昔々のある満月の夜、荼吉尼族の男と辰羅族の女の間に子供が生まれた。しかし種族を超えた愛の結晶が祝福される筈も無く、両族の長達によって取り上げられてしまう。異変が起きたのはその時だった。ザワザワと風が吹き始め、黒雲が月を覆い隠し、そして雷鳴が轟いた。稲妻は今にも川に投げ込まれそうだった赤子に落ち、その赤子を別の世界へと攫っていった。 「その後のことは分からないけど、きっと親切な老夫婦にでも拾われたんじゃない?それで数十年の後、何の因果か再びこの世界に戻って来たってわけだヨ。」 「…それが愛の母親なのか?」 「そう。つまり愛の母親はただの異世界人じゃなくて、荼吉尼と辰羅の血を持つ異世界で育った天人だったんだ。俺が何を言いたいか、鋭いお侍さんならもう理解出来たダロ?」 「・・・」 「三大戦闘種族の血を全て受け継ぐ最強最悪な禁忌の存在、それが愛だよ。」 ガラガラと音がしたかと思うと、元の姿に戻った愛が砂煙の中で俯いていた。 「愛、お前っ…」 「大丈夫?愛。急に殴ってごめんネ?ああでもしないと止められそうになかったから。」 『あたし、銀を…』 「違う!お前は何も、」 「そうだよ。愛はお侍さんに刃を向けた。殺そうとしたんだヨ。」 『っ、』 「あれはお前の意思じゃない!そいつの言葉を聞くな!」 「一緒に帰るよね?愛。」 「愛っ!」 『あたし…』 何故だかその先は聞いてはいけないような気がした。嫌な予感に限って当たる。 『あたし…神威の所に帰る。』 紡がれた言葉は、望んでいないものだった。 別離 --------------------------- 『短い間だったけど、本当に楽しかった。あたしなんかを拾ってくれて…ありがと。』 始めて見た泣き顔に、俺は声も言葉も出せなかった。 Back |