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拍手文@(土妙)


土妙夫婦



霧雨が降りしきる鈍色の空を、土方は縁側から覗き見る。
雨粒が頬を少し濡らしたが、この程度なら気持ちがいい。
サァァという静かな音が耳に心地よく響いた。

最近は雨が多い。
もう5月も終わり。梅雨入りも近いのだろう。

「トシさん」

後ろから掛かった声に、土方はついと振り返る。
手拭いを手にした妻の姿に僅かに頬を緩ませた。

「霧雨でも長く当たっていると濡れてしまいますよ」

妙、と土方が呼ぶと風邪を引かれたら困ります、と困ったように笑う。
頭にそっと掛けられた手拭い。撫でるようにそっと髪を拭く感触がくすぐったい。

頭ひとつ分自分よりも背の低い妙のために、少し屈んでやる。
いつもより近くなった顔の距離。
少し照れたような柔らかい笑みを浮かべた妙に土方も微笑みを返した。

どちらからともなく唇を合わせて、妙が土方の胸に体を預けるように寄り添う。
その肩をそっと抱き寄せて、頭の手拭を自身の肩にかけた。

「綺麗ですね」
「あァ」

雨の音が優しい、と妙は嬉しそうに笑う。

「お茶、淹れましょうか」
「あァ、頼む」

待っていてくださいね、と台所へ向かった愛しい妻の背を見つめ、俺は幸せだよ、と天国にいる彼女に語り掛けた。


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