その執事、喜色 



『セバス。』

自分を呼ぶ声に振り向くと、かなりの距離を走ったに違いない夢が息を乱すことなく立っていた。

『エリザベス様は御屋敷に送り届けて、シエル様は安全な場所にお連れしたわ。』

「ご苦労様です。」

私に倣って物陰から様子を窺う。ファントムハイブの屋敷を選んだ愚かな侵入者は9人。あまりの軽率さに呆れる。さ迷った視線は夢を対象にして止まった。

「…」

『…何?じっと見て。』

「いや、日本に行った甲斐があったと思いまして。」

『ん?』

「こんな優秀な人材が埋もれているとは。」

至極楽しそうに悪魔らしい笑みを浮かべる私に向けられる視線は氷のようだ。坊ちゃんの無理難題な命令に付き合うのは中々骨が折れるもの。自分が2人居れば良いのに、と幾度と無く願ったが所詮それは叶う筈もない願い。そこで目を付けた異国、日本。目論見通り、その島国にはダイヤの原石が眠っていたのだった。

『ただの死がないフリーのボディーガードだけど。』

「暗殺も手掛けるでしょう?」

『…仕事の幅が広かったのよ。』

「重鎮の方々からも随分重宝されていたようですね。能力も悪魔に引けを取らないですし、私の理想のパートナーですよ。」

『それは光栄だこと。』

謙虚で慎ましい傾向にある日本人だが、夢も例に漏れること無く、驕り高ぶるなんて様子は見られない。子犬のような従順さは無いが、番犬のような忠実さはある。そういう部分もとても好ましい。

「…首輪でも付けましょうか。」

『え?何か言った?』

「いいえ、こちらの話です。」

『余所見もそろそろ終わりにしましょ。さっさと片付けて、シエル様におやすみ頂かないと。明日も朝早いのだから。』

「ごもっともです。」

『殺し損ねがあったらよろしく。』

言い終わるや否や、日本刀片手に音もなく飛び出した夢の足元に出来上がった9つの死体。自分の出る幕が無いことに、本当に良い掘り出し物を見つけたものだと自らを褒め称えた。



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『シエル様を迎えに行ってくるわ。ソレ、後で掃除するから。』

「私がやっておきますよ。適当に燃やすだけですし。」

『そう?じゃあお願い。』

「お任せを、My partner。」






     

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