爽やかにきられたゴールテープ


爽やかな秋晴れの空の下、スタートを告げるパァンという銃声が響いた。
一斉に上がる応援の歓声。

『さぁ!今一斉に走者が走り出しました!先頭行くのは何組でしょうか!?』

体育委員の実況中継がグラウンドに流れる。

銀魂高校にも高校三大行事のひとつ、体育祭の時期がやってきたのだ。

『走者は全員3Zクラスだァァ!問題児が多いとされるこのクラスですが、さすが、運動神経はいいようです!速い!しかし誰も先を譲らない!』

走者が4人とも3Zの生徒なのはクラスごとではなく、三学年を縦割りで割り振った色分けのせいである。

赤色のハチマキを巻くのは、女子に絶大な人気を誇る土方十四郎。
白色を背負うのは土方と人気を分ける沖田総悟。
青いハチマキをしっかりしめて、必死で走っているのは地味さ際立つ山崎退。
黄色に属するは校内一の不良と恐れられる高杉晋助。

4人ともほぼ同じラインに並んで併走している。肩にはそれぞれアンカーのたすき。
目指すのは前方に見える机上の紙だ。

そう、これはリレーではなく俗に言う借り物競争である。
しかし、ここ銀魂高校では一風変わった競技が行われるのだ。
借り物ではなく、借り『人』競争。
その名の通り物ではなく人を借りてくる競技である。
紙に書かれている内容はというと、メガネの人というありきたりなものからお約束の好きな人まで多種多様だ。
中にはとんでもないものもあるらしく、みんなこの競技にはあまり出たがらない。
けれど毎年お調子者はいるもので、つつがなく競技は行われている。
3Zの面々は組ごとの会議に欠席したため、勝手にエントリーされたのだ。

ちなみに、校内一の不良と言われる高杉が体育祭という学校行事に参加しているのは、同じ黄色組に『3Zの姐さん』と呼ばれる人物の存在があるせいである。

そうこうしているうちに、4人とも机にたどり着いた。
一斉に目の前にある紙を掴む。
中身を確認して、全員固まった。

『おぉ!4人ともほぼ同時に紙を取ったァァ!さぁ!何が何書かれていたのか!?』

「「「「…………」」」」

お互いをちらりと見やって、全員同時に走り出した。
向かう方向は同じ。
目指す人物は、ひとり。

『目的の人物を探しに行くようです!ん?みんな同じ方向に向かっていますね〜。ということは、目的の人はみんな同じということでしょうか?』

「何だ総悟っ!ついてくんじゃねェよ」
「俺もこっちに用があるんでさァ」
「あ、俺もです」
「……」

互いに睨み合いながら進む先を、周りの生徒は期待を込めた瞳で見つめていた。
借り人競争はリレーよりも注目を集める競技と言っても過言ではない。
『誰が何と言われて誰を借りてくるのか』みんなの関心事は専らそこだった。
しかも、今この競技の出場者は全員3Zの生徒。うち二人は女子の人気を二分するイケメンだ。
地味なのもひとり混じっているが、校内一の不良が借りてくる人物も気になるところである。

応援席の生徒たちは固唾を飲んで競技の行方を見守っていた。

「志村!」
「志村さーん」
「志村さんっ!」
「…妙」

4人がたどり着いた先には、チアガールの衣装着た『3Zの姐さん』こと志村妙。
その可愛い姿に4人とも少し頬を染めた。
呼ばれた妙はきょとんとした表情で4人を見つめ返す。

『おっとこれは!4人とも同じ人物が目的だったようです!その紙には何が』

「「「黙れ」」」

ノリノリの実況中継者に向かって、土方、沖田、高杉の3人はドスの効いた声で言い捨てた。
黒いオーラに気圧されて、実況中継をしていた生徒も口をつぐむ。
あの3人に目をつけられたら高校生活を安寧に過ごすなど不可能だ。

「志村、俺と来い」
「何カッコつけてんでィ。死ね土方コノヤロー。志村さん、俺と一緒に来て下せェ」
「志村さ」
「妙ェ、来い」

差し伸べられる4つの手に、妙は目を見開いた。

「まあ。みんな同じなの?」

頷く4人に妙は困ったように眉を寄せた。

「困ったわねぇ。私はひとりしかいないのに」

どうしようかしら、と呟く妙は言葉とは裏腹に楽しそうだ。

「志村っ」

痺れを切らした土方が妙の手を引いた。
それに反応した残りの3人が一斉に土方に襲いかかる。

「テメッ、山崎ィ!何しやがる!」
「すっすみません!でも俺だって譲れないんです!」
「ザキィ、テメェいい度胸じゃねェか。俺たちを差し置いて何が譲れねェんでィ」
「えっ、いやあの…」
「「死ねザキィィィィイィッ!!!」」
「ギャアァァァァアァ!」

繰り広げられる妙争奪戦に応援席も盛り上がる。
走者の目的の人物が4人とも被るなど滅多にないが、被ったら争奪戦になることは必至。
それが『好きな人』だった場合、尚更だ。
ここまで食い下がるということは、4人ともそっちの系統の紙を引き当てたのだろう、と誰もが思った。
こうなれば誰かひとりが勝ち残るまで競技は終わらない。
これが借り人競争の醍醐味だった。

「アネゴ!」
「神楽ちゃん」
「飲み物買って来たネ。こいつら何やってるアルか?」
「ありがとう、神楽ちゃん。これは、」
「ん〜?俺の妙を奪おうなんて一千億年早いよ。そういうことなら俺も混ぜてくれないと」
「あっ、馬鹿兄貴!何言ってるネ!アネゴは私のものネ!」
「姉さんが誰かの物になるなんて僕はまだ認めないから!」
「「黙れシスコン」」
「何々〜?志村姉の取り合い?」
「お妙さァァァアァァん!」
「お妙ちゃんは僕のものだ!」

競技に関係ない者や果ては担任教師まで乱入し、始まったのは大乱闘。
体育祭という空気もあって、周りの生徒たちもそれをはやし立てる始末。
借り人競争は収拾のつかない状態になりつつあった。

当事者の妙は拳をにっこりと笑っている。その後ろには般若が見えた、というのは嘘ではないだろう。
妙が怒鳴ろうとした瞬間、ぐいと誰かに引き寄せられてバランスを崩した。

「きゃっ」
「黙ってろ」

見上げると眼帯をした黒髪の少年。
驚く妙をそのままひょいと横抱きにして、ゴールへと走り出す。

「…高杉くん」
「何だよ」
「ふふっ、何でもないわ」

嬉しそうに笑う妙に口元を緩めて、高杉はそのままゴールテープを切った。

それに気付いた実況中継の体育委員がマイクを握りしめて競技終了の合図を出す。

『ゴォォォォォルッ!大乱闘と化す争奪戦をくぐり抜け、彼女を勝ち取ったのは黄色組だァァッ!』

その声に、乱闘していた3Zの生徒は動きを止める。
ゴールの向こう側にいるのは、涼しげな顔で1と書かれた旗を握る高杉。
その隣には楽しそうに笑う妙。

「あ、れ?」
「高杉の野郎…」
「チッ」

競技出場者のみならず、3Zお馴染みの面子からの殺気のこもった視線を受け流し、高杉は妙の肩を抱き寄せる。
その耳元でそっと囁いた。

「約束は守ったぜ」
「え?」
「何でもひとつ、言うこと聞くって約束だったなァ」
「……」
「ククッ、期待してるぜェ」

妙の顔が赤く染まる。
その瞬間、高杉の方へ椅子やら槍やらあらゆる物が飛んできた。
慣れた動作でそれらを避けながら、高杉はグラウンドを後にする。

去り際に握らされたくしゃくしゃの紙切れを妙はそっと開いた。
そこに書かれた文字に、妙はまた頬を赤く染め上げた。


『一番大事な人』




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