きみのて(?←妙)
目が覚めた。
背中にはあたたかな体温と刻まれる心臓の鼓動。
つないだままだった手をそっと握り直せば、やんわりと握り返してくれた。
すやすやと寝息をたてる彼を起こさないように、そっと寝返りを打つ。
頬を優しく撫でて、口づけた。
おいで、と優しく囁く声も、こめかみにそっと落ちてくる口づけも、全部偽物なんだとわかっている。
抱きしめる腕はどこまでも優しいけれど、このひとは自分を見てはいない。
彼の心を占めるのは、自分ではないのだ。
こんな関係になるつもりなどなかった。
ただの知り合い、友人のはずだった。
彼の腕の温かさを知ってから、どうしようもなく惹かれてしまった。
会うべきではないことはわかっているのに、彼の優しさに縋って、それを手放せないでいる。
罪悪感がないわけではない。
ただ、慣れただけだ。
あの子の代わりなんでしょう、と聞く私に、彼は違うと首を振る。
なんてずるいひと。
ずっとこのままでいられたら、と思うようになってしまった私はなんて愚かなんだろう。
”恋人”など呼べるはずもない関係に、淡い期待を抱くなんて馬鹿げている。
最後に傷つくのは自分だと知っていても、それでも、傍にいたいと思うのは私のわがまま。
好きだなんて、きっとずっと伝えられない。
誰の代わりでも、私を必要としてくれるならそれでいい。
「…妙」
不意に呼ばれた名前にドキリと心臓が跳ねた。
寝言だとわかって、ほっと溜息をつく。
「呼ぶ相手が違うでしょう…?」
馬鹿ね、と小さくつぶやいて広い胸に顔をうずめた。
あなたの優しい手に縋ってしまう私を許して。
(このひとが、どうしようもなく愛しい)
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