会うは別れの始め


※蟲師パロ
配役
ギンコ→土方
式神等を使役することの出来る術師。霊などを寄せ付けやすい体質で、ひとつの場所にとどまることができないため、悪霊や鬼を退治しながら各地を回っている。

淡幽 →妙
村の地を護ることを定められた志村家に生まれた少女。強力な結界を張ることで、外界から村を護っている。力を得るために初代志村家当主が憑神高杉と交わした契約により、周囲のどこの村の巫女よりも強い力を持っている。右足に高杉が憑いており、幼いころから足が不自由。


その他捏造設定
・土方の式神→沖田(攻)、山崎(守)
・妙の足に憑くもの→高杉

以上、大丈夫な方のみレッツスクロール









ざわり、と不穏な気配を感じて土方は足を止めた。

村に足を踏み入れた瞬間にも感じた、強い拒絶。
どうやらこの禍々しい気の正体は、土方の存在に勘付いたらしい。
チッと舌打ちをして、土方は村の奥へと歩を進める。

村の様子を窺うように周囲を見渡すが、どうしてか村には何の異変も訪れていないようだった。
これほど強い負の気を身近に感じながら、何の変化も見られないというのはおかしい。
それと同等の力を持って跳ね返しているか、あるいは―――、

「こりゃあ結界ですぜ」
「すごく神聖なやつですよ、これ。誰かがこの村全体を結界で守ってるんですね」

ぼん、と姿を現したヒトガタがふたつ。
完成度たっけーなオイ、と言いながら好き勝手に動こうとする己の式神たちに盛大なため息をつきながら、土方は拳骨をお見舞いする。

「あだっ!」
「ってェ!!」
「何勝手に出てきてんだテメェら!!俺が呼んでねェときはじっとしてろ!」
「ったく式神遣いが荒いですぜ土方さん。俺ァ有給を申請したいくらいでさァ」
「ふざけんなよこのドS野郎!呼んでも出てこねェくせに何が有給だ!」

もう一発頭に拳骨をお見舞いして、土方は憤然と二人を睨み付けた。

精霊や幽霊、妖といった類のものを研究し、あるいは退治する仕事を生業としている土方は、いわゆる術師、祓い屋と呼ばれるものである。
土方の家系は先祖代々そういう仕事をする家系で、土方も何の疑いもなくその仕事に就いた。霊力も高く、才に秀でていた土方は、幼いころから厳しい指導を受け、今ではその名を知らぬ者がいないほどに高い能力を持った術師だ。
そして、その土方が主に使役している式神が沖田と山崎というヒトガタの式。
少々へそ曲がりというか、いかんせん生意気でやる気のない式だが、個々の能力は抜きん出て高い。こと攻撃においては沖田の、こと守りにおいては山崎の右に出る式はいないほどである。

「オラ、いくぞお前ら。もう近い。気ィ引き締めて行けよ」
「へいへーい」
「はーい」

やけに間延びした声で返事をする二人の式神に、土方はまたため息をつく。
しかし、村の奥に近づいていくにつれて濃くなる、淀んだ空気に皆黙り込んだ。

気配を追いながら、3人は林を抜ける。そうして、開けた場所に建っていたのはなかなかに大きな社だった。

辺りの空気は、今まで通ってきたどこよりも重くどんよりとした空気が充満している。
その中でも卒倒せずに立っていられるのは、この密度の高い結界のおかげか、と土方はちらりと目の前の社を見やる。

こぢんまりとした造りではあるが、時間をかけて丁寧に設えられたのがわかる。神聖な空気を纏っていた。
今は件の悪霊のせいで力が弱まっているらしい。
神域を侵されぬよう、社の内部への侵入を拒んでいるのがやっとのようだった。

「結界はここが出処ですねィ」
「神さまのせいですか?」
「…いや、」

神や精霊の類のものが作っていると錯覚しても不思議ではないくらい頑丈で澄んだ結界。
しかし、これはおそらく。

「これは人の力だろう。巫女か何かがここにいるんだ」
「人間、ですか?」

驚く山崎を一瞥して、沖田はすいと社に近づいた。

「本人は結界張るだけで精一杯らしい。このままじゃもってあと3日ってとこでさァ」

沖田が社の扉に手を伸ばす。
ざわざわ、と這い上がってくる冷たい感覚に、土方は弾かれたように声を上げた。

「やめろ!開けるな!」

沖田が社の扉に手をかけた瞬間、バチィ、と激しい拒絶反応が起こる。
咄嗟に土方が飛ばした呪符が間一髪で沖田を守ったが、強すぎる力に沖田ですら眉を潜めて後退した。

「だ、大丈夫ですか!?」
「…ここにいるのは巫女さんだけじゃねェみたいですねィ」

忌々しそうに社の扉を睨みつけながら、沖田がクソ、と悪態をつく。
山崎は、どうする、と土方に目で問うて、肩をすくめた。

土方は気の正体を追いながら、沖田と山崎を振り返る。
頭の中に札の剥がされた小さな木箱の映像がふっと湧いた。

「…社の裏だ。山崎!」
「はい!」

しゅ、と消えた山崎が社の裏に辿り着いたのを確かに感じて、土方は封じの詠唱を始める。

バシィ!という破雑音が聞こえて、山崎が叫んだ

「沖田さん!そっち行きましたよ!」
「チッ、今俺は虫の居所が悪ィんでィ!!」

猛スピードで飛んできた黒い塊を睨みつけながら、沖田は刀でいなすように真っ二つに両断する。
そして、丁度詠唱が終わった土方が札を掲げると、断末魔の叫び声がして、強い瘴気の主は青白い光の中に消えていった。

「…機嫌悪いですねェ」
「るさいでさァ!」

はじかれたのがそんなに悔しかったんですか、と問いかける山崎を鬱陶しそうに怒鳴りながら、沖田は山崎に向けて抜刀する。
騒ぎ始めた式を後目に、土方は慎重に辺りを見回した。

ふっと軽くなる辺りの空気。
それでも、混じりっ気のない神域ではない。
はっきりと感じ取れる、憑き物の気配。まるっきり邪悪なものではなさそうだが、人に良い影響を与えるものではないことはわかった。
それに山崎も沖田も気付いたらしく、黙って社を見上げる。

「…誰だ」

土方が低い声で問い掛ける。
くつりくつりと喉を鳴らしたような笑い声が響いて辺りに反響した。

「…村の入り口で俺に仕掛けてきたのはお前だな?」
『ヘェ。なかなかどうして、腕はいいらしい』

じり、と山崎と沖田が臨戦態勢をとる。それを手で制して、土方は射抜くように社を見据えた。

「…お前は“何”だ?どうして社の中にいる」

土方はそう言って、もう一度注意深く声の気配の元を追うが、何度やってもそれは社の中から感じられるものだった。

本来、神域である社の中に、霊や妖怪といった類の者は侵入できない。
おそらくそれに近い存在であろうこの声の主が、社の中に入ることができるのか。

「踏み入った途端に消し飛ぶはずだ。それなのになぜお前はそこにいる」
『ククッ、さァなァ、』

バァン!

「………ちゃん!」
『…チッ!』

大きな音と共に、社の扉が開く。
微かだが、聞こえた人の声。
声の主の気配が中に引っ込んだのがわかった。

「び、びっくりしたぁ〜…。なんだよいきなり!」
「…開きやしたねィ」

どうしやす土方さん、と聞く沖田に、土方は短く行くぞ、と返す。
警戒しながらも社の中を覗き込むと、中に広がっていたのは意外な光景だった。

「ああいうことはやめなさいって前に言ったでしょう!」
「っるせェな…」
「…晋ちゃん」
「その呼び方やめろっつってんだろ」
「…そんなに心配しなくたって大丈夫よ。前よりは体力もついたんだから」
「…妙、」

社の中は、どちらかというと座敷のようだった。
中央に敷かれた畳に座る巫女装束を身に纏った少女、と男。

扉から中を覗き見る土方たち3人に気付いた男が、不貞腐れたように口をつぐむ。
それから、背を向けていた少女がこちらに向かって問いかけた。

「…あれを祓ってくださったのはあなた方ですか?」

少し疲れを滲ませた美しいソプラノ。

そして、ゆっくりと振り返った少女の美しさに、皆一様に目を見張った。

「…うわ、美人」

思わず声をもらした山崎に、少女の隣の男がきつい視線を寄越す。
何をしようとしたのか、その手を少女に叩かれてすねたように背を向けた。

「すみません」

困ったようにそう謝る少女に、土方もつい会釈を返す。ついでに山崎の頭を叩いて静かにしてろと睨み付けた。

少女は足の自由が効かないのか、引きずるようにして向きをかえる。
そうして土方たちに向かい合い、深く頭を下げた。

「先程は大変失礼いたしました。外部からの客人に大変敏感なのです。どうかお許しください」

少女は自身の右足をさする。ぴくり、と少女の隣の男が反応を示した。

「改めて、お詫びと感謝を。心より御礼申し上げます。」

もう一度丁寧に頭を下げて、少女は微笑みを浮かべる。

「…それは、あんたにとって害のないものなのか?」

静かに口を開いた土方の言葉に、少女は驚いたように目を丸くする。

「…お気付きですか。随分腕のいい術師様でいらっしゃいますのね」

悲しそうとも、嬉しそうともとれる曖昧な微笑みを浮かべて、少女はまた右足をさすった。
隣の男へ視線をやって、その手をそっと握る。

「…術師の方の目から見れば、きっと害なのでしょう。憑かれているものの気狂いだと、そう思われるかもしれません」

少女は言葉を切って、土方の目を真っ直ぐに見つめる。
離れていてもわかる、力強い瞳だった。

「私は害だと思ったことはないのです。害であろうとなかろうと、"彼"は私にはなくてはならない“ヒト”ですから」

少女はまた笑う。
土方はじっとその瞳を見つめ返して、そうか、と短く返事をした。

―――これが、村を守護することを定められた娘、志村妙と術師土方十四郎の初めての出会いだった。






(カチリ、と何かが変わる音がした)


Title: a dim memory




2013, June





配役はあみだくじで決めました。
パロというより設定を少しお借りしただけの妖怪ネタになってしまった感が否めません蟲師パロと言い張ります←
蟲の存在丸無視でなにが蟲師パロか\( ˆqˆ )/←

 

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