァいいだけの話でさァ。どっかの誰かさんと違って、俺ァちゃんと意思表示してやすからねィ。焦ってるつもりもありやせん。長期戦は覚悟の上ですぜ。ただ、―――」
沖田はそこで言葉を切って、じっと土方の瞳を射るように見つめた。

「…―――ただ、アンタにだけは渡さねェ」

挑戦的な蘇芳色の瞳。
それは紛れもなく、男の目だった。
その瞳をひるむことなく睨み返して、土方は口角をあげる。

「…上等だ」

戦いの火蓋は、落とされたばかり。




争奪戦第一試合
(こいつにだけは、渡さない)



大変お待たせいたしました…っ!リクエストくださったしろさまに捧げます!とんでもなく遅くなりまして申し訳ありません><まだのぞいてくださっているでしょうか?3Z設定の沖妙土ということで、二人の攻防戦を書かせていただきました。3Zというかただの学パロみたいになってしまいました。。。それにしても沖田さんが出張り過ぎましたね…;土方さんがちょっとしか出てなくてすみません><しろさまのご期待に添えているかわかりませんが、気に入っていただければ嬉しく思います。もちろん返品可ですので、何かありましたらお気軽にご一報くださいね^^素敵なリクエストありがとうございました!


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