「ね、今好きって言ったよね?」(山妙)
「ね、言った、よね?」
驚いたように、彼女はゆっくりとそう言った。
ついさっきの自分の発言に顔が熱くなる。
言ってしまったことはもう巻き戻せない。
今すぐにでも逃げ出したくなる自分を叱責して、彼女に向き直った。
「しっ、志村妙さん!」
「はいっ」
誰もいない教室に思ったよりも大きな自分の声が響く。
彼女はその声にびくりと肩を震わせて、まっすぐに俺を見た。
「あっ、あの」
「…」
「俺はっ、」
爆発しそうだ。
心臓はばかみたいに大きな音をたてているし、その速さは100メートル走をした後よりも確実に速い。
汗ばむ手をぎゅっときつく握りしめて、大きく息を吸った。
「あなたが、」
黒い瞳。吸い込まれそうな、綺麗な色。
「だっ、大好きですっ!」
言えた、と思って立ちあがったら、机に膝をぶつけて恰好悪く転んでしまった。
ああああ
最悪だ!
「大丈夫っ?」
焦ったような彼女の声。
心配そうにのぞきこむ彼女に心臓がひときわ大きく高鳴った。
どうしよう、抱きしめたい、と衝動に駆られた俺を、彼女の声が引きとめる。
「あのっ」
制服の裾をちょこんとひっぱる彼女の手は少し震えていた。
驚いて顔を上げると、頬を染めた彼女が、優しく優しく微笑んだ。
たまらなくなって腕を引くと、意外とすんなり腕の中におさまる彼女。
ひとりパニックに陥る俺を、彼女はくすりと笑って、耳元でそっと囁いた。
(私も、あなたが好きよ。山崎くん)
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