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お祭りデート(土妙)



賑やかな周囲を見渡して、妙は目を細める。

少し遠くから聞こえる太鼓の音。
はしゃぐ子どもたちの声。
露店から漂ってくる香ばしい匂い。

「お祭りなんていつぶりかしら」

懐かしさがこみ上げて、妙はくすりと笑みをこぼす。
待ってよお姉ちゃん、と半泣きの男の子が妙の前を転びそうになりながら駆けて行って、妙はまた笑みを深めた。

「…なに一人で笑ってんだ」
「あら」

降ってきた声に、妙は顔を上げる。
相変わらずの仏頂面を見つけて、こんばんは、土方さん、微笑んだ。

「待たせて悪かったな」
「いいえ。待つのも楽しいもの。ごめんなさい、せっかくのお休みに」
「気にすんな。俺が誘ったんだ」

穏やかな表情でそう言った土方に、妙はやや赤面する。
普段と違う浴衣姿のせいか、今日の土方はどうにもこうにも色っぽい。

これは街の女の子が彼に熱を上げるのもわかるわ、と妙はそっと嘆息した。

どうしたと尋ねてくる土方を妙は少し怒ったような表情で見上げる。

ああほら、また女の子が振り返った。

慣れっこなのだろう。全く気にする素振りも見せず、土方は妙の頭を不意に撫でた。

「…なんです、急に」
「んな顔すんな。後でかき氷買ってやる」
「…子ども扱いしないでください」

拗ねたようにそう言うと、土方は仕方ないなと言いたげにまた妙の頭を優しく撫ぜる。

その表情があんまり優しくて、妙はぱっと顔をそらした。

妙が小さな声で、半分こですからね、と返すと、了解、と珍しく嬉しさを滲ませた声が返ってきた。

それから、不意にほら、と差し出された手。
でも、と躊躇する妙に土方は短く嘆息して、そのまま手をとった。

「…いいんですか?」
「…こんな人混みだからな」

半歩先を歩く土方を妙は目を丸くして見つめる。
繋いだ手をそっと握り返して、嬉しそうに笑った。

***

そっと握り返された手に、顔が緩みそうになるのを懸命にこらえて、土方はにこにこと機嫌良く笑う妙を横目で見た。

紺地に桔梗が描かれた浴衣。
朱色の帯が映えて、妙によく似合っていた。

それから、さっきからやたらとうるさい周囲の視線にきつくガンを飛ばす。

妙とすれ違う度に振り返る男共。
本人は慣れているのか気付いていないのか―――おそらくは後者だろうが、土方の隣を機嫌良く歩いていた。

いつもより高めに結い上げられた髪のせいで、露わになったうなじが眩しい。

真選組での休み争奪戦(またの名を妙をデートに誘える権利争奪戦)を死に物狂い勝ち取った甲斐があったと土方はそっと頷いた。

今頃あいつらは祭りの警備中だろう。
もしかしたらどこかで見ているのかもしれない。

だったら見せつけてやれ、と悪戯心にかられた土方は口角を上げた。

繋いだ手を引き寄せて、耳元で、浴衣似合ってる、と小さく囁く。

どこかでギャアギャアという騒がしい声がする。それを聞き流しながら、途端に赤面した妙を甘い顔で見やって、土方は満足そうに繋いだ手に指を絡めた。




「死ね土方ァァァァ!!!」
「ってェ!」
「まあ、沖田さん?」
「こんばんは姐さん!その浴衣めっちゃ似合ってやすぜ!」
「「「姐さん可愛いッス!!」」」
「ふふ、ほんと?ありがとうございます」
「さっ、姐さん。こんな野郎は放っておいて俺とデートしやしょうぜ。エスコートは任せてくだせェ」
「ふふふ。あらあら、どうしようかしら」
「テメェら仕事しろォォォォ!!」



お粗末!/(^o^)\


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