こぼれた涙(?妙)
ほろり、ほろり、と涙がこぼれる。
止まれ止まれと祈るように目をこすったけれど、一度あふれてしまった涙は、堰を切ったように止まってくれない。
「…っふ、ぅ」
見られたくなくて背を向けるけれど、あなたはそれを許してくれなかった。
顔を覆っていた手を容易く外されて、悔しくて恥ずかしくてたまらずにうつむく。
妙、と優しく名前を呼ばれて、く、と喉が詰まった。
ああ、なんて熱いんだろう。
口づけが頭に降ってきて、思わず顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を愛おしそうに見つめるあなた。
あなたのかさついた親指が私の涙をぬぐっていく。
それをぺろりと舐めて、しょっぱいな、とあなたは笑う。
ちゅ、ちゅ、と降ってくる口づけを受け止めて、私はただ泣いていた。
よく泣くなぁ、とどこか嬉しそうに笑いながら、あなたは泣いてくれて嬉しいと言う。
そう言って、あなたがあんまり嬉しそうに、優しく笑うものだから、私はまた声を詰まらせる。
たまらずに嗚咽が漏れた。
仕方がないな、という風に息をついて、あなたは私を抱き寄せる。
痛いくらいに強く抱きしめられて、私は胸に顔をうずめた。
どくんどくんと聞こえる心音にたまらなく安心する。
ああ、間違いなく、あなたは生きているのね。
それから、耳元で聞こえたただいまに、嗚咽まじりでおかえりなさい、と返事をした。
(あなたが帰ってきてくれて、たまらなくうれしい)
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