伝えたい言葉はひとつ(九♂妙)
※本誌性転換ネタ。十兵衛さん×お妙さんです。
「妙ちゃん!」
ざわつく周囲の喧騒の中で、ひときわ大きな声が辺りに響く。
凛々しさを秘めた美しいテノールに、周囲の喧騒が止んだ。
ざっ、と道が開き、長身の男が大きな花束を抱えてこちらへ向かってくる。
見覚えのある服装に、妙は足を止めた。
「妙ちゃん!」
「きゅ、九ちゃん!」
親友の姿に妙は思わず声を上げる。
十兵衛さんと呼んだ方がよかったかしら、と苦笑しつつ、こちらに向かってくる九兵衛を見つめた。
周囲の女の子がかっこいい、と黄色い声を上げる。
怪しい宗教団体によって男性にされてしまった九兵衞だったが、性別が変わってしまったくらいで友情に変化などない。
妙は柔和な笑みを浮かべて、どうしたの、とたずねた。
「君に伝えたいことがあるんだ」
「わたしに?」
なあに、と妙が問い返すより先に、ばさり、と目の前に真っ赤な花束が差し出される。
うっとりするような薔薇の香りが妙の鼻腔をくすぐった。
「ずっとこの時を待っていたんだ」
「きゅ、うちゃん?」
「男として生きるべきか、女として生きるべきかなんて、ほんとはどうでも良かった」
スッとかしずいて、九兵衞はそっと妙の手をとる。
「ただ、これで君に堂々と愛を告げられる。それが僕はとても嬉しいんだ」
嬉しそうに、九兵衛が笑う。
妙の心臓がドキリと音を立てた。
「男でも女でも、僕は妙ちゃんが好きだよ」
赤面する妙の手の甲に優雅に口付けを落として、九兵衞はふわりと微笑んだ。
「僕と結婚してください」
今までしんとしていたギャラリーが我に返ってしきりに囃し立て始めるまで、あと5秒。
(君とずっと一緒にいたいんだ)
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