サマーウォーズパロ(山妙)
ケンジくん→山崎
佐久間くん→新八
※お妙さんと新八が他人設定です。
「あと少し、あと少しで日本代表になれたんだ…」
「もう、まだしょんぼりしてるの?いい加減元気だしなよ」
「もう少しだったのに…」
「いい加減それも聞き飽きたよ。そろそろ新しいことに目を向けたら?」
大きなため息をつくと、新八くんが苦笑した。
グラウンドからは部活中の生徒の声が聞こえる。
蝉の声が少しうっとうしい。
カタカタというキーボードをたたく音が小さな部室に響く。
物理部の小さな部室で、地味の代名詞とも言われる俺、山崎退と新八くんは、今日も今日とてOZでのバイトにいそしんでいた。
ちなみに、OZというのはインターネット上の仮想世界のこと。その中で自分のアバターを設定して生活するという、一種のコミュニケーションゲームみたいなものだ。
でも、OZはただのゲームなんかじゃない。OZは現実世界とほぼ等しい、俺たちにとってのもうひとつのリアルだ。納税とか公的手続きとかもOZを通して出来てしまう。今じゃほとんどの企業や公共システムがOZを利用しているから、今の世の中はOZなしにま回らない。
本当に、とんでもなく便利な世の中になったものだ。
「あぁぁぁ…悔やんでも悔やみきれない…」
「ほら、そんなことよりさ、今年の夏のテーマでも決めようよ。何がいい?やっぱり西瓜と花火ははずせないよねー」
そうだね、と空返事をしてため息をついた。
夏休みは始まったばかりだというのに、どうしてこうも暗い気分になってしまうんだろう。
「それから、やっぱり夏と言えばお通ちゃんだよね!」
「いやいやそれ間違ってるから。君は一年中どこにいてもお通ちゃんお通ちゃんって騒いでるでしょー」
今年の夏はツアーがあるんだよ!と寺門通親衛隊隊長の彼は嬉しそうにそう言った。
彼はいわゆるアイドルの追っかけだ。それも重度の。
お通ちゃんが、といまだに話を続ける新八くんは無視してキーボードを無心に叩く。
帰り道にアイスでも買って帰ろうかな、なんて思っていると、部室のドアが突然開いた。
「ふたりとも!」
「え?」
「ん?」
驚いてドアを見やると、そこに立っていたのは学校で一番人気の先輩。
「妙先輩!」
「どっどうしたんですか?そんなに慌てて」
憧れの先輩の突然の登場に、ふたりして慌てる。
走ってきたのか、先輩は少し息を切らしていた。
「ねぇ、バイト、してみない?」
バイト?とふたりで声を揃えて聞き返す。
先輩は笑顔でうなずいた。
あ、可愛いなんて思ったのは秘密だ。
「今僕らバイト中なんです」
「え?今?」
「はい。OZのシステムの保守点検です」
「まあ、すごいのね!」
「全然そんなことないですよ。点検って言っても、僕らは末端の末端の末端なので」
新八の言葉に、妙先輩は残念そうに肩を落とす。
「そう…。OZのバイトなら仕方ないわね」
先輩の悲しそうな声に、俺は思わず立ち上がって手をあげた。
「妙先輩、あの、俺でよければ」
「ほんと?」
「え!?ちょっと、こっちどうすんの!?」
怒ったようにパソコンを指差す新八くんに、はっと我にかえる。
「あ、すみません…。やっぱり無理です…」
「そう…。困ったわ。他に誰かいないかしら?」
ふう、とため息をつく妙先輩の仕草につい見とれてしまう。なんだか悩ましげで顔が熱くなった。
「バイトって言っても、私と一緒に田舎に旅行してくれるだけでいいんだけど…」
「僕がやらせて頂きます!」
「は!?」
ぱつりと呟いた先輩の言葉に、新八くんは即座に立ちあがった。
さっき俺のこと止めたくせに!と俺も負けじと手を上げて叫んだ。
「じゃあ俺も!バイトやります!」
俺の言葉に、妙先輩はにっこりと微笑んだ。
やっぱり可愛い、なんて思っていると先輩と目が合って思わずそらしてしまった。
ああ、なんてもったいない!
「まあ、嬉しい!でも二人じゃ多いわね。募集人員、一名なの」
そう言って片目をつぶって見せた先輩に思わず赤くなったのはきっと俺だけじゃない。
俺の夏休みの、始まり。
(うわァァァァァァ!!!!負けたァァァァァァ!!!)
(よろしくね、山崎くん)
(っ!はい!)
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