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「晋助!」

バタンという音と共に、聞き慣れた声が屋上に響いた。
優雅に昼寝をしていた彼は、不機嫌そうに寝返りを打つ。

高杉のヘッドホンからは軽快なリズムの音楽が漏れ聞こえていた。大音量なのだろう、よくそれで聞こえるものだと妙は浅くため息をついた。

背を向ける高杉の隣で、妙は小さく名前を呼ぶ。

「晋助」
「……」
「ねえ、晋助」

妙の声にいつもよりどこか弱々しいことに気付いた高杉は、ヘッドホンを外してオーディオの電源を切った。
起きあがって振り向いてみれば、困りきった表情の妙。

(ああ、これは)

「どうした?」

しかし、高杉は表情を変えずに妙に問いかける。
その声音に安心したように妙は肩の力を抜いた。

屋上の風にはためくスカートを押さえ、ゆっくりと腰を下ろす。
背中合わせに膝を抱えた。

「新八と喧嘩でもしたか?」

妙がこんな顔をする時は、決まって何かある時だ。何か言いたそうに、遠慮がちにそばに寄ってくる。

とりあえず、一番思い当たる理由を口にすると、妙が押し黙った。
ということはつまり、図星なのだろう。

妙は普段周りに弱音を吐くことをしない。しっかりしすぎているというか、頼るということをしないのだ。いつだって自分ひとりで解決しようとする。

周りの連中はそれを心配しているが、妙は限界になれば自分のそばに来ることを高杉はなんとなく理解していた。

伊達に十年以上一緒にいるわけではない。一緒に過ごした時間は、彼女の弟である新八よりも長い自信があった。

お互いの癖や性格はとうに熟知済みだ。

気も強く、意地っ張りな妙の精一杯の甘え方。
妙のこんな表情を見られるのは自分だけなのだという子供じみた優越感がふつふつと沸き上がってくる。

うつむく妙の手を引き、向かい合う。
あやすようにぽんぽんと頭を撫でてやると、妙がぎゅうと制服のシャツを握った。

「晋助」
「…何だよ」
「喧嘩、しちゃったの」
「そうか」
「今日おはようも言わずに出て来ちゃったわ」
「ほォ」
「新ちゃん怒ってるかしら?」
「さァてなァ。まァ、あいつも同じこと考えてんじゃねェかァ?」
「ほんと?」
「あァ」

ぽつりぽつりと話をする妙に相槌を打ち、妙の髪を梳くように撫でる。

「…許してくれるかしら」
「大丈夫だろ」

シスコンだからな、と言うと、おかしそうに妙が笑った。

「私も新ちゃんは大好きよ」
「仲のいいこった」
「ふふ」

くすくすと笑う妙に、高杉の頬も緩む。
髪を梳いていた手を止めて、頬に触れた。

「晋助?」
「大丈夫だ」

高杉は、銀時や土方が見れば気色悪いとでも言いかねないほどの柔らかい笑みを妙に向ける。

低めの、優しい声。
妙は聞きなれたはずのそのトーンに胸の奥がきゅう、となったのを感じた。

うつむいた妙に、高杉は、仕方のない奴だな、とでも言いたげにくしゃりと妙の前髪をかきあげてその額に触れるだけのキスを落とす。

「っ晋助!」
「何だァ?」

額を押さえて顔を真っ赤にする妙を見て、高杉は満足そうにふっと微笑むと再び横になった。

「昼休み終わっちまうぜェ」
「…っ!大変!」

慌てて立ち上がる妙を高杉は横目で見やる。
スカートがひらりとはためいた。
水色、と呟くとすかさず飛んでくる妙の拳。

短く舌打ちをする高杉の耳元で、妙が小さくありがとう、と囁いた。

「今日の部活、ちゃんと出るのよ!」

そう一言大きく叫んで、妙は走りだす。
バタバタと駆けて行く音を聞きながら、高杉はくつりと笑みをもらした。


それが日常
(いちばん落ち着く、君の隣)



title:a dim memory





フリリク下さったななさまに捧げます!
とんでもなく遅くなってしまって申し訳ありません…!こんなサイトをまだ覗いて下さっているでしょうか…?本当にお待たせ致しました><
幼なじみ高妙ということで、幼なじみだからこその親しさを書いてみたつもりです。自分が辛くなった時に一番に頼るのは高杉さんで、それは高杉さんだけの特権であったらいいと思って書きました^^優しい高杉さんに少しドキッとするお妙さんもちらりと。
ご要望に添えたかどうかわかりませんが、気に入って下されば嬉しく思います。
返品可ですので、何かありましたらお気軽にご一報下さい。
リクエスト本当にありがとうございました!



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