恋してアイして
※3Z設定。付き合ってるふたり。
ENDという白い文字が画面に映り、しっとりとした音楽と共にエンドロールが流れ始める。
沖田はふうと息をついて、DVDのケースを手に取った。
レンタルショップで借りてきたそれは、今流行りのホラー映画で、最近レンタルが開始されたところだ。
怖いけど面白いと評判で、期待していたのだが正直なところイマイチだった。
まあこんなもんかと沖田は心の中で小さくため息をついてちらりと隣の彼女を見やる。
何かから身を守るように沖田が普段使っているタオルケットにくるまって、流れるエンドロールをじっと見つめていた。
(可愛いなァ…)
惚れた方が負けとはよく言うものだが、無機物のタオルケットをうらやましいと思ってしまう自分は、もうきっと相当やられているなと沖田は呆れたように、でもどこか嬉しそうに笑む。
妙と付き合いはじめてもうすぐ三ヶ月。
やっとの思いで呼んだ自分の家。
それなりの期待はあれど、初心な妙に無理強いをするつもりはなかった。
何より、自分だって初めてなのだ。なるべく痛い思いや辛い思いはさせたくない。
抱きたいかと聞かれれば即答でイエスと答えるが、今はまだ己の欲求よりも妙の方が大事だ。
(映画を見ている最中、理性が揺らぎそうになったのは否定しがたい事実であったとしても、である。)
よく堪えたと自分を褒めて、沖田は暗くなった外を見やる。
そろそろ帰してやるべきだろう。
両親が不在の時を狙ったのは事実だが、最初からがっつくほどガキではないつもりだし、妙を思いやる気持ちの余裕はどんな時でも持っていたかった。
「姐さん」
声をかけると、妙はびくりと肩を揺らす。
「なっ、何かしら?」
「そろそろ帰りやすかィ?」
「えっ!?」
「もう暗くなっちまいやしたし。送りやすぜ」
立ち上がろうとして、あの、と妙が困ったように小さく呟いたのに気付く。
姐さん?と呼び掛けると、ええと、とまた小さく呟いた。
「ど、どうしても、帰らなくちゃ、駄目ですか…?」
顔を赤くして、小さくそう言った妙に、沖田はフリーズする。
「…は?」
今彼女はなんと言った?
沖田は目をまんまるにして、妙を見つめ返す。
都合よく解釈してしまいそうになる頭に馬鹿野郎と喝を入れて、沖田は深呼吸をする。
「…ね、姐さん?すいやせん、もう一回頼みまさァ」
努めて冷静に、穏やかに、沖田は妙に問い返した。(心の中は大パニック状態である。)
妙は沖田の言葉に妙はますます頬を染めて、あ、あの、と小さく呟く。
「ごっ、ごめんなさい急にこんなこと!で、でも、今日は新ちゃんが家にいなくて…。だから、その…」
そこまで言って妙は沖田の顔を伺うようにそろそろと見つめた。
「…っ、」
(その目、狙ってやってんですかィ…っ!?)
今すぐ抱き締めて押し倒したくなる衝動を土方マヨスペシャル(通称犬のエサ)を思い浮かべることでやり過ごす。オェ、といろんなものが萎えて、効果は抜群だった。
少しばかり落ち着いた頭で、沖田はああそうかとあるひとつのことを思い出した。
「…そんなに怖かったですかィ?さっきの映画」
いろいろな思いを込めてため息まじりにそう言うと、案の定妙はびくりと肩を揺らす。
妙は幽霊やらお化けやら、そういった類いのものが苦手だ。
強がりで意地っ張りな妙のこと。
本当はこのDVDも嫌だったに違いない。
そういうわけじゃありません、と妙は言うが、うっすらと涙を浮かべた瞳でそう言われても、説得力などあるはずがなかった。
ああもう本当にこの人は、と沖田は込み上げてきた感情に少しばかり苛立つ。
クラスの誰よりも大人びているくせに、恋愛ごとには恐ろしく鈍感で少々夢見がち。
近藤を一発でKOさせてしまう恐ろしくも美しい彼女は、自分の見目の良さや魅力を分かっているようで分かっていないのだ。
(もうちょっと、警戒心ってもんを持ってもらわなきゃ困りまさァ)
(少しくらい意地悪したって構いやせんよねィ)
沖田はにやりと笑みを浮かべて、妙に向き直る。
「…泊まってってもいいですけど、意味わかって言ってんですかィ?」
「へ?」
ドサリ。
反転した妙の世界。視界いっぱいに沖田の真剣な表情が映った。
「何されても文句は言えねェってことですぜ?」
いつもより一オクターブ低めの声が妙の耳に響く。
ワンテンポ遅れて状況を理解した妙がこれ以上ないほどに赤くなった。
「好きな女が目の前にいるんだ。何もしない保証はありやせんぜ。それでも、いいんですかィ?」
「っ、え、あ、あの…っ」
顔を真っ赤にしなうろたえる妙を見て、沖田は苦笑する。
照れ隠しか何なのか、飛んできた拳を受け止めて、それをゆっくりとほどく。
「妙」
"姐さん"ではなく、あえて妙と呼んだ。
その名に反応して妙が体を揺らす。
ほどいた拳に指を絡めて、手の甲にちゅ、とリップ音を立ててキスをした。
「っ、」
「ほら、こっち向きなせェ」
自分でも驚くほど優しい声が出て、くすぐったい気持ちになる。
「ず、ずるい…」
「何が?」
「こんな時に名前で呼ぶなんて…っ!」
ずるいわ、ともう一度言って妙はぎゅっと目をつぶる。
瞳の端からこぼれた涙を舐め取って、体を震わせる妙を宥めるように額にキスを落とした。
妙、と名を呼ぶと瞳がゆっくりと開かれる。
「ほんとは今ここで襲っちまいてェけど、」
不安げな妙の瞳をのぞきこんで、ああもう、そんな顔しないで下せェ、と優しい声音でそう言った。
「今日はこれで我慢としやしょうか」
妙の唇に触れるだけのキスをして、沖田はいたずらっぽく笑う。
「今日は、何もしやせん。あ、でも、添い寝くらいは許して下せェよ?」
「っ、あ、のっ」
「はは、姐さん顔真っ赤ですぜ」
ぱっと体を離して妙を抱き起こした。
潤んだ瞳の妙に笑いかけて、すいやせん、と困ったように笑う。
「ちょっと意地悪が過ぎやした。ああ、ほら。髪もぼさぼさ。サラサラヘアーが台無しですぜ?」
くしゃりと髪を撫でる沖田。
沖田くん、と妙が小さく呼んだ。
心臓のドキドキが治まらない。妙はぎゅっと手と手を握り合わせる。
髪を触る沖田の優しい手。
なに?と返された声の甘さに、妙は何故だか泣きそうになった。
「…幸せってこういう気持ちなのかしら?」
「え?」
なんでもないの、と妙はゆるゆると首を振って、沖田の胸に身体を預ける。
びくり、と今度は沖田が身を固くした。
「…姐さん?」
「私、沖田くんが好き」
「え、」
ぎゅ、としがみついてくる妙を沖田はドギマギしながら抱き締め返す。
「…ごめんなさい。うまく言えないの。でも、」
好きよ。
消え入るほど小さな声でそう言って、妙は柔らかく笑った。
跳ねたのは沖田の心臓。
顔に集まる熱とどんどん早くなる鼓動に焦りながら、沖田は腕の中の妙を強い力で抱きすくめる。
「…っ、とにもう…っ!勘弁して下せェよ…っ!」
「お、沖田くん?」
「あー、もう姐さんのせいだぜ。もう絶対離してやんねェ。姐さんは俺のもんだ」
「沖田くん、」
「…好きでさァ。もう、どうしようもねェや」
余裕などあるはずもなく、 沖田は耐えるように目をとじた。
「大事にしやす。これから先、最期まで」
震える声で告げられた言葉に妙は目を丸くして、はい、と嬉しそうに頷いた。
(もう君しか見えない)title: a dim memory
Yu-kiさまへ捧げます。実は旧サイトで相互記念としてリクエストいただいた作品でした。しかし遅れに遅れてこんな時期に…。本当に申し訳ありません><。Yu-kiさまのサイト改装お祝いとして押し付けます←
「3Zで幼馴染設定沖妙」とのリクエストだったんですが、幼馴染ど こ い っ た。
幼馴染の部分は恥ずかしながらイラストで補填させていただきました…;気に入っていただければ嬉しく思います^^これからもよろしくお願いします。
2012.December
[
back]