※サイトOPEN4周年記念小説。

  黒子のバスケ、黒子成り代わり、幼なじみパロ、赤司寄り。

  2014.04.01 (Tue)




April Fool

エイプリルフール



ガチャン。手から離れた湯飲みは、それほど高い位置まで持ち上げられていなかったおかげで無事にテーブルに着地した。

無傷の湯飲みとは対照的に、余裕な表情を滅多に崩すことがない赤司は些か精神的ダメージを負っているようで動揺を隠し切れていない。

「…そんなこと、僕が許さない。」

『許すも許さないも、もう決めたことですし。』

「何故だ。…そうか、不満があるんだな。日当たりか?それとも広さか?」

『最上階で南向きの5LDKに不満なんてありませんよ。強いて言うなら掃除が少し大変なことくらいですかね。』

「ルンバ2、3個買ってくる。」

『待って下さい。冗談ですよ、冗談。本気にしないで下さい。』

「じゃあ何故だ。どうして急に1人暮らしをするなんて言い出したんだ。」

そう。赤司にとって唯一無二の目に入れても痛くない大事な大事な2つ下の幼なじみが、唐突に家を出て行くと言い出したのだ。

赤司と黒子の両親は大変仲が良く、2人は幼い頃から何かと一緒であった。幼稚園、小学校、中学校、そして高校も然り。当然、大学も同じだと信じて疑わなかった赤司はまだ高校生の黒子を連れて、早くも2人暮らしを始めたのだ。いくら幼なじみと云えども、年頃の娘と男が一つ屋根の下など…

しかしマイペースで天然な黒子の両親は「征十郎君だったら安心だな。」「そうですねぇ。」と二つ返事で快諾。全て赤司の目論見通りとなった。…が、

『僕、征君と同じ大学には行きません。』

信じて疑わなかった筋書きは、黒子の一言でガラガラと音を立てて崩れ去った。

「な、何故…」

『やりたいことがあるんです。帝光大学にはそれに適した学部が無いので、誠凛大学に行くことにしました。』

「そんなっ…なら僕がお前のために新しい学部を!」

『無茶言わないで下さい。そんな私情で権力の無駄遣いをしても他人様に迷惑をかけるだけです。』

「だが…!」

『征君に僕を止める権利はありません。』

ピシャリと言われてしまった。控え目で大人しい彼女だが、その見目とは裏腹に中身は九州男児もびっくりの男前であり、そして頑固だ。1度こうだと決めたら最後、彼女の意志は揺るがない。隕石が落ちても、揺るがない。

威厳も覇気も剥がれ落ちたボロ雑巾のような赤司が顔を上げた時、視界の隅にカレンダーが映った。その瞬間、目に飛び込んできた今日の日付。

「そうか!今日は4月1日、エイプリルフール!つまり今の話は全部嘘っ…」

『なわけないでしょう。』

ビリィ!1日の紙が勢い良く破られた。

『捲り忘れてました。よって今日は4月2日です。』

赤司征十郎、運命の残酷さを知った、二十の春。



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「僕は、お前は文学部か教育学部に進むとばかり思っていたんだが…」

『そうですね、確かについ最近まではそう考えていました。でも僕が本当にやりたいことは違うんだって気付いたんです。』

「…何をやりたいのか聞いてもいいかい?」

『アイドルです。』

「えっ」

『アイドル。』

「(絶句)」