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拍手文A(桂妙)


桂妙



ざり。

砂を踏む静かな音が聞こえて、妙は視線を動かす。

少々息を乱しながら、すまない、と男が言った。

「こんばんは、桂さん」

ゆるりと微笑んで、妙は手にしていた湯呑みをコトリと盆の上に乗せる。
桂はお妙殿、と遠慮がちに呼んだ。

「すまない。長居は出来そうにない」

端正な顔を歪ませて、桂はちらりと外に視線をやる。
まだ小さいが、桂ァ!と怒鳴り声が聞こえた。

あの声はきっと、一番隊隊長の彼に違いない。

「そのようですね。私のことは心配なさらずとも平気ですから、早く行って下さい」

こんな所で油を売ってる場合じゃないわ、と妙は続ける。
桂は眉間に皺を寄せ、妙の方へ歩を進めた。

「いつもすまない。お妙殿、」

自分を見上げる妙の顎をすくって、桂は短く唇を重ねる。
目尻の端にもちゅ、と口付けを落として、抱き寄せた。

「俺は貴女を好ましく思っている」
「ふふ、あなたらしい言い方ね」
「む。愛している、と言った方が良かったか?」
「…あなたのそういうところ、未だに慣れないわ」

妙は桂の腕の中で頬を染めて、首筋に顔を埋める。
そのまま三つ数えて、やんわりと桂の腕をほどいた。

「会いに来てくださってありがとうございます。少しだけでも会えて嬉しかった」
「お妙殿」
「身体に気を付けて。大きな怪我はしないでくださいね」
「善処はしよう」

段々と近づく怒声と慌ただしい足音。

お妙殿も身体には気を付けてくれ、と桂は言って、握っていた手を名残惜しそうに離す。

いってらっしゃい、という凛とした愛する女の声が、駆けだした桂の背を押した。



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