Free Request | ナノ



見慣れた後ろ姿を見つけて、振り向いてほしい、なんて。

銀時は視線の先の黒い頭をじっと射抜くように見つめる。
その隣で揺れる見慣れたポニーテールに、柄にもなく動揺した。

(…お妙、と土方?)

仕事帰りの何気ない寄り道。
そう言えば、ダッツが切れたと言っていたっけ、と思い出して、糖分を調達ついでにコンビニに寄った。
今頃家で夕飯の支度をしているであろう新八と神楽の分のアイスも購入して、機嫌よく家路につく、はずだったのに。

銀時はぐ、と眉を寄せて視線の先を見つめる。

桃色の着物。揺れるポニーテール。 と、隣のいけすかない黒服の男。不健康そうな煙をまとって、でもいつになく穏やかそうに見えるのは気のせいか。

(…なんだよ)

(そんな、楽しそうに)

(何話してんだよ)

(あ、馬鹿。荷物なんか渡してんじゃねー!)

持つとでも言ったのだろうか。土方があんな風に誰かを気遣ったりするのは少し意外だった。相手が妙だからか、という言葉が銀時の頭に浮かんで、一層苛立ちが増す。
仲の良さそうな二人に、じり、と胸が焼けついた。

そう離れてもいないのに、二人は銀時に気付かない。
二人の横を若い女の集団が横切って、広がって歩く彼女たちから庇うように土方が身体を妙の方に向けた。
そのまま進んできた集団が銀時の横を通る。

「今の二人見た?超お似合いだったね!」
「見た見た!さりげなく彼女のこと庇ってたよね彼氏さん!イケメンで紳士とかやばい!」
「あんたが横に広がって歩くからでしょーが」
「それにしても美男美女過ぎでしょ!ああいうカップルってほんとにいるんだ」

きゃあきゃあと興奮気味でそんな話をしながら、少女たちが通り過ぎていく。
大人気なく少女たちにきつい視線を送って、銀時は袋を提げた手を握りしめた。
少女たちの言う“お似合いの二人”とはつまり。
ちらりと前に視線をやって、眉間に皺を寄せる。

――――悔しいが、確かにお似合い――――かもしれない。

ぐぐ、と銀時は眉間の皺を深めて土方と妙を見つめる。
妙よりも頭ひとつ分背の高い土方は身長的にもよく釣り合っていた。

認めたくはないが、土方は一般的に(あくまで一般的に。俺は断じて認めない!) イケメンという部類に分類される男である。
妙も江戸一番の美少女と名高いだけはあって、見目だけは麗しい。
どう考えても、お似合いとしか言えなかった。
そこまで考えて、銀時は頭を振る。


いやいやいや、待て。 お妙と今付き合ってるのは誰ですか?
はーい、そう!そうです!この俺!
土方くんじゃなくて、俺!
身長的に言えば俺とお妙だってお似合いだし!
それに見た目だけ似合ってても全然意味ないしぃ?
別に俺お妙の顔が好きで付き合ってるわけじゃ、いやもちろん顔も好きだけども!
とにかく顔だけで付き合ってるんじゃねーし! っていうか俺とお妙だって超お似合だし!歩いてたらよく夫婦と間違えられるし?
新八と神楽がいたら家族だと思われることもあるし?
カップルより夫婦の方がレベル的に上じゃね?
ほーらやっぱり土方くんより俺の方がお妙とお似合いだよ!

「おかーさーん、何であのお兄ちゃん一人で喋ってるのー?」
「しっ!見ちゃいけません!」
「…え?もしかして俺全部声に出てた?」
「…ついに頭の中身まで沸いたか 」

心底呆れかえった声がして、その声に銀時はむっとする。
嫌々ながらに振り返った先にいたのは、先ほどまで自分より少し前方にいたはずの土方だった。

「え?ちょ、なに?もしかして聞いてた?」
「…テメェがでけー声で話すからだろうが」

その瞳に浮かんでいるのは、明らかな軽蔑的視線。
土方の冷たい視線を受けて、銀時はぐっとつまる。

「べっべつにー?わざとだから!」
「尚のこと恥ずかしいだろうが」

はあ、とため息をつく土方に銀時は無性に苛立った。
お前は一体妙と何をしてたんだ、と勢い任せにそう聞いて、銀時はすぐさま後悔する。
ふぅん、と全て合点がいったと言う風にニヤリと土方が笑った。

「案外余裕がねェもんだな。男の嫉妬は見苦しいぜ?」
「…うるせェ黙れ!」

くそ、俺カッコ悪い、と銀時は地団太を踏みたい気持ちを堪える。
何でよりにもよって天敵とも呼べる男に、と銀時は眉を寄せた。

「つーか人の女に手出してんじゃねーよ!」
「誰が誰の女ですって?」
「いだぁ!」

苦し紛れにそう言った銀時の腕を後ろから捻り上げながら、妙がにっこりと笑う。
悲鳴を上げる銀時を無視してお待たせしてすみません、と土方に言った。

「すみません土方さん。荷物ありがとうございました」
「いや。良ければこのまま送っていくが?」
「俺がいるんだからお前はもういいだろ!」

うっすらと目に涙を浮かべながら銀時は妙を庇うように土方の間に立つ。
土方の手から荷物をひったくって威嚇するように睨みつけた。

「…もうちょっと信じてやったらどうなんだ」
「は!?」
「お前が惚れた女はそんなに信用ならない奴なのか?」

ぼそりと一言言い捨てて、土方はきつい視線で銀時の瞳を一瞥する。
言い返す間もなくじゃあな、とくるりと背を向けて、土方は賑やかな街中に消えていった。

残された銀時と妙。
どこか気まずい空気が漂って、銀時は口をつぐむ。

「…帰りましょうか」

妙がそう言って、銀時は黙って頷いた。
てっきり情けないと拳が飛んでくるものだと思っていたが、妙は至って平静のようだった。
いつものように怒ってくれたなら、言い訳ができたのに、と銀時は小さく舌打ちをする。静かだと調子が狂う。
土方に言われた言葉が気になった。

『そんな余裕がないようじゃ、掻っ攫われても文句言えねェぞ』

(余裕なんか、あるわけねェだろ…)

小さな声でそう告げられた言葉は、本気だった。
わかっている。彼女を恋慕う人物が自分だけじゃないことくらい。
だから、こんなにも自分は。

銀時は眉根を寄せてぐっと奥歯を噛み締める。

(…でも、)

(信じる、か…)

『男の嫉妬は見苦しいぜ』

(…くっそ、)

土方に言われた言葉が脳裏に蘇る。
妙は黙って隣を歩いたままだ。

そうだ、嫉妬した。

お似合いだと揶揄される土方と妙に。
柄にもなく焦って、取り乱して、土方に妙をとられるんじゃないか、なんてそんな馬鹿なことを、一瞬、考えたのだ。

(結局アイツに言われた通りってわけか)

気に入らない。
けれど、それは、事実だ。
自身の天敵とも呼べる土方に言われたそれを素直に認めてしまう程、自分はこの少女が大事なのだと銀時は気付く。

出来るなら、自分の隣でこのままずっと。

(あー…、くっそ!うまくいかねー…!)

わしゃわしゃと自身の銀髪を乱暴に掻いて、買い物袋を左手に持ち替える。
空いた右手で、隣の白い手をぎゅっと握った。

「…銀さん?」
「…お前を、信じてないわけじゃねェ」

やっとのことで絞り出した声は思いの外小さかった。
それも聞きとったらしい妙が立ち止まって銀時をじっと見る。

「土方と一緒にいるお前見て、」

焦った。

ぽつりと呟くように言って、銀時はうつむく。

(…柄じゃねェんだ、こんなこと)

(お前相手じゃなきゃ一生、言ってなんかやらねェんだ…!)

銀時は顔に熱が集まり始めたのを感じて、それを隠すように銀髪を掻く。
ふと、その手に感じた柔らかい感触に顔を上げた。

「私は、あなたが好きだと言いました」

真っ直ぐに、妙は銀時の瞳を射抜く。
包み込むように握られた手が、熱い。

「あなたも私が好きだと言ってくれました。私はそれを信じています」

じじじ、と虫の鳴き声がする。
銀時は妙の瞳をじっと見つめ返した。

「私だってやきもちをやくことだってあります。銀さんには猿飛さんや月詠さんみたいな女性の方がいいんじゃないかって思ったことだって一度じゃありません」

妙が目を伏せる。
たえ、という声は音にならなかった。

「でも、あなたが私を好きだと言ってくれたから、」

じわり。妙の瞳に熱が灯ったのを銀時は見た。

「私はその言葉を信じることに決めたんです」

女に二言はありません。と、妙は続ける。

「心変わりだってあるかもしれないけれど、そうなったら、あなたはちゃんと、言ってくれるでしょう?」

浮気なんてしたら殺しますけどね、と妙は一段低い声で告げて、ぎゅっと握る手の強さを強めた。
いだだだだだだ!!と悲鳴を上げる銀時を満足そうに見つめて、妙の瞳がゆるく孤を描く。
銀さん、と一際優しい声が呼んだ。

銀時の目頭が熱くなる。
お前はどうしてそう、と声がつまった。

「さ、この話はおしまい。早く帰りましょう。アイスが溶けちゃうわ」

握ったままの銀時の右手を引いて、妙が背を向ける。
その小さな背中を銀時は衝動のままに抱き寄せた。

「きゃ!もう、いきなり何ですか!」

往来ですよ、という非難するような声ごと抱きしめるように、銀時は腕に力を込める。

「…―――――」

耳元で小さく告げられた5文字の言葉に、妙は頬を染めて微笑んだ。






君はいい女
(本当に、俺にはもったいないくらい)



「素直な銀さんなんてなんだか気持ち悪いわ」
「…うるせー」
「でも、嬉しかったですよ」
「は?」
「やきもち、やいてくださったんでしょう?」
「なっ、ばっ、ちがっ」
「違うんですか?」
「…違わねー」
「ふふ、土方さんに感謝しなくちゃね」
「…感謝なんて一生するか」



(くさってもアイツは憎い恋敵!)






大変遅くなりまして申し訳ありません…!リクエストをくださった都路さまに捧げます!指定なしで三角関係ということで、定番?の原作設定の銀妙土で書いてみました。ほのぼのでいくつもりが、後半が何故かシリアスに…;こんなのばっかりでほんとにすみません><お妙さんを男前に書きすぎた気もしますが、もやもや銀さんと男前お妙さん、楽しく書かせていただきました!都路さまのご期待に添えているかわかりませんが、気に入っていただけると嬉しく思います^^
もちろん返品等受け付けておりますので、お気軽にお知らせくださいね!素敵なリクエストありがとうございました!


[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -