人それぞれの恋の仕方


「あ、お妙さん。なんか付いてやすぜ」
「アイスくらい俺が奢りやす」
「今日も迎えに行きやすから」
「大好きでさァ」

「ちょ、待て待て待て待てェェェェ!!」

「何ですかィ旦那」
「どうしたんですか?そんな大きな声出して」

きょとんとした表情で、沖田と妙が大きな声を上げた銀時を見た。
沖田の頭は妙の膝の上。妙は甘やかすように優しくその髪を撫でていた。

「ドエスコートどこいったァァァァ!!!??君の愛の形はドエスコートじゃなかったの!?キャラ崩壊してんじゃねェか!!」

付き合うことになったと妙から報告を受けて、銀時の頭にまず浮かんだのは妙に首輪つける沖田の姿だった。

妙に限ってと思ったが、沖田にかかればややもするかもしれない。

心配半分冷やかし半分で志村邸に行ってみれば、縁側で膝枕をしている妙。
完全に邪魔だとわかっていながらも隣に腰を下ろして茶を啜っていると、聞こえてきたのは沖田の甘い言葉の数々で、さすがにこれにはぎょっとした。

そして我慢しきれずに叫んだのが先ほどの台詞である。

「どえすこーと?なんですかそれ?」

聞き慣れない言葉に妙は首をかしげて、知ってますか?と沖田に問いかけた。

「さァねィ。俺も知りやせん」

しれっとそう答えた沖田に、銀時は眉をひきつらせる。
恋愛とまではいかなくとも、妙に対して少なからず好意はあったし、それなりに可愛がっていたのだ。それを知らない間にかっさらわれて、不満に思わないはずがなかった。

「いやいや、だって新八の文通の時もこないだのゲームのアレでも君彼女のこと服従させてたよね?ご主人様とか呼ばせて片膝つかせてたよね?」
「いやァ知りやせんでした。旦那がそんな趣味をお持ちとは。随分過激なプレイをお好みで」

妙の冷たい視線が突き刺さる。
変態、と目が言っていた。

「違うからァァァァァ!!!何で俺の趣味みたいになってんの!!?俺じゃないから!!コイツのだから!!!サディスティック星の王子さまだから総一郎くんは!!!」
「総悟です」
「お前も知ってんだろ!?ドSじゃん総一郎くんって。ドSっていうかもうSっていうレベルじゃ抱えきれないから彼のそれは!!」
「総悟です、旦那ァ」

目を覚ませお妙、と銀時は妙の目を見た。しかし、冷ややかな視線に怯んでそろそろと視線を逸らす。

「…銀さんがモテない理由がわかりました。そんな人だったなんて…。イヤラシイ」
「違うっつってんだろォォォ!!!話聞けェェェ!!」

新ちゃんにもちゃんと言っておきますから、と妙はにっこり微笑んだ。
だから違うっつってんだろ!と銀時は妙にまくし立てる。

「お前の為を思って言ってやってんだろうが!」「なんですか私の為って!余計なお世話です!」「はァ!?お前っとにかわいくねー女だな!!嫁の貰い手なくなるぞ!!」「何ですって!?マダオのあなたにそんなこと言われたくないわ!」「ギャァァァァ!!!」

よく周りから『夫婦の痴話喧嘩』と称される言い合いを繰り広げ、妙が銀時の襟首を締め上げて投げ飛ばした。
パンパンと手を払うようにはたき、着物の裾を正す。

一連の流れを見ていた沖田は、おもむろに立ち上がり、妙の手をそっと握った。

「お妙さん」
「はい、なんですか?」
「俺ァそろそろ行きやす。土方のヤローがうるさいんでねィ」
「あら、もう行ってしまうんですか?」
「寂しいんですかィ?」
「…もう、からかわないで下さい。お気をつけて。お仕事頑張って下さいね」
「お妙さんも。迎えに行きやすから、ちゃんと待ってて下せェよ」
「ええ。いつもありがとうございます」

沖田は微笑んだ妙を抱き寄せて、肩口に顔を埋める。

「行ってきやす」
「行ってらっしゃい」

去り際に妙の額に口付けをひとつ落として、沖田は背を向ける。
旦那、と銀時を呼んで志村邸を後にした。

***

「…なんだよ」

黙って歩き始めた沖田に、銀時が口を開く。
沖田はその声に立ち止まった。

「旦那はお妙さんが好きなんですかィ?」
「は?」
「答えて下せェ」

沖田は前を向いたまま振り向かない。
強く握りしめられた拳に目がいった。

「…好きだっつったらどうすんの?」
「どうもしやせん。ただ、旦那には渡さねェ。それだけでさァ」

抑揚のない淡々とした声。
銀時はじっと沖田の後ろ姿を見つめて、大きなため息をついた。

「…アイツは大事だよ。家族みたいなもんだからな。別にどうこうしようなんて思っちゃいねェよ」

銀時にとって、妙は帰る場所であり、支えてくれる人であり、新八や神楽と同じ、家族のような存在だった。守ってやりたいと思う。支えてやりたいとも思う。恋愛ではないが、大事な存在には変わりなかった。

「…ハッ、情けねェ」
「なにが?」
「旦那に嫉妬、したんですぜ」

沖田の言葉に銀時は目を丸くする。

「お妙さんも旦那のことは大事に思ってやす。俺にだって、それくらいわかりまさァ。お妙さんは旦那を信頼してる。言葉にしなくてもわかってる、そんな感じがするんでさァ」

拳にぐっと力が込められたのがわかった。
思ってもみなかった言葉に、なんと答えたものかと銀時は頭を掻く。

「俺ァお妙さんが好きでさァ。想われてる自覚もありやす。でも時々、旦那がうらやましくなるんでさァ」
「…総一郎くん」
「総悟です」

また旦那に下らねェ話しちまいやしたね、と沖田は頭の後ろで手を組んだ。

「好きでもねェ奴にあんな顔で笑えるほど、器用な女じゃねェよ、アイツは」
「…知ってやす」

そーかよ、と銀時は笑う。

「好いた人は大事にしたいんでさァ」
「ドエスコートより?」
「…初めてなんでさァ。お妙さんを目の前にすると、いろいろうまくいかなくなっちまう」

銀時は後ろから沖田を盗み見る。
赤くなっているのに気付いて、浅くため息をついた。

「サディスティック星の王子も惚れた女の前じゃ形無しってかァ?」

見せつけてくれるじゃねーか、と銀時はおかしそうに笑う。
うるさいですぜ旦那、と沖田が拗ねたように言った。

「あ、旦那ァ」
「なんだよ」

思いだしたように声を上げた沖田に、銀時は気だるげな返事を返す。

「お妙さんは俺が嫁に貰いやすから、ご心配なく」

不敵に微笑んで、銀時を振り返った。
目を丸くする銀時にそう言って、じゃあ失礼しやす、と沖田はそのままスタスタと歩を進める。

「クソ、当てられた…」

銀髪をかきながらため息をつく。

「…ったく、しっかり惚れてんじゃねーか」

銀時は苦笑して、泣かせたら承知しねェぞコノヤロー、と沖田の背中に小さくつぶやいた。






(ツッコんじゃいけない)
(恋は人を変えるのだよ!)






Title: a dim memory
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