きらきらを纏った少女


※オリジナルの女の子が出てきます。お話はその子の一人称なので、沖田さんとお妙さんはほとんど出てきません。苦手な方はご注意ください。友達には名前がついていますが、語り手の女の子には特に名前はありません。オリジナル娘→沖妙というCPになります。
設定は学パロで、沖妙が他校生な設定です。
・沖田さん→西高(男子校)
・お妙さん・オリジナル娘×2→東高(共学)
ではでは、大丈夫そうな方はレッツスクロール!












「はぁ〜かっこいい…」
「何、アンタまたそれ?」

机の上に突っ伏したあたしを見て、親友のA子が呆れたようにため息をついた。

A子はあだ名じゃなくて、本名でエーコ。栄える子と書いて栄子である。
A子も栄子も音としてはそんなに変わらないけど、手紙を書くときとか、文字で書くときはA子と書いている。
保育園だったか小さなときに初めてAというアルファベットに出会って、あたしはAを最高に格好いい文字だと思っていた。大好きな親友。最高に格好いい女の子。そんな栄子にAというアルファベットはこれ以上ないほどにお似合いだと幼いあたしは真剣に思っていたのだ。高校生になった今もそれは続いていて、それからずっと栄子はA子だ。
栄子本人も気に入っているのか気にしていないのか、今まで一度もそれを咎められたことはない。

そのA子に握りしめていたスマートフォンをすいと取られ、慌てて顔を上げる。

「アンタも飽きないわね〜。西高の王子、だっけ?」
「ちょ!やめてってば!」

A子の手からスマートフォンを奪い取る。スマートフォンの画面には、あたしが目下片思い中の相手が画面いっぱいに映し出されているのだ。誰かに見られたらどうしてくれる!

「よく撮ったわね、こんな写真」
「あたしが撮ったんじゃないもん…」
「馬鹿ね。わかってるわよ」

くしゃりと頭を混ぜられて、なんだか複雑な気分になる。

西高の王子こと沖田総悟くん。
西高はあたしたちが通う東高のご近所にあるなかなか有名な男子校で、かっこいい子が多いって東高の女子の間で噂になっている。
西高に彼氏がいるというのは、一種のステータスなのだ。
もちろんあたしは、そんなステータスのために沖田くんに片思いしてるわけじゃないけど。ここ重要!

「で、アンタは見てるだけでいいわけ?隣ではないにしても、近くなんだから」
「無理無理絶対無理!!遠くから見てるだけでもドキドキしてどうにかなりそうなのに、近くで話すなんてあたし死んじゃうよ!」
「そんなんじゃ意味ないでしょうに」

A子は呆れ顔。
わかってますよーだ。
このままじゃなーんにも進まないって。

でも、あたしみたいな女の子はたくさんいる。
沖田くんと、あとあたしよりひとつ年上の土方さんは西高で1番人気だって友達が言っていた。
沖田くんと土方くんのファンクラブなんてものもあるらしい。
それには細かい規定があって、抜け駆け禁止とかいろいろと面倒な取り決めがあるんだって。
さすがにそんなのに入会する勇気はないけれど、目をつけられても困る。何しろ、ファンクラブに所属する女の子たちはみんな可愛くてスタイルが良くて、ファッション雑誌に出てくるような子たちばかりなのだ。
かなり贔屓目に見ても中の下もいいところなあたしがしゃしゃり出てよく思われるはずがない。

「はぁ…」

漏れるため息。A子が慰めるように頭をポンポンしてくれる。
癒しを求める気持ちで、あたしはまた沖田くんの写真を見つめた。
画面に映る沖田くんは相変わらず格好いい。
通学途中かなにかなんだろう。その写真に映る沖田くんは耳にイヤホンをはめて、無表情だった。
何度見たか知れないその写真を、あたしは食い入るように見つめる。

沖田くんは、どんな風に笑うんだろう。

沖田くんや土方くんに関する噂はたくさんあるけれど、笑顔が可愛いなんて噂は聞いたことがなかった。
笑ったらきっと、可愛いと思うんだけどな。

「おはよう」
「おはよ」

急に声をかけられて、慌ててスマートフォンの画面を暗くする。
A子がその声に返事をした。

声のした方を振り向くと、隣の席の美少女が登校してきたところだった。

「あ、お、おはよう…。志村さん」
「おはよう」

にっこりと笑う彼女は、校内でも美人だと有名な志村妙ちゃん。
頭も良くて、面倒見もいい。ただちょっと、怒るととんでもなく怖い。そして強い。

そんな彼女に憧れる男子はきっと多いと思うけれど、後者の印象が強すぎるせいか、こんなに美人なのに彼氏はいないらしい。

「どうしたの、何か悩みごと?」

そう、おまけに優しい。基本的には。

「…んーん。ちょっと眠くて」

愛想笑いを返す。
何故だか話す気にはなれなかった。
それはきっと、志村さんに対する劣等感のせい。

「月曜日だものね。一限目の国語、私も寝ちゃいそうだわ」

困ったように笑う志村さんは女のあたしから見ても物凄く可愛かった。
あたしもこれくらい可愛けりゃ、沖田くんに堂々とアタック出来たんだろうか。

鞄の中の荷物を机にしまい、志村さんは教室を出て行った。
そのすっと伸びた綺麗な背筋を見送りながら、またため息が口をついて出る。

「かっわいいなぁ…。なんか、きらきらしてる。輝いてるよね」
「そうね。私もすごく綺麗な子だと思うわ」

A子も同意した。

「でもアンタはアンタでしょ?」

あたしの心を見透かしたように、A子はあたしのデコにデコピンをかます。

「何ひとりでしょげてんの。まだ何にもしてないでしょうが」
「…うん」
「好きなんでしょ?本気で」

A子の問いに、あたしは深い頷きを返す。
好き。沖田くんが好き。
見てることしか出来ない臆病なあたしだけれど、この気持ちは本物だ。

「じゃあ、頑張らなきゃ。せめて顔見知りくらいにはならないとね」

まずはそこから、とA子が笑う。優しい笑顔に一瞬泣きそうになる。
頑張る、と返して、あたしも笑った。

それが、3ヶ月前の春の話。


***


あれから3ヶ月がたった。暑い日が続いて、明日から夏休みだ。

それからあたしの恋はというと、あっさりと終わってしまった。
突然に。それもすごくあっけなく。

あれから沖田くんと知り合いくらいにはなろうと、いろいろと努力はしたけれど、どれも実らずじまいだった。
あたしがちんたらとそんなことをしている間に、この恋に終了期間がきてしまったのだ。

告白したわけじゃないし、直接沖田くんに振られただとか、そんなんじゃないんだけど。
でもだからこそ余計に、失恋した実感がなくてぼんやりすることが多くなった。
だって、スマートフォンの画面に映る沖田くんは相変わらず格好いいし、あたしの身近なところでは、なんの変化もないのだ。

―――沖田くんに彼女が出来たらしい。

そんな噂が立ち始めたのは、つい1ヶ月ほど前のことだった。
最初は女の子と歩いているのを見たという曖昧な情報から始まり、相手は東高の女子らしいというところまできて、沖田くんの彼女があの志村さんらしいと特定されるに至るまで、そんなに時間はかからなかったと思う。

今は随分落ち着いたけど、一時はその噂で持ちきりだった。(何せ、東高一の美少女も絡んでいるのだから、男子も気が気じゃなかったに違いない。)

普段こういう噂には一切関心を示さない志村さんは、今回もその態度を崩さなかった。どれだけ陰でコソコソ言われようと、彼女の背筋はいつも通りぴんとしたままだった。

はっきりしない噂に痺れを切らした三年生のお姉様方が志村さんに真偽を問い詰めるまで、噂はふわふわしたまま校内中を走り回っていた。

そんなこんなで、一悶着はあったけれどなんとか噂は落ち着いた。

あたしはその噂を志村さんに確かめることも出来ず、かと言って沖田くんに会いに行く勇気も出せず、志村さんがお姉様方の質問にイエスと答えたこと以外には、その噂に関する確かな情報を持っていなかった。

あの噂は本当で、沖田くんには志村さんっていう素敵な彼女が出来て、あたしは見事に失恋してしまいました。ちゃんちゃん。

だなんて、頭でわかっていても、心が追いついていかないみたいだった。

最近流行っている失恋系のラブソングの歌詞にも似たようなフレーズがあったな、と机に突っ伏してぼぅっとしながら、あたしはまた無意識のうちにスマートフォンの中の沖田くんを見つめていた。

「こら。またやってんの?」
「あっ!」

職員室から戻ってきたA子が、呆れた声であたしの頭をはたく。スマートフォンを取り上げて、さっさとホーム画面に戻してしまった。消されるのかと思ってすごく焦ったじゃないの。

「…消さないの?」

A子の問いかけに、あたしはだんまりを決め込む。
はぁ、とため息をついてA子は机に頬杖をついた。

「まだ好き?」

あたしは答えずに、スマートフォンを握りしめる。

「…最近笑えてないよ」

心配そうなA子の声。やだなあ。あたしちゃんと笑ってるよ。失恋したのに、涙ひとつこぼしてない。ほんとびっくりだよね。もっと、ショックかと思ってたのに。

「…だって、実感がないんだもん」
「実感?」
「沖田くんと志村さんが付き合ってるっていうのはわかったし、疑ってもない。まだ頑張れるなんて思ってないし、期待なんか1ミリもしてない。でも、」

言葉を切ったあたしをA子は黙って待っていてくれた。
お守りのようにピンク色のスマートフォンを握りしめて、あたしはA子を見る。

「実感だけがないの。あたしの片思いはもう完全に終わっちゃったんだっていう実感」

A子の目を真っ直ぐに見返した。

「…さっきはああ言ったけど、もしかしたら、心のどこかで疑ってるのかも。あんな噂嘘に決まってるって」

頭に歌の歌詞が蘇る。

『♪〜諦めなさいと頭は言うのに、心がわがままを言うの。死んでしまった私の恋は、まだどこかを彷徨い続けてる』

歌の歌詞にこんなに共感できる日がくるとは思ってもみなかった。
あたしの恋は、死んだことにも気付かずに、きっとまだどこかをふらふらしてるんだ。

「…あとちょっと、時間が必要かも」

あたしがそう言うと、A子は何も言わずにあたしの頭を撫でた。今まで一番、優しい撫で方だった。
A子がいてくれて良かったと言うと、馬鹿ね、と今度はくしゃりと頭を混ぜられる。

「傷心中のアンタにプレゼント」

A子が差し出したのは、何かのチケットだった。それを受け取って、あたしは思わず叫びそうになる。

「っ、ダッツのチケット!」
「昨日もらったの。行くでしょ?」
「行く行く!もちろん!」

あたしの大大大好きなアイス屋さんの無料チケット。
一瞬、失恋の悲しみが吹き飛ぶ。
誇張でもなんでもなく、A子が神様に見えた。

「今日で学校も終わりなんだから、楽しいことだけ考えよ」
「うん!A子大好きー!」

現金な子、とA子は笑う。教室に先生が入ってきて、後でね、とA子は前を向いた。

視線を前に移すと、志村さんが目に入った。席替えで前の方の席になってしまった志村さんの背筋は、後姿もなんだかきらきらして見えて、相変わらず綺麗だった。


***


夏休みだ!とはしゃぐみんなにバイバイ、と挨拶を交わして、校門を出る。

宿題もたくさん出たけど、今はそんなこと気にしない。
夏休みの楽しいことを考えると、失恋の痛みが少し和らいだ。

A子と最近出来た雑貨屋さんを覗きにいって、お揃いのピンを買った。
夏休みにこれつけて遊びに行こうね、なんて言いながらウィンドウショッピングを楽しむ。

それから、待ちに待ったアイス屋さんに行って、ダブルフレイバーのアイスを注文した。
あたしたちみたいな学校終わりの制服姿の子たちで混み合った店内。大学生みたいなカップルや女の人もちらほら見受けられる。同じ制服の子も何組かいたけど知らない子たちだった。
ガヤガヤと騒がしい店内でなんとか2人がけの席を見つけて、2人で腰を下ろす。

「ふあ〜疲れた!座れてラッキーだったね」
「うん。結構混んでたから、座れないかと思ったわ」

歩き回って疲れた足を休めつつ、アイスにぱくついた。

冷たい。甘くておいしい。

幸せだなぁ、と思っていたら、幸せそうな顔、とA子に笑われた。

「可愛いってことよ」
「もう!馬鹿にし、て…」

あたしの言葉は尻すぼみになる。
A子が不思議そうにあたしの視線を追いかけて、はっとした顔になった。

「…沖田くん」

あたしたちが座ってる席の斜め前。
そこには、沖田くんと志村さんがいた。志村さんの顔ははっきりと見えなかったけど、あのぴんと伸びた背筋ときらきらした雰囲気は志村さんに違いない。
見慣れた東高の女子の制服に、西高の制服。普通の制服なのに、沖田くんが着てると100倍カッコ良く見える。

ここのお店は席と席との間隔が広いから、幸いそんなに近い距離じゃない。でも顔ははっきりと見える位置。

ちらりと志村さんの顔が見えて、やっぱり彼女はきらきらしていた。
幸せそうに笑う志村さんの横顔が眩しくて、あたしは目を細める。
向こうからはちょうど死角になっているのか、沖田くんの向かい側に座る志村さんは、あたしたちに気づいてないみたいだった。

心臓がドキドキと鳴り出す。
沖田くんが目の前にいる。

A子が心配そうにあたしの名前を呼んだけど、あたしは沖田くんの表情に釘付けだった。

何の話をしているかはわからないけど、沖田くんはすごく幸せそうに顔を緩めていた。
志村さんの方に手を伸ばして、志村さんが握るスプーンから強引に一口奪い取る。
その志村さんの反応を見て楽しんでいるのか、沖田くんは志村さんにまた手を伸ばして、優しく微笑んだ。
本当に優しい、見てるこっちが恥ずかしくなるような、甘い笑顔だった。

よく小説とか漫画で甘い笑顔っていう表現があるけど、きっとこういう顔なんだろうなって、初めてわかった気がした。

志村さんが好きで好きでたまらない。
そんな顔で沖田くんは笑っていた。
沖田くんの表情が、仕草が、志村さんが好きだと言っていた。

これは、あたしがずっと見たいと思っていた笑顔だ。

沖田くんは、そんな風に笑うんだね。
あたしが持ってる写真の沖田くんは、すごくクールでカッコ良くて、どんな風に笑うんだろうって、よく考えてた。
笑ったところを見てみたいなって、ずっと思ってた。

あたし、―――。

手に温かさを感じて、あたしははっと我に返る。
ごめん、と言おうとして声が詰まった。

A子が優しい顔でハンカチを出して、あたしの目に押し付ける。
じわりと何かが吸い取られた感じがして、驚いてハンカチをどけた。
ぽたりとテーブルに雫が落ちて、あたしは初めて自分が泣いていることに気がついた。

「…っあ、れ?」

なんで、という声は掠れて、嗚咽が漏れそうになる。
隣の席の人が、驚いたようにこっちを見たのがわかった。

A子は何にも言わない。
ただハンカチをあたしに渡して、アイスを食べていた。

溶けちゃったらもったいないなぁと呑気に考えて、アイスに手を伸ばす。
さっきあんなに甘かったアイスは、少ししょっぱかった。

沖田くん、沖田くん。
あたしね、沖田くんがずっと好きだったんだよ。ほんとだよ。

心の中で繰り返しそう呟く。

志村さんとすごくお似合いだね。びっくりしちゃうくらい美男美女カップルだよ。

あたし、沖田くんが笑った顔、ずっと見たかったの。どんな風に笑うのかなって、見てみたいなってずっと思ってた。

今日初めて沖田くんの笑顔が見られて、あたしすごく嬉しいの。
写真の中の沖田くんもカッコ良かったけど、あたしは今の沖田くんの方が好きだよ。

鼻の奥がツンとする。
堪えきれずに涙が溢れた。

「じっかん、っした…かも」

小さな小さな声であたしは言った。
A子はそっか、とまたあたしの手を握る。

「ご、めん」

もう大丈夫だから。
言葉に出来なかったけど、A子は汲み取ってくれたらしかった。

良かったね、頑張ったじゃん。
そう言って、A子は優しく笑った。

ほんとは、笑顔の先にいるのが、自分だったら良かったって思ってる。志村さんが羨ましくて仕方ない。

でも、でも、そんな顔の沖田くんを見たら、何も言えなくなっちゃうじゃない…―――。

手が暖かい。
滲む視界の中にもう一度沖田くんの笑顔を焼き付けて、あたしは震える手でスマートフォンを操作して、沖田くんの写真を表示させる。

見ていることしかできない、恋に恋してるような幼い恋だったかもしれない。何もできないまま、終わってしまった恋だったかもしれない。

―――でも、馬鹿みたいにはしゃいで、毎日沖田くんのことを考えて、あたしは幸せだったから。

消去ボタンを確認して、そのまま押した。『消去しますか?』のメッセージに、あたしは『はい』を親指で強くタップする。

ズキン、と胸の痛みが強くなる。
きっと、迷子になってたあたしの恋があたしの元に帰ってきたんだろう。

涙は止まらなかったけど、もう振り返らずに先に進める気がした。






(彼女のきらきらの理由を知った日)
(いつかそんな幸せな恋が出来たらいいと、そっと願う)




Title:エドナ



初めて銀魂キャラ以外の視点で書いてみました。分類は夢小説になるのかな?苦手な方はごめんなさい><
個人的には書いてて楽しかったです。土方さんと迷ったんですが、ここはやっぱり沖田さんで。お妙さんに恋する男のデレデレな感じを第三者的な目線で書いてみたくてやってしまいました。男性陣はお妙さんを目の前にすると、あっまーい!!!って砂吐きそうなくらいデレッデレになってるといいよ^^



2013.May



 

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