SS | ナノ

君と祭囃子(威妙)



ドンドンドン、と太鼓の音がする。
浴衣姿できゃっきゃっとはしゃぐ子供たち。
そこかしこから漂ってくるいい匂い。

そんなありふれた祭りの風景。

露店あるの通りから少し離れたベンチに腰掛けて、妙は目の前の風景をまぶしそうに見つめた。

もう随分と前のことだが、父がまだ元気だったころ、弟の新八と一緒によく縁日に連れて行ってもらったものだ。

こみ上げてきた懐かしさに、妙はふっと笑みをこぼす。

くいくい、と浴衣の袖を引かれて振り返った。

「ふぁえ、」

もぐもぐと口を動かしながらそう言ったのは、桃色のお下げ髪。
口の中いっぱいに食べ物を頬張る姿はまるで小動物のようで、妙は思わず苦笑した。
やっぱり兄妹ね、と心の中でくすりと笑って、はんかちで口の周りを拭ってやる。

「むぐぅ」
「神威さん、口の周りがべたべたですよ。そんなに急いで食べなくても食べ物は逃げませんから」

ごくん、と口の中のものを飲み込んで、きょとんとする神威の頬を妙は軽くつねる。
いひゃいよ、と言う声を無視して、ぐい、ともう一度引っ張った。

「ろうしたの、ひゃえ」
「世話の焼ける人だわ」

つねっていたほっぺたを離して、妙はそっと頬を撫でる。
抱きつこうとした神威を制止して、べたべただった手も丁寧に拭ってやった。

「小さな子供みたいね」
「そんなことないヨ!」

心外だ、と言いたげに神威は頬を膨らませて、今度こそ妙を抱き寄せる。

近くなった距離。
妙の頬が朱を帯びて、目を伏せた。

「子供はこんなことしないでしょ?」

耳元で囁くようにそう言って、神威は妙の顔を覗きこむ。
赤くなった頬に吸い寄せられるようにキスをして、妙、と呼んだ。

「…や、やめてください!」

繰り出されてきた拳を軽くかわして、神威は意地悪く笑う。

妙はそれを恨めしそうに見つめ返して、唇を噛んだ。

「唇、荒れちゃうよ」

噛んじゃだめ。

吐息と共に囁かれた言葉に、妙はふるりと身を震わせる。
近づいてくる海色の瞳に、妙は観念して目を閉じた。



prev / next
[ back to top ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -